見出し画像

MtGにおけるコモンソートの歴史と、FaBにおけるコモンソート

0. はじめに

 こんにちは、こんばんは。Ombreです。
 ハースストーンというDTCGの元公式プロリーグプレイヤーです。MTG歴はハースストーンを始めるまでの16年間で、主な実績はWMCQ準優勝です。ハースストーンではHS Replayという統計サイトを用いたデータ分析を武器に結果を出してきました。
 今回は私が今年の5月からプレイし始めたFlesh and Bloodというカードゲームについての記事です。あまりにハマりすぎて世界選手権にも参加してきました。
 この記事では古くからMtGをプレイしている方は懐かしい戦術「コモンソート読み」がFaBでは現在進行形で実践可能でしたのでそのまとめと、2010年代以降のTCGプレイヤーの方にはそこまで馴染みのないであろう「コモンソート」について、MtGでの歴史や製造工程上の私の知っている知識を記していきます。
 現在FaBを遊んでいる方は勿論、昔MtGを遊んでいた方やMtGのパックの歴史に興味がある方にも楽しんで頂けるように「コモンソートとは何か」「どのような変遷があり今は死語となっているのか」を記していきますので最後まで読んでいただけると嬉しいです。

1. ソートとは?

 FaBのブースターパックでは、製造工程の都合上、ある一定の規則に従ってカードが封入されています。
 これは競技でドラフトでプレイする場合、カードの配分がランダムだとゲームバランス・ゲーム体験に影響するため、注意深く設計することを可能にします。

 例として「霧隠の秘境」を用いたドラフトにおいて、パックの中に1枚もヌゥのカードもエニグマのカードも1枚も無かった場合、ゼンをプレイすることを強制されてしまいます。完全なランダム封入ではこういったことが起こりうるため意図的にクラスやタレントカードは固定の割合で含まれるように調整してあります。

 カードは一度に大量に印刷されるため、印刷用のシートに並べられます。1つの印刷シートには複数種類のコモンカードが配置されています。そしてそれらをカード単位にカットし一つの山にして、パックに挿入されます。これによりシート上で隣合っていたカードはパック内では上下に含まれることになります。これらの工程により特定の並び順が再現されることをソートと呼びます。

ソートが形成されるイメージ図


 これはMtGでも古くから用いられている手法であり、MtGへのリスペクトがあるFaBの開発陣も同様の手法を選択したものと考えられます。

2. MtGにおけるコモンソートの歴史

 ここからはMtGにおけるコモンソートの歴史について私の知っている範囲でお話します。私の記憶、経験をもとに執筆しております。そのため、一部に誤りや不正確な情報が含まれている可能性があります。もしお気づきの点がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

2.1 2シート期

 私がリミテッドフォーマットをプレイし始めたのは2002年10月にリリースされた「オンスロート」からになります。

 この時点でコモンのソートは通称「ABソート」と呼ばれる2枚のシートを複合して作成されたパックでした。特にパック開封時に表面側に配置される方をAソート、裏面側に配置される方をBソートと呼ぶことが界隈では多かったように思います。Bシート側は更に2分割されており、実際には3種類のソートがパック内に存在していました。

 Aシートからは5~6枚のカードが封入され、Bシートからは少し離れた位置に配置されたカードが3枚+3枚、もしくは3枚+2枚の組み合わせで含まれる形式でした。このため、カードの連続性を見つけやすく、多くのドラフトを経験する中で自然とその規則性を体感することが可能でした。

 特に変異が多く用いられたオンスロート環境では、継続的に2点ダメージを出せる赤の強力なコモンカードは「レア級コモン」と称されるほど評価が高く、ソートを理解しておくことで上家のプレイヤー初手ピックを把握する助けとなりました。

《火花鍛冶》
《溶岩使いの技》

 その後、高校受験や大学受験などでMTGから離れている間にブースターパックのソートに変化がありました。

2.2 簡易4ソート期

 2006年10月発売の「ローウィン」の時点ではADソートと呼ばれる手法に変わっていました。この変更が行われた正確な時期については、私自身が直接体験していないため明確には言及できません。諸説あるようです。

 これはブースターパック内のコモンはAソートまたはBソートから6枚、CソートまたはDソートから5枚の計11枚含まれるというものでした。また特定のカード(ゆらめく岩屋)はC、Dソート両方に含まれるというものでした。

