どこか寂しげな・・・。泣ける怪談「小さな呼び声」
ある寒い冬の夜中のこと。
妻や子供が寝静まったので、本を読みはじめた。
面白い小説だったので、夢中になっていた。
あれは午前一時頃だろうか。
トントン、トントントン……
軽く襖を外から叩くような音がする。
隙間風だろうと思っていた。
すると、またトントン、トントン……と。
風にしてはリズムカルで変だなと思いながら、
襖をちらっと見る。
特に異常はなかったので、また本を読み続けた。
目が活字を追った瞬間だった。
襖の向こうから、遠慮がちな小さな呼び声がした。
「おとうさん・・・おとうさん・・・・・・」
どこか寂しそうな子供の声だった。
親を求めて、叱られるのを覚悟しながら
呼びかけている。
てっきり子供が寝惚けて、私の部屋の前に来たのか
と思った。
本を閉じ、布団から出て襖を開けた。
しかし、真っ暗な廊下には誰もいない。
あれ? と思って、妻や子供の寝ている部屋を
覗きに行った。
みんなすやすや寝息を立てて寝ている。
子供が起き出してやって来たという様子はない。
背中に寒いものを感じ、思わず嫁を起こしてしまった。
もちろん、嫁は迷惑そうに知らないという。
しかし、私の耳にはあの寂しそうな幼い声が
残っていた。
現実に聞こえたのか、空耳だったのか、
今ではわからない。
ただ、あの魂に染入るような哀しい声は、
何だったのだろう。
小さな魂が彷徨っているとするなら、あ
まりにも不憫だ。
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・投稿 Y・Sさん(男性)
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