企業にとっての祭りの価値~オマツリジャパン主催オンラインセミナーより~
オマツリジャパンは今秋、オンラインセミナー「企業にとっての祭りの価値と関わり方」を開催しました。アライドアーキテクツの久保田那也氏と弊社・加藤匠が、企業が祭りを活用する方法やメリット、その可能性について対談しました。当日の熱い対談の様子を一部抜粋してお届けいたします。
コロナ禍での祭りは、オンライン・オフラインのフレキシブルな対応が必要
久保田 私の分野(SNSマーケティング)から見ると、消費者の動向はコロナ前後で大きく変わりました。企業に対する消費者の見方も同様に変化しています。社会貢献に関する行動を発信する企業に対し、消費者の興味や関心や反響が高まりつつあります。
いま、様々なサービスや体験がオンライン化していますが、コロナ下において全てをオンラインでやることには無理があるように思います。プロモーションとして何かアクションをする際にオンラインだけで完結できると思っている企業は少なく、オンライン・オフラインをうまくミックスしていきたいと考えている企業が多いでしょう。お祭りに限らず、オンラインの比率は上がるものの、オフラインの重要性が下がるわけではないので、オン・オフの付き合い方を変える必要がある、と感じています。
加藤 コロナが流行りだした4~5月の、あらゆるイベントが中止となった中で、「何とかしなくてはいけない」ということからオンラインのイベントやzoom飲みが流行ったように思います。当時は目新しさや危機感から注目を集めていたように思いますが、現在ではオンラインのイベントも増え、当時ほどの注目はされなくなってきています。ですので、企画としてオンラインを用いていただくためには何かもうひとひねりすることが必要だと感じています。
久保田 「オンラインかオフラインか」というゼロイチの選択ではなく、状況に応じてオフラインからオンラインに切り替えるフレキシブルな対応を取れる環境つくりがプロモーションやお祭りにおいては今後のコロナ時代では大切でしょう。
加藤 どちらもできるようにしておくことが理想ですね。
企業にとって、祭りは可能性の宝庫
加藤 次に「企業からみたお祭り」について意見を伺います。これまでの企業とお祭りの関係は、お祭り会場の提灯に祭りを応援したい地元企業がいくらか支払ってその提灯に企業名が書かれて、それがずらっと並ぶ…という光景が一般的だったかと思います。これは応援であると同時に、地域との「お付き合い」でもあり、寄付的な意味合いも多かったのではないでしょうか。けれども、このような寄付型だけでは、継続して予算を出すことは難しい場合もあります。また、新しい企業がそのお祭りに関わること(寄付をする)という流れになることもあまりないのではないかと感じます。
ですが、企業にとって地域のお祭りには魅力的な要素があります。これを抽出したのが上記の図です。地域での伝統とブランドがあるお祭りと企業が「伝統」「コンテンツ力」「話題性」「コミュニティ」「気分高揚」「集客力」を活かして連携することで互いに良い影響が生まれることが期待できます。
例えば秋田県の「なまはげ」のようにインパクトや認知がある=「コンテンツ力」があるお祭りを企業のプロモーションに活用することで、他社のプロモーションとの差別化も図れます。また、お祭り自体が持つ集客力は、企業にとってより多くの消費者と接点を作ることが出来るため、プロモーションでの活用が期待できるでしょう。お祭り会場に来たお客様の良い意味でのテンションの高さも強みになります。気分が高揚しているときに触れたもの・体験したものは記憶に残りやすいため、企業のプロモーションに有効だと思います。そして、お祭りを通して企業と地域にコミュニケーションが芽生えることは、企業が継続した事業展開をする上で重要な要素です。
祭り=提灯の協賛、だけじゃない。