 2002年時点の2シート期と比較すると、パックに存在しないソートもあるため解析がやや難しくなり、またソートが4種類に増えたことで記憶する難易度も上がっています。それでも連続した6、5枚のカード群がパック内に現れるため、何十回もドラフトをこなしていく間に印象的なものは覚えることが可能でした。

 個人的には初めてLimtsのために連日ドラフトを行った印象深いセットでもあります。

《霊気撃ち》《熟考漂い》が同じソート上にあるのが印象的

 しかし、2008年10月発売の「アラーラの断片」から大きな変更が加えられます。

2.3 高度4ソート期

 「アラーラの断片」からはソートが4種類あるだけでなく、カードの封入方法にも変化が見られました。以下の2つのパターンが存在しました。

パターン1:Aソートから3枚、Bソートから1~2枚、Cソートから5~6枚
パターン2:Aソートから3~4枚、Bソートから2~4枚、Dソートから2~5枚

このDソートをC2ソートと呼んでいる方々もいました。

 各ソートからパックに含まれるカード枚数の変動幅が大きくなり、ランダム性が大幅に向上しました。その結果「ローウィン」以前のようにソートを体感しながらプレイすることは困難となり、私自身もソートが完全に廃止されたものと思い込んでいました。

 具体的にはAソートのカードを上家がピックしたのか、それともそもそもAソートのカードが1枚少ないパックだったのかが判別しにくく、ソートを丸暗記するメリットはかなり少なくなりました。

 この方式は、若干の修正を加えつつ、私がMTGを引退した2016年まで使用されていたようです。それ以降については、私自身がプレイしていないため詳細を把握しておらず、ここでは言及を控えます。

 こうした変遷を経る中で、コモンソートに関する議論や注目は徐々に薄れ、技術としての「ソート読み」は、一部の勉強熱心なトッププレイヤーを除き、2000年代前半にドラフトを楽しんでいたMTGプレイヤーだけが知る“古の知識”となった印象を受けます。

3. Flesh and Bloodにおけるコモンソートの解析

 ここからは、Flesh and Bloodにおけるコモンソートの解析を行った経緯と、その結果についてご紹介します。

3.1 コモンソート解析のきっかけ

 私が初めてFaBをプレイしたのはワールドプレミア東京にご招待頂いた時です。その際、シールド戦用に提供された8パックを開封したところ、カードの配列パターンに明らかな規則性を感じました。

さらに、FaBを開発したLegend Story StudiosのCEOであるJames White氏が、かつてのMTGプレイヤーであることを知っていたため、「コモンソートが存在しているのではないか」と直感しました。

 早速、翌日にコーリングを控えるHearthstone時代の舎弟、ビッケブランカ君にそのことを伝えました。

コーリング東京ではTOP4に入った犬

ビッケ君「なるほど・・・?」「ふむふむ、そういうこと・・か・・?」

 (・・・全然知らない?コイツ本当はトッププレイヤーじゃない?)と思いましたが、しかし、それも無理はありません。
 前述した通り、コモンソートは2006年以降ほとんど目にすることがなくなった知識です。20年以上カードゲームをやり続けているプレイヤーでなければ、そもそもこういった発想には至らないでしょう。実際に話を聞いてみるとFaBのパックに「クラスカードが2枚ずつ含まれている」といった規則性があることに気付いているプレイヤーは多いようでしたが、その規則性を完全に解析しようとする試みは聞いたことがなかったようで半信半疑といった様子でした。

 百聞は一見に如かず。
 
ビッケブランカ君をビックリさせる為、そして数か月後に控えた日本選手権で彼が良い成績を残す一助となるため、私は古の技術とも言えるコモンソート解析に挑むことにしました。

3.2 コモンソート解析のやり方

コモンソートの解析の手順は極めてシンプルです。

1.パックの開封
 
パックを開封し、パックの表面側からコモンのコレクターナンバーを記録する。
2.データの集計
 
それらのデータを集計して連続性を探す。
3.連続性の解析
  
発見した連続性のある部分を繋ぎ合わせ、最終的に周期的に繰り返される1つの集合(配列パターン)を見つけ出します。

「霧隠の秘境」のパックに含まれるコモンカード11枚は、次のような構成になっていました。
・前半7枚:クラスカードおよび一部の神秘カード
・後半4枚:神秘カード、汎用カード、装備カード

