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何故私は逆転裁判4を楽しめなかったか

私と逆転裁判との出会いはちょうどDSに逆裁1~3が次々とリメイクされた時期です。DSの購入と同時に1の追加リメイクDS版である蘇る逆転を購入してはまりました。元々アドベンチャーゲームが好きで弟切草とかかまいたちの夜とかもプレイしていたのですが今までにはないゲーム性に夢中になりました。

そんな私がリメイク版に手を出したすぐ後、満を持して新発売されたのが2007年「逆転裁判4」(以下逆裁4)なのです。

なぜこんな事を急に書きはじめたのかというと上記記事を見て当時の心境が甦ったからです。

まず前提として私は逆裁4を楽しめなかったユーザーです。その理由は色々あります。10年たちその当時だけでは分かりえなかった色々な事情を知った今だからこそ振り返えることもできる。そういうこともあるという、それを覚えておくための備忘録です。できるだけ冷静に「私が」楽しめなかった原因を記述します。

とても長いし、ストーリーネタバレオッケーを前提に語りますので注意。


◎そもそも逆裁1~3とはどういうゲームだったか

システム的にはなんら奇をてらう事のない一本道のアドベンチャーゲームなのですが、逆裁が画期的だったのは推理して証拠を集め、法廷でバトルするという要素。

今までのアドベンチャーゲームと言うのは選択肢を選ぶという事だけが能動的要素で基本的に受動的要素(ストーリーを読まされる)の強いゲームでした。そこに法廷でバトルするという要素を加えたことで物語に積極的に参加している感覚を味わえるのが逆裁に私が感じた最大の魅力です。

主人公になり弁護士として立ち振る舞い物語を動かしているかのような万能感。逆裁の元々の魅力はこのゲーム性ありきなのです。ストーリーやキャラというのはこのシステムを引き立てるために作られました。

初代主人公成歩堂を設定するにあたり最も気を使っている部分が「プレイヤーの分身であるという事」です。誰も見たことのない新しいゲームシステムの案内人となりゲームマスターである我々を自然な形でゲームに入り込ませるためのアバター。それが初期成歩堂のコンセプトなのです(ここら辺の事は初期の攻略本やムックのスタッフコメントなどからわかります)。

成歩堂には詳しい家族構成や誕生日、血液型などは設定されていません。分かるのは年齢と弁護士であることと、どうやら一人っ子であるっぽいこと、大学時代演劇を専攻していたということくらいです(しかも演劇の事は成歩堂シリーズラストの3になるまでは全く出てこなかったので実質年齢と弁護士だけとも言えます)。

成歩堂は元々アバターによくあるタイプの無個性主人公を目指していたわけです。だからこそ個性に繋がる情報は極力消去していました。容姿に関しては結構特徴的ですがあれはカプコンゲーム主人公のアイコンみたいなものですよね。

「プレイヤー=成歩堂」は割と徹底していてだからこそ成歩堂が証拠を集める探偵パートでは成歩堂の姿は一切ゲーム画面に出ません。キャラの絵は裁判のシーンにしか出てこないのです。このゲームは成歩堂一人称で楽しむものでした。だからゲームプレイヤーの数だけ色々な成歩堂が存在し、皆の中にそれぞれの成歩堂像が出来ていったのです。

◎個性の確立と一人称ゲームの終焉

しかし無個性なアバターであり典型的熱血主人公のアイコンであるべき成歩堂は、実のところ1の頃から結構独特で強烈なキャラクターでした。これはライターである巧氏の個性が端々ににじみ出た結果であり、ある意味怪我の功名的なものです。

一見正義の好青年に見える成歩堂ですが端々に新人とは思えぬふてぶてしい発言がありますし、特に1の最終章の御剣を助けようと奔走するところは圧巻。被告人の御剣に異常なまでにこだわり自分の中の理想の御剣から現実がそれていくのを良しとしない弁護ぶりはもはや常軌を逸しています。

依頼人の御剣が「自分がやったかもしれない」って言ってるのに「ぼくはそんなの信じてない」って言いだした時は「コイツは一体何を言ってるんだ?」って呆然ですよ。とにかくこの男自分の中の真実しか信じていません。本当の事は自分の中にしかない男。それが成歩堂です。この瞬間私は成歩堂が大好きになったのです(言い忘れましたが私の逆裁の最推しは成歩堂です)。

