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野良の子に違いない。怪談・逢魔が時物語「猫の帰還」
ある寒い冬に、私たちはC県から都内へ引越した。
引っ越した理由は、家が道路用地に引っ掛かったため。
近所一帯が立ち退きになったのだ。
家では三匹の猫を飼っていた。
しかし、このとき飼っていた猫が一匹行方不明になる。
白地にキジトラの斑が入ったウサギ尻尾の子。
無人のゴーストタウンに、猫は彷徨い出たようだった。
もともとは野良猫の、まだ一歳にもならないオス猫。
いくら野良の子といっても、まだ餌の取り方も
知らないはず。
残飯もなく、まして雪の降った寒空の下、
どこへ行ってしまったのだろうと心配だった。
結局、引っ越しの日が来ても、その猫は見つから
なかった。
私たちは泣く泣く住み慣れた地を離れた。
引っ越して相当時間も経った。
今さら、探しに行って見つかる可能性はない。
たぶん、猫はそう長く生きられないだろうと諦めた。
それから少し経った、ある寒い夜のこと。
私が眠っているときだった。
猫が、蒲団に入りたがっているような気がした。
半分眠りながら、反射的に蒲団を持ち上げて入り口
をつくってやる。
私の脇腹に猫の柔らかく、しっとりした毛の感触が
伝わってきた。
二匹のうち、どの子が来たのかはわからなかった。
しかし、朝になると蒲団に入ってきた猫はいない。
猫は気ままな動物だから、珍しいことではない。
ただ、あれ? と思ったことがある。
その夜は寒くて、部屋のドアをぴったり締めていた。
どの猫も出入りはできない状態である。
さらに、他の猫は二匹とも、朝まで母親の布団で
眠っていた。
寒かったのだろう……。
帰って来たかったのだろう……。
あの行方不明の子が、戻って来たとしか思えない。
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投稿 紗稀さん(女性)