チェリまほの世界線と、Z世代の描き方が秀逸すぎてぶっ倒れた話
『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』というドラマを知っていますか?
「童貞」=チェリーで通称『チェリまほ』と呼ばれて親しまれるこの作品は、テレ東の深夜木ドラで2020年10月〜12月まで放送され、今年映画化されたドラマです。
私はスーパー早寝早起き人間なので深夜にこんなドラマがやっていることは知らなかったのですが、映画館でふと劇場版の予告が流れ、気になってしまったのでアマプラでドラマを見始めました。
『このドラマが終わったら生きる糧を失ってしまう』と、一番気になる10話からしばらく先に進められなくなってしまい、こじらせながら観た最終話は砂漠に花畑を作れそうなくらい大泣きするぐらいにはガッツリハマりしました。
一時私の検索履歴はこんなことになりました。頭の中全部チェリまほだった。
題名はパンチがありますが、中身はピュアっピュアなBLドラマです。
同性愛とかBLとか苦手な方はここで回れ右してください。
主人公の安達、黒沢の恋模様の尊さ、かわいさ、2人のビジュアルのよさ に加え、安達の親友柘植と配達員湊のじれったさ。キャラクターの個性。書きたいことは山ほどあるけれど、それだとよくある記事になってしまうので、とりあえず一言「モテたい人間とピュアな気持ちを取り戻したい人間、そして1歩踏み出す勇気が欲しい人間はチェリまほをバイブルにせよ」とだけ言っておきますが、今回私がこのドラマをすごく好きになった理由は他に2点あります。それが、
・チェリまほの世界線
・Z世代六角の描き方
この2点がとにかく秀逸だったこと。
この2点について熱く熱く語っていくので暇で仕方ないときに読んでください。
①チェリまほの世界線
この点についても分解するとすごくよかった点が2つあって
1点が「男性同士の恋愛だからこそ」の葛藤やペインがほとんど描かれない。
2点目が登場人物全員いい奴、特に藤崎さんが最高。
ということ。
1点目は実は「おっさんずラブ」「消えた初恋」など、近年のBLを描いたドラマや映画でも同じである。
もちろん主人公の安達やその親友の柘植は恋愛経験がないので、「男同士なのに…」といったことを口にするのだが、葛藤が描かれるのはそれくらい。
男性同士が仲良くしているのをからかったり、差別したり、そんなシチュエーションはまったくと言っていいほど描かれない。
ゆえに、BLとしてというよりは本当にピュアな恋愛モノとして共感できる作品になっている。
正直、現実世界で考えるとまだまだLGBTQなどマイノリティの方への差別やこういった作品への批判は少なからずある中で、ドラマの中ではすべての人がそのシチュエーションをすんなりと受け入れている、それを堂々と、爽やかに描ききっているのが秀逸。
そして、そんな世界線だからこそ登場人物がだいたいめっちゃいい奴。
主人公2人も、柘植と湊も、お調子者のZ世代六角も、こんな人よくいるよね〜なちょいウザ絡みの先輩浦部先輩も、メインキャストはみんないい奴。
恋愛ドラマにつきものなドロドロした嫉妬や奪い合いなどはまったくない。(時々脇役程度に「わざとぶつかってくるヤクザ」「なんかしらないけどキレてる社長のおじさん」「飲み会で悪ノリする中年のおばさん」とか、ほんの少しだけ「こういうムカつくやついるよな」という人が描かれるけれど、あくまで脇役でこの人たちは物語に大した影響を及ぼさないし、よりメインキャラクターの純粋さやいい人さを引き立てるスパイスになっている)
そんな中で最高なのは安達の部署のヒロイン的な存在、「藤崎さん」である。
お嬢様っぽく清楚な見た目と、それに見合った落ち着いた振る舞いで、主人公安達も最初は気になる存在だった藤崎さん。
藤崎さんも「安達くん好きだわ〜」と内心思っている。でもその好きはいわゆる男女としてのLoveではない。黒沢のライバルになることもないし、安達と一悶着あって涙を流すようなよくある展開もない。
そして、黒沢が安達を好きなことを察し、「やっぱり黒沢くんは安達くんが好きなんだね」と(これも安達が心を読んだだけで、言葉には出さない)2人を暖かく見守る。最終回では黒沢、安達両方の背中を押す役割を担う。
藤崎さんが最高なのは、前述した「チェリまほの世界線」と、「登場人物みんないいやつら」の象徴的存在だからである。
2人の関係をいち早く察知しながら、それを言葉に出したり、差別することもない。物語を「女性」という立場からひっかきまわすこともない。ただただ2人の関係を受け入れ、優しく見守るだけ。
当初は黒沢のライバルになりそうな立ち位置だったからこそ、この着地は見事だったな〜と思う。優しい世界線そのものだった。
視聴者もこの藤崎さんのような気持ちで主人公たちの恋愛の行方を見守っているので、藤崎さんは視聴者の象徴というような立ち位置でもあるし、たぶんこのドラマで藤崎さんを嫌いになる人は1人もいない。
藤崎さん、最終回までほんとよかった。
②Z世代六角の描き方
六角は営業部黒沢の部下でお調子者キャラ。
本当にZ世代の描き方専用のコーディネーターでもいるんか?というくらい六角は超Z世代として描かれていて、物語のいいスパイスになっている。
だいたいこういったタイプのキャラクターは、なにげない一言で主人公の感情をひっかきまわしたり、傷つけたり、トラブルを起こしたりというような描かれ方をする機会が多いと思うけど、六角は良き意味でそういったアクシデント性を持ち合わせながら、徹底的にいい奴で物語をネガティブな方向に進めることはなく、それでいてTHE Z世代のアイコン的な存在なのである。
六角は黒沢のことを尊敬していて、黒沢に対して尊敬や好意の念を伝える。「俺第二の黒沢になるんで!」「営業部のエースになります!」など、他の社員の前で堂々と語る。そして飲み会も目一杯盛り上げる。ここまではお調子者キャラで、主人公安達も苦手そう。
しかし、飲み会の途中トイレですれ違う六角に足立が触れると「戻りたくないな〜…タバコの匂いきついけど、俺のための飲み会だし、我慢我慢!」
私、クソデカボイスで「え〜!!!!!Zっぽ〜!!!!!!!!」て叫んだ。心で。
ここで安達、さりげなく「胃薬ほしいんだけど」と伝えて六角を店の外へ。六角、「俺買ってきますよ!」と笑顔。(かわいすぎる)
その頃、飲み会は盛り上がり中年社員の悪ノリで王様ゲーム実施。「3番と6番がキス〜!!!」もちろん物語的にお察しの通り、安達と黒沢である。(このときの藤崎さんの顔、マジお通夜で推せる。)
器用で優しい黒沢は周りを諭しつつ、安達のおでこにキス。(尊くて美しくて切なくて泣いた。)
この直後、六角その場に戻る。
上司:「今王様ゲームしてたんだけど、こいつらノリ悪くてさ〜」
六角:「こういうのまじありえないっす」
六角一蹴。
Z世代やん!!!!!!!!!!!!!