結果、成歩堂を中心とした個性的キャラクターの魅力も逆裁のゲーム性と共に評価され大きなキャラ人気を得るに至ったのです。そのキャラ人気はシリーズを重ねるごとに大きくなりいつしか本来のゲーム性の魅力と肩を並べるほどになりました。

多少ストーリーに穴があったり無理のある世界観でもこのキャラクター性により大いにカバーできた部分はあります。好きなキャラを助けたいという思いがあればご都合主義も奇跡になりますから。

しかしそれと同時に主人公である成歩堂が徐々にアバターから物語の主人公として独立していく中で段々と成歩堂一人称で物語を見つめていく事が難しくなっていきました。私が成歩堂の言動に一喜一憂するたびに「成歩堂=プレイヤー」の図式が徐々に崩れ段々と逆裁は三人称的視点で俯瞰的にストーリーを楽しむゲームに変化していったのです。特に3はその片鱗が随所に見えます。

ようするに成歩堂一人称でこのゲームを続けていく事には限界が近づいていたんですよね。ですからギリギリのところでフィニッシュし世代交代をしようといったん3で完結を迎えることになったのは英断だったと思います。

2までは単なる水先案内人であった成歩堂自身の人生によりフォーカスを当て成歩堂のゲームキャラとしての人生を完結させるための作品が3であったと私は感じています。これ以上ないくらいそれは成功し、個性を得てアバターではない一キャラとなった成歩堂の総決算として華麗にフィナーレを迎えたのです。

◎変わらないキャラたちと変わっていくゲーム性

アドバンス時代の1~3の頃までの逆裁というのはいわゆる知る人ぞ知るかくれた名作。それが普及台数の多いDSにプラットフォームを移して爆発的ヒットしました。押しも押されぬ看板ゲームに成長した逆裁。それだけにDSでの新作となる4には「大作感」を出さなければというプレッシャーが大きく、スタッフはそれを切実に感じていたようです。

逆裁のうりというのは元々その斬新なゲーム性に有ったのですが、そのゲーム性に乗っかる形で上手くキャラがはまり魅力が多重的に広がりました。それが1~3の成功の一要因だったと私は思っています。あくまでキャラやストーリーは副産物なのです。

しかし1~3までの個性的キャラが思いのほかもてはやされてしまった事から当然新シリーズにもそれが期待されてしまいます。しかも今までと同じことはできません。

そこで新スタッフへの橋渡しという事で逆裁1~3ライターの巧氏がそのまま叩き台としての4を作り新スタッフへ引き継いでいくという形になりました。そして旧シリーズの成歩堂を新シリーズにも登場させるようお達しが下るのです。これはいわゆる「保険」だったのですが、結果としてこれが4の歪みを生み出すことになったのではと感じています。
(追記:成歩堂を急遽ねじ込むことになったため本来別人であった1話のやさぐれピアニストの設定を成歩堂にそのまま流用したという事がスタッフ対談で述べられています)

成歩堂は我々が気持ちよくゲームする為に生み出された主人公です。このゲームでの爽快感とはすなわち敵である犯人を叩きのめし完膚なきまでに粉砕すること。その為成歩堂の言動は客観的に見ると少しばかり傲慢でもあったりします。3の「逆転のレシピ」で勘違い証人である豆のおじさんに対して容赦ないツッコミを浴びせたのも記憶に新しいです(いや新しくないけど)。あそこまで言わんでええのでは……と思うくらい証人や被告人を攻撃する成歩堂は生き生きしてますし時にやりすぎってくらい暴走もしています。

しかしながらそれでも一般的な成歩堂の評価って「熱血で正義感の強い弁護士」なんですよね。それはあくまで「成歩堂=プレイヤー」だからなんですよ。ゲーム中でプレイヤーたる自分が行う事は何がなくても正義です。主観的にゲームをプレイしてる時には分からない事なんですよね(もちろんふとした時に気づくこともありますしそう言う成歩堂も自分は好きです)。

しかし4の彼は主人公ではありません。客観的に俯瞰される完全な他人です。いままで見えなかった部分まですべて見えてしまいます。探偵パートでもしっかり姿が現れますし。

これが思いのほかいけませんでした。ゲームシステムに合わせて作られた成歩堂の個性はわき役としては最悪でした。ガラスの仮面で一人空気を読まない演技をするゆえにわき役だと目立ちすぎてしまい周囲から浮いてしまった序盤の北島マヤ状態です(この例えが分かる人は私と握手)。

