あなたの不安はなくならない
プロコーチとしてコーチングを提供していると、クライアントから「今感じている不安をなくしたい」といった要望をよくいただきます。
今感じているこの不安をなくしたい。この不安がなくなれば、幸せになれるはず。自身の辛さの元凶を「不安」と捉えそれを解消したい。というわけです。
このような依頼があったときはまずはその主訴に寄り添い、不安についてやその不安がどこから来たのかについて、お話を伺っていきます。その中で不安についての解決策や、不安を不安とたらしめるクライアントの認知について、対話を通して発見できるよう努める。こういった姿勢で対話をしていくと、クライアントが今抱えている不安の解消や軽減につながっていきます。
しかし、こういった姿勢とは別に、そもそも不安はなくならない、というある種真逆の考えも大切です。
どういうことか説明していきますね。まず、不安というのは未来の見通しが立てられない状況で湧き上がってくるものです。「この先キャリアをうまく築けるだろうか」「これをやってうまくいかなかったら凹んでしまうだろうな…」「このままの生活で将来困らないだろうか」といった感じで。逆に言えば、未来が確定していれば不安な気持ちは湧き上がってきません。自販機でコーラを押しても「コーラが出てくるだろうか…」と不安になる人はいないと思います。
そして未来について。先ほどのコーラの件はさておき、そもそも未来は不確定なものです。決まっているように見えるものもたくさんありますが、それはそのように見えているだけであって、実際とは異なります。
不安は将来の見通しが立てられない時に湧き上がるもの、でしたね。そして未来は決まっているものなどなく、不確定なもの。つまり、未来なんて絶対わかりっこないので不安もなくなるはずがないのです。未来がわかるとしたらそれは神だけなので、不安をなくそうとしたら神になるしかない。
もう少し突っ込むと、不安Aが何かしらの方法で解消されても、不安Bがやってくるし、不安Cと不安Dが一緒にやってくることもある。もちろん、その状態で辛さが溢れてしまうといけないので、今抱えている不安に対処していくことも大切。不安はなくすものでなく対処していくものなのです。
スイスの精神科医、ユングはこんなことを言いました。「正気だという人がいたら連れてくるといい。私が治してみせるから」。誰もが狂気をもっていて、まっさらな正気な人はいない、と言ってるわけです。不安に関しても同じことが言えます。不安を抱えていない人は存在しません。「不安がないという人がいたら連れてくるといい。私が治してみせるから」、です。
不安はなくならずに、常に私たちの中に存在する。その前提に立つと、不安を抱えている状況に対して肯定的になれます。不安はなくなるもの、と思っているからこそ、不安がある状況に対してネガティブな気持ちになってしまう。不安を抱えている状態が”普通”であるなら、それをそのまま受け入れられるはずです。
全てのものに良い面と悪い面があるように、不安にも良い面があります。先ほどの「正気だという人がいたら連れてくるといい。私が治してみせるから」というユングの言葉。この”正気”とはいわゆる単なる常識のことであり、必要で価値があるとされていますが、これだけでは人は想像力を発揮することはできません。
これと同じように、不安がまったくない(と認識している)状態だと、人は創造性を発揮することができません。不安にアクセスできるからこそ、人はエネルギーを得ることができ、ひいては充実した人生を歩むことができるのです。
あなたの不安はなくならない。だからこそ、創造性に満ちた人生を歩むことができる。不安に満ちたこれからを楽しんでいきましょう。