これらのカードを、パックから出てきた順番通りにひたすら記録し、データを集めていきます。

加工しやすい形式でパックのコモンの内容をひたすら記録。

 大量のパックの情報をどこから収集するという問題は現代では非常に簡単に解決可能です。
 かつてはカードショップを経営していたり、毎日毎晩ドラフトを繰り返す一部のプレイヤーでなければ、解析に十分な情報を得ることは困難でした。しかし、現在はYouTubeや各種SNSに投稿される開封動画を活用することで、簡単に情報を集めることができます。特に、コモンカードを飛ばさずに1枚ずつ丁寧に見せてくれる動画には、大いに助けられました。

 今回の解析では、「霧隠の秘境」ドラフト環境において特に重要な上家とのヒーロー被りを回避するために、前半のソートに着目しました。これにより、戦略的に有用な情報を得ることを目指しました。

 規則性のあるコレクターナンバー群を見つけ、その前後を繋ぎ合わせていきます。この時点ではシートが複数枚ある可能性も考慮して慎重に作業を進めていきます。ChatGPTなどのAIツールを用いて効率的に進めることが望ましいです。

3.3 コモンソート解析の結果

そうして解析した結果、以下の結果が得られました。

MSTクラスコモン ソート解析結果

解析して分かったことは
①シートは1種類。よって丸暗記が可能。
②赤と青のカードはシート内で2回出現するのに対して、黄のカードは1回のみ出現。

 特に②については重要で、黄色カードがシートに1回しか出現しないため、黄色カードを軸としてカードを覚えていくことで他のプレイヤーがピックして抜けているカードを容易に特定をすることができます。

エニグマの強カード《満ちる悪霊》

 十分に戦略に落とし込める可能性が高い事が分かったことで、これらの情報をビッケブランカ君に共有したところ、最初は若干ドン引きしていたものの、すぐに彼の所属する名古屋のコミュニティに共有され、そこから解析情報を元に戦略的な議論が進みます。

 翌日にはYoutubeにてFaBの配信を行っているツナキさんが配列パターンをカードとして見て暗記や分析に活用できるアプリまで作成。隙間時間に暗記することもできるように。
https://unityroom.com/games/mst_no_are

3.4 コモンソート解析の有効性テスト

 こうしてビッケブランカ君に授けた古の技術は彼のコミュニティで戦術に昇華され、日本選手権を迎えます。FaBでは数少ないドラフトを用いる競技イベントということで、コモンソート解析がゲームの攻略に対して有効かを試すまたとない機会です。

 結局のところコモンソートが分かったところでゲームが強くなるわけではなく、それを戦略として勝率を上げるために活用できなければ何の意味もありません。
 しかし幸いにも「霧隠の秘境」ドラフトは有効に活用できる条件が整っていました。

 一つ目は3クラス環境である点です。
 これにより8人でドラフトした場合には3-3-2とクラスが分かれることになり、2人のクラスに被らず参加できることは大きなメリットになります。
 正確に抜けたカードを把握できることで1パック目の中盤には上家3名のクラスを特定でき、卓の半分の情報を掌握した状態で空いているクラスに参加することが出来ます。

 二つ目はヒーロー間の相性がはっきりしており、じゃんけんのような関係になっている点です。
 自分の位置的に3人で競合しているクラスをピックせざるを得ないパターンはよく起こります。その場合でも他の7名のクラス分布を正確に把握することが出来れば、対戦確率の高いヒーローを対策したポジションを選んで取ることが出来ます。

日本選手権ではそれぞれのポイントが上手く機能したようです。
以下はビッケブランカ君のドラフトレポートです。

1stドラフト

https://x.com/VickeBlankaHS/status/1809489598504136893

 1stドラフトはコモンソート表を記憶していたことで正確な卓の情報を1パック目中盤までに把握して上流のプレイヤーと被らないゼンをピックし、卓内2名のゼンを構築して3-0。赤いカードと装備品の充実ぶりからも良いポジションを選択できていたことが伺えます。

2nd ドラフト

https://x.com/VickeBlankaHS/status/1809540545519448352

 2ndドラフトも1パック目の終盤で正確な卓の状況を理解することができました。その時点で自分以外の7人が2-2-3と均等に分かれていることが分かり、3人ヒーローをやらざるを得ない状況となったが、事前の練習で卓が均等な場合にエニグマ以外に勝てる戦術として用意していた特殊なピック、ファティーグ型のゼンを構築して2-1。エニグマに負けたものの、狙い通りゼンとヌゥに勝利。

 事前練習から卓の情報を正確に理解できるようにしていたことで練習リソースに余裕ができ、他の人があまりピックしない戦術の検証まで行えていたことが良い結果に繋がったと思います。