だってそうでしょう? 主人公たるオドロキ君の事をちっとも信じてくれず自分の思うがままに行動し失敗したらこれ見よがしに馬鹿にしてくるマイペースな脇キャラとか愛せません(あくまで私は)。配役ミスに感じてしまったんですよね。

しかも脇に回ったことで逆に今までの主人公制約が外れ無敵状態になった成歩堂は手の付けられないただの暴君になってしまいました。本来ならその性能に合わせてキャラの性格や出番有無を調節しなくてはならないところをかつてと同じ状態でぶち込んだのが最悪の食い合わせになったのです。

よく逆転裁判4では成歩堂の性格が変わりすぎと言われますがその点に関しては私はそんなに不満には思っていません。いくつかの「これはちょっと違うのでは……」という点はありますけど割と成歩堂ちゃらんぽらんなとこあるし弁護士になったのも正義感と言うよりは成り行きだったし。8割くらいは納得してます。

しかし逆裁4はあくまで新シリーズ。成歩堂の出番などほんの少しで良かったはずです。キーパーソンでなくあくまでにぎやかし。その程度で良かった。そもそも成歩堂を終了させる儀式は3で終わっているんです。なのに無理やり続投せざるを得ないような設定にどうしてした!? この物語はすでに成歩堂のものでないので演じれば演じるほどぼろが出るのは必然です。

しかも魅力的なストーリーを作ろうとするあまり4以降の逆転裁判と言うのはかつての一人称ゲームではなく三人称で俯瞰的にストーリーを楽しむゲーム性にいつしか変容していたと感じています。どういうことかというと4の主人公であるおどろき君はかつての成歩堂のように「主人公=プレイヤー」な存在になりきっていないと感じるのです。

一体化しきれないいらだちに加えちょくちょくストレスのたまるちょっかいを掛けてくる成歩堂親子にまるでいじめられているかのようなおどろき君を客観的に観察する羽目になるのが辛い。もちろんこれは私の主観で人によっては微笑ましい親子ごっこにも映るのでしょうが1~3の主観的視点でのゲームに慣れきっている旧プレイヤーにとってはどっちつかずで物語に入り込めないのです。

そもそも成歩堂とみぬき二人がかりでバカにしてくるのが嫌です。せめてパートナーであるみぬきがおどろき君の事をもっと積極的にかばってくれたなら成歩堂が憎まれ役となりおどろき君の魅力を高めるのに貢献することもできたでしょうがみぬきちゃんどこまでいっても「パパ(成歩堂)>おどろき(プレイヤー)」だからもはや完全に私の中ではみぬきは敵でしたね。

もっといえばみぬきちゃん「弁護士<マジック」だからさ……。ふざけんなって正直何回か思った。みぬきだけでなく4になってからの新キャラと成歩堂の個性の組み合わせはあまり好きじゃないです。思えば旧シリーズのアシストキャラである真宵ちゃんは成歩堂の傲慢さを覆い隠すのにかなり一役かっていのですね。彼女が成歩堂のマイペースをいさめ時に成歩堂より先に暴走することで成歩堂の強烈さを覆い隠す効果がありました。アシストキャラはプレイヤーとアバターの橋渡しであるべきじゃないかなぁ。無理に真宵との差別化をしようとして失敗した部分だと思ってます。

とにかく4になって新しくなった部分に合わせてキャラを作り込む作業を怠ったったとしか思えない。おかげでおどろき君は最後まで主人公になりきれずプレイヤーは完全に流されるテキストを読むだけ。4って推理パートもとても簡単なのであまり考えることなく正答がぼんぼん出せるのも流れ作業感を助長します。その割には時系列が前後する最終章ストーリーは分かりにくいしすべての組み合わせが負のコンボを決めつづけています。

逆転裁判の最大の魅力である「能動的に敵をやっつける快感」が失われた結果かつてもてはやされた個性はただのうっとおしい枷になり、奇跡は単なるご都合主義へと凋落したのです。これは制作スタッフ(おもにライターさん)がこの作品の魅力を勘違いしていた為だと私は考えています。かつての成功体験を脱却しきれなかったのでは、と。

ストーリーをメインにしたいならキャラはかつての方法論とは違う形で作るべきだし、1~3までのような没入感のあるゲームシステムを目指すらならキャラやストーリーはそれに沿わせるべき。両方のいいところ取りをしようとしてどっちつかずになった印象です。巧氏は優れたライターさんではあるんですがあまり多くの事をこなせる器用さはないと(あくまで個人的に)感じています。好きな物しか書けないタイプの作家さんだなって。