久保田 お祭りの価値でもうひとつ大きなものがあります。その前に現状をお話しますと、これだけの魅力がある「お祭り」ですが、現状の企業のマーケティングではほとんど利用されてきておりません。青森県の「ねぶた」など極めて大きな祭りに対し大きな予算をもって活用している企業はありますが、そのような企業自体が企業全体の一部。加藤さんが指摘された魅力があるお祭りは全国にあるにもかかわらず、お祭りを活用できるという事実を知っている企業が少ないというのが実態です。裏を返すと、だからこそお祭りをプロモーションの場として使っていけますし、その価値が今は眠っているだけと捉えることができます。これも実はお祭りの隠された価値である、個人的に感じています。
加藤 ありがとうございます!お祭りの活用の余地がまだまだある=企業の担当者がまだお祭りの魅力に気が付いていない、とことですね。
久保田 そうです。
加藤 お祭り側にも同じことが言えるかと。お祭りの運営は地元の方がボランティアでやっていることも多く、「新しいことをしたい」「企業の方と繋がりたい」と思ったとしても人手が足りなかったり、そもそもノウハウがないことも多いため、お祭りの運営側も企業と繋がりたいけど繋がれない現状があるように感じています。
久保田 お祭り側も企業側も、お互いに「提灯」のイメージを持ってしまっているかもですね。企業側からすると「(お祭りは)提灯を出す場でしょ」というイメージになってしまっているし、お祭り側からすると提灯以外で思いつかないという現状になってしまってもいるかと。提灯というのがうまく出来ているのかもですが(笑)
加藤 そうかもしれないですね、提灯のイメージが強すぎるのかなと(笑)
久保田 ですので、提灯に代わる新しいものができると企業側にも新しい目線で関われますし、新たな協賛金が入ることでお祭りも盛り上がり、地域振興になります。結果的に日本全体が良くなる可能性を非常に秘めているんですよね。我々がそれをどう作っていくかですね。
加藤 そうですね。作っていきましょう!
コロナで追い風を受ける「応援消費」
加藤 続いて、実際の事例を紹介しながら対談を進めていきたいと思います。これは2年前に京都の祇園祭で行われた、祭りの継続的な運営をするための支援を求めるクラウドファンディングです。目標支援金額300万円にたいし、1300万円が集まりました。このことからも、お祭りが地域の方に愛され、応援したいと思われているコンテンツであることが分かる事例です。
このような消費活動は、「応援消費」と呼ばれ、今回のコロナの影響を受けてさらに追い風が吹いています。三井住友カードのデータによると、クラウドファンディングは去年に比べて決済件数・金額共に伸びていて、5月に至っては200%近く伸びております。また、地域を応援する消費といえる「ふるさと納税」の決済金額も去年に比べて大幅に伸びており、今後も「応援消費」の市場は伸びていくでしょう。
加藤 こういった消費者の心理を企業が活用するとどうなるか、という目線で、愛媛県の電力会社「坊ちゃん電力」が提供するサービス、お祭り応援ができる「まつり電気」を紹介します。これは。電力契約を坊ちゃん電力に替えると、電気代が安くなることに加えて、お祭りの応援が出来るというサービスです。徳島の阿波踊りなど複数のお祭りから、自分が好きなお祭りを選んで支援ができます。
なまはげ、火祭り・・・祭りのCMコラボも続々。
加藤 このほかの事例としてはCMタイアップが挙げられます。例えば、ヤクルトのロングセラー栄養ドリンク「タフマン」のリニューアルに合わせて制作されたCMは、伝統と革新を表現するために秋田県の伝統文化「なまはげ」と亀梨和也さんがコラボした内容でした。また、キリンの「のどごし生」は、元気で爽やかに頑張る祭りの担い手にブランドのイメージを重ねて、福岡県久留米市の火祭り「鬼夜」の担い手に密着取材した動画を制作しました。これらは、商品が打ち出したいイメージに合うお祭りとコラボして実現したコンテンツの事例です。