 かくしてビッケブランカ君はドラフトラウンドを5-1で終え、見事世界選手権の権利を獲得することとなり、コモンソート解析は戦術としても一定の有効性があることが示されました。

4. コモンソート解析の注意点

 これまで私たちが行ってきたコモンソート解析を用いたアプローチの成功した部分のみ記載してきましたが、最後にコモンソート解析が有効に機能しない場合や、コモンソートを使用する上での注意点についてもお話します。

4.1 戦略として機能させにくい場合がある。

「霧隠の秘境」ドラフトでの成功を受けて、続く最新拡張である「ロゼッタ」でもコモンソート解析を行いました。今回は私自身も世界選手権に出場するという事で早い段階で解析を終えたのですが、「ロゼッタ」でのブースタードラフトではコモンソートを記憶していることを戦略として機能させることが難しかったです。

 一つ目の理由は、1シート内の同一カードの出現回数が赤と青が3回、黄色が2回になっていることです。簡単に実感できる方法としてシールドのカードプールの各色の配分を調べてみると、赤:黄:青が30:20:30に近い配分になっていると思います。
 これにより疑似的に複数シートがあるのと近い状況となっており特定のカードの位置を記憶するための労力が格段に上がっています。

 二つ目の理由は、2タレント・2クラスという構造です。
 基本的に強力なデッキを構築する上で枚数が必要となる大地と稲妻のタレントカードで卓内のポジションを主張する環境であるため、特定のカードをピックしたという重要性が薄まります。

 このように仮にソートを解析できたとしても解析結果や環境的な要因によって、戦略的に有効でない可能性があることには注意が必要です。
 急がないのであれば、コモンソートが分かったらどんな戦略が可能になるかをはっきりイメージできた場合にのみ解析を行う方が時間を無駄にせずに済むかと思います。

4.2 ソートに乱れ・変更が起こる場合がある。

 これはMtG時代からよくあることなのですが、解析したコモンソートと違う順番で封入されているパックが存在することがあります。印刷・封入の製造工程上、起こってしまう事象と思われます。

 昔よくあったのは順番が一部逆になって出現するパターンです。これはシートを表面・裏面どちらからカットしたによって後工程の影響で上下が逆転してしまう現象が原因とされています。
 カードの縁のバリを見ることでフロントカットなのかバックカットなのかを判別することができますが、私の手元にあるFaBのカードは全てフロントカットですのでFaBではこの現象は起きにくいかと思われます。

 他にも今回の「ロゼッタ」ではクラスカードとタレントカードの配分が5:5ではなく4:6となっているパックが存在し、それが世界選手権本戦で使用されていたという報告がありました。私もいくつか現物は確認していましたがソート自体に乱れは無かったものの、それぞれのシートから封入されている枚数が異なることで他のパックとは異なる内容になっていました。

 上記のような場合でもコモンソートは特に公式側で配分を公言しているわけではない為、競技イベントでもエラーパックとしては判別されず製品としても問題ないため、通常通り使用されることになります。またあまりないケースですが、再版や印刷工場の変更に際してシートの内容が丸ごと変わってしまう可能性も無くありません。過信は禁物です。

5. あとがき

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。最後までお付き合いいただけましたことに心から感謝いたします。

 今回の記事を執筆するにあたり、少々迷いがありました。
 ソート読みの技術は遊ぶ上で必須ではなく、コモンソートは本来事前の知識が無い状態でも被りや隔たりを回避することで楽しく遊んでもらうためのものです。

 FaBの楽しいドラフトをもっと多くの方にプレイして欲しいという個人的な想いもあり、プレイに対するハードルを上げないために共有するか迷っておりましたが、せっかくの取り組みが勿体ないというご意見を頂き、今回このような形でまとめることとしました。

 また他にコモンソートについて言及された記事は少なく、MtGの歴史を振り返る読み物として記録を残しておくことにも意味があると考えています。
 この記事で昔のMTGドラフトを懐かしく思った方がFaBのドラフトを遊んでみたいと思って頂けたらとても嬉しいです。

 この記事がMTG昔話のきっかけや、FaB競技シーンで日本のプレイヤーが益々活躍するきっかけになることを期待しております。

最後に宣伝です。
 私が世界選手権に出場した際にスポンサードしてくださったFaB専門店Fableさんが本日正式オープン致しました!

 店舗では早速オープンを記念したイベントが開催されております。お近くの方は是非ご参加ください!遠方の方も通販サイトの方を是非チェックしてみてください! 

 最後までお読みいただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?