◎冷静な私は置いといて感情的な不満点もある

とまあここまで割と冷静に4の失敗と思える具体的部分を指摘しましたが冷静じゃない部分も少しぶちまけさせてほしい。

基本成歩堂の性格は変わっていないと言いましたがただ一つここは変えてほしくなかったと思うところもあるのです。

私としては成歩堂の一番好きな所は何があっても自分自身の正義を信じているところで若木のようにまっすぐにすくすくと歪んでいるところなんですよね。成歩堂が白と言えば黒いものでも白になるという。そういうゲームとかアニメの主人公じゃなきゃ付き合いたくないっていうようなところが大好きなんですよ。

そんな成歩堂がさ。あんなしょぼくれたクレイジーじじいにだまされたくらいでなんだか自分の中の成歩堂ワールドさえ信じてない感じなのが嫌だ。捏造証拠使った一件も、成歩堂ならそんなみえみえの偽悪的な態度を取るまでもなく心から自分の言動を正義と疑ってなかったろ! とは思うのです。悪いことしたけど目的の為だからしょうがないよねっていう感じの4の成歩堂にはちょっと違和感がある。真実は○○だからこれは間違ってないくらいが私の中の成歩堂だ。もちろん異論は認める。上記した通り皆の心の中に作り上げてきた成歩堂は幾千通りもあるから仕方ないんだ。

みぬきを引き取ったことについては成歩堂ロリコンの気があるから仕方ないかなって思うけど不満は大いにあるぞ。ロリコンと言うと聞こえが悪いが成歩堂はかつての学級裁判でのトラウマから虐げられてる存在に対して相当に敏感なので弱きもの小さきものに過剰反応する傾向があると思っているんだ。それゆえに幼き存在には庇護の本能が働くんだと思う。芸術学部からいきなり弁護士になろうって男だから何をしても驚かない。

話がそれたけどとにかく私は1~3の成歩堂が好きであれで完結してこそと思ってるから今の生殺しの状態が一番つらい。巧氏が成歩堂に息の根を止めることもなく新ライターさんに丸投げした一件に一番腹を立ててる。落とし前つけろ。お願いだから成歩堂を殺してくれ。今となってはもう無理ですが。一応5まではやったけど5の成歩堂は1の成歩堂を丸ごとコピペしたような存在で全然生きてる感はなかったです。ホントに生殺し。

でも5は新キャラは好きだよ。4以降のシステムにもなじんでるしね。あと巧氏に主人公にしてもらえなかったおどろきくんはようやく新ライターさんの手により一キャラクターになりえたと思ってる。もちろん不満のある人もいるだろうし巧氏のおどろきくんが至高と言う人もいるでしょう。ただ新ライターさんについても是非は色々あるしぶっちゃけ話は物足りないと思ってるけど仕方ないだろと思うのです。だって尻拭いだし。人様のキャラなんだから。そりゃ二次創作にしかなりえないよ。

結局4以後は検事1と逆裁5しかしていません。5はそれなりにはおもしろかったけどあくまで巧氏の作ったベースから飛びだせない箱庭のような狭さがあって閉塞感が半端ないです。呪縛が酷い。いっそ旧キャラ全部排除して完全新シリーズにしてほしい。おねがいだから。なんか6でおどろきくんまでリセットされたらしいと風のうわさに聞いたのですがおどろき君は本当に不憫です。今では彼の事が凄く好きです。

弔われたキャラが墓から暴かれて傀儡となる様を見せつけられてるのが私にとっての今の逆転裁判。殺すなら殺せ。それが私の今持っている一番のモヤモヤですけどこんな気持ちを持ったままゲームなんか楽しめる訳がないのでそっと公式から離れるのみです。何をどういっても公式は神様。神様の権限に逆らうつもりはないのです。老兵はただ消え去るのみ。新しいシステムになじめていないのはむしろ私の方かもしれないのですから。

冷静に語ると言っといて最後本当に冷静じゃなさ過ぎてごめんな。こんなにもエキサイトしてしまうほど逆裁のキャラは魅力的だったんだ。でも文句ばっかり言ったけどこれは私は1から見てるから思う事で4から見れば最初から俯瞰的ゲームとしてとらえられるからお話自体をもっと純粋に楽しめるのかもなと書きながら思った事を記してとりあえず終わります。



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