また、今年7月に開催された「新のどごし〈生〉オンライン祭り」では、商品のPRイベントをオンラインで開催し、そこで中止になった祭りを招待し、日本の祭りを応援するイベントとしました。当日は、ねぶた祭りや阿波踊りが登場してパフォーマンスを行い、CMキャラクターのタレントさんと一緒にお祭りを楽しめるイベントになり、当日のTwitter配信では想定を大きく上回る約80万人が視聴しました。
加藤 祭りの話題性を企業の広報・PRへ活用する事例として、本年8月に弊社が開催した「オンライン夏祭り」を紹介したいと思います。全国の中止になった祭り8つをオンラインで集結し、6時間を超える生配信で開催したこのイベントは、Web媒体で300媒体、テレビや新聞などの主要マスメディアでも30弱ほどの媒体に取り上げていただくことができました。生活のあり方が大きく変わっていく中で、日本の大切な文化である祭りがこれからどうなっていくのか、今後も世の中から高い興味・関心を集めるテーマだと思います。新しい形を模索する祭りを企業が応援する取り組みを、企業の広報・PRとして活用できる可能性も大きいと感じています。
企業がどのような社会貢献をするのか、世の中の注目が集まっている。
久保田 企業の社会貢献的な活動に対する世の中の関心は高まっています。このような状況の中、「企業がお祭りとコラボしている」「祭りの応援をしている」という情報は、それが結果的に自社の㏚であっても、好意的に受け止められやすい環境になっていると思われます。今年の夏に実施したオンライン夏祭りが多くのメディアに取り上げられたことからも、お祭りを企業の広告、広報、PRに活用していくのに良いタイミングなのだと思いました。
加藤 企業の広報・PRや社会貢献活動といえば、植林やゴミ拾いなど、ある程度の型が固まっている印象もありますが、お祭りの支援にも社会貢献の要素が十分にあると思っています。さらに、地域の祭りの情報は必ずと言っていいほど地元のローカルメディアに取り上げられるので、PR効果も期待できます。
久保田 私自身の実体験として、コロナで地元の祭りが中止になったこを経験して、失ってから気づく存在感のようなものを感じました。ふだん何気なく身近にあった祭りが無くなってみんなが「こんなにも寂しいのか」と感じたからこそ、祭りに関する取り組みについてメディアも含めて世の中が反響してくれるのだろうと感じます。
加藤 そうですね。「いざ無くなるとこんなに寂しいのか」と皆様感じているところは大きいかと思いますね。
社会貢献と営利を両立させることは可能なのか?
加藤 最後になりましたが、コロナ禍でできることを上の図にまとめました。大きくは「(地域で受け継がれてきた)伝統文化を守る」「(コロナ時代に合わせた)新しい文化を創る」の2つです。久保田さん、いかがでしょうか。
久保田 企業の活動において社会貢献と営利は相反するもので、営利を追求すると社会貢献の要素が抜け落ちてしまうということがよくあります。そのために企業は、本業とは別に社会貢献活動を行うわけですが、実はお祭りは社会貢献と営利を両立させるのに非常に良い存在だと思います。企業が営利目的であってもお祭りを活用することで新しいヒトやカネの流れができれば、それが地域振興や伝統文化を守ることにもつながるからです。営利と社会貢献を同時に実現できる存在として考えた場合、お祭り以外で同じ選択ができる存在は多くないと、個人的には思います。
全国各地にたくさんのお祭りがありますが、企業としてはまだまだお祭りを活かしきれていないですね。一方で祭りの主催者も、企業側にもっと入ってきてもらいたいと思っているのではないでしょうか。非営利な取組みに社会が注目する今だからこそ、お祭りを応援し活用していくことは、マーケティングに関わる方々にはぜひ選択肢の中に入れていただきたいですね。
加藤 そうですね、我々オマツリジャパンとしても、もっと知っていただく活動が必要だと感じました。本日はありがとうございました!
久保田 ありがとうございました!