同性愛という一部の人からは理解されない世界線の中で、次世代のアイコン的に描かれる六角。古い価値観をバサッと切り捨てる姿が実にいい切れ味。
しかも、この後のエピソードで安達に対し、「あの時僕のことわざと外に出してくれたんですよね」と感謝の証にたくさんのお菓子を渡す。
その後も安達の優しさや努力している姿を見て「安達さんみて俺も頑張ろうって思いました!」「尊敬してます!」と素直に尊敬と好意をマックスで伝える。
なんかこの、忖度とはぜんぜん違う、自分が好きなものを好きと伝えることや、リスペクトを表現することもZ世代というか、最近の若い子らしくてすごくいい。
六角のZポイントは残り2つなんでついてきてほしい。
次が、最高の六角。だと私が思っている六角。
柘植が恋に落ちた配達員湊、実は六角と大学の同期で同じサークル。
(ダンスで夢を叶えたくて今でも努力している湊と、諦めてサラリーマンになった六角。この対比もまた良い。しかも六角については決してしみったれたり、後悔をめそめそ語るような余計なシーンはなくて、安達に「今は営業部のエースになりたいんだろ?」と言われて素直に喜ぶ。お前最高だよホント…)
たまたま湊のダンスの練習を見にきた柘植、安達黒沢が、湊の元恋人(男)と一緒に練習を見にきていた六角とバッタリ。
その後紆余曲折あって元恋人に唇を奪われる湊、それを見てしまう柘植。(湊はゲイ)
片思い中の湊のキスシーンを見て大ショックを受けて湊と距離をおく柘植。
数日後、ものすごい剣幕で安達に「メガネ(柘植)に連絡とってください!」と頼み込む六角。
そして喫茶店で柘植に会うといきなり掴みかかり
「湊のこと、避けてるらしいじゃないですか。あいつがゲイだからですよね?!」「…んなくだらないことであいつを避けんのかよ!距離取るのかよ!」
と大激怒。
落ち着け六角!!!!目の前に上司いるんだぞ!!!と思いつつ。
(これは六角と湊の勘違いだったわけだし)掴みかかるのは決して褒められたことではないけども、友人の多様な価値観を受け入れ、差別を許さない姿勢。これまたZ世代らしくていい。しかもこの後勘違いだったことを安達を通してちゃんと謝罪している。(きっと柘植に会えたら本人にしっかり謝るし、湊を通しても謝ってるんだろうな)
そして最後、やっぱり欠かせないのは最終回。
安達と黒沢が約束していた花火デートが中止になることを聞いて、2人に花火をみせるため、突然会社の屋上で花火をはじめる藤崎さん。(やっぱ藤崎さん最高)何も言わず、楽しそうに付き合う六角。
六角:「藤崎さんウケますね、急に花火あげたいとか」
藤崎:「ふふ、理由も聞かずに付き合ってくれる、六角くんもなかなかだよ」
六角:「だって、なんかいいじゃないですか。これ見て誰かがちょっとでも幸せになれるなら」
おまえたち、最高だぜ〜〜〜!!!!!!!!!!!って心の中のクラッシュ100匹がスタンディングオベーションしたよね。
もしかしたら六角は2人の関係に気付いていたのかもしれないし、そうじゃなかったとしてもこういう行動に移せる純度。いいやつすぎる。
お調子者なのに、最後まで余計なことはひとつも言わない、やらない、そして周囲の人を大切にしていて、本当に素敵なキャラクターだった。
六角が物語のキーになるような瞬間はちょこちょこあって、でも深入りはしていなくて、そういう部分の描き方がとても繊細で素敵だし、より彼のZ世代感をうまく表現していたな〜と思う。
これは世代が上の方にとっては今の若いやつは〜の概念がアップデートされる機会でもあったと思うし、Z世代は六角に共感した人多かったんじゃないかな。
そんなこんなで最終回まで鑑賞を終えた後もう1周みて、今日記事を書いています。
すっかりチェリまほロスになるかと思いきや、改めて考察やネタバレを読んだり、画像を見たり、今日みたいに自分の言葉でチェリまほに想いを馳せるたび、好きな気持ちが増していて心が温まります。
これは単なるBLドラマで片付けて欲しくない、いろんなメタファーが散りばめられている素敵な素敵な作品でした。
落ち着いたら「つげみな」についての文章も書きたいし映画も見たい。
まだ観てない人、アマプラかparaviで観ましょう。
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