Jリーガーを10億円で売る方法 その1 

 「史上最強」今のサッカー日本代表はまさにこの形容が相応しい。

 直近のアジアカップではまさかのベスト8敗退となり監督交代を含め議論の対象となったが、現在進行中の2026年W杯アジア最終予選では圧倒的な力を見せ、出場国増加の恩恵を受けずとも、事実上本戦出場を既に決めたと言っても過言ではない状況だ。
 その強さの源は間違いなく、選手層の厚さだ。
 今日本のストロングポイントとなっている二列目のタレント。そのタレント力を活かすために攻撃的3バックを採用し、従来の課題の一つであった得点力不足、下位相手の取りこぼしを克服しつつある。さらには頭脳と心臓を担うボランチ陣、怪我人が多く綻びが露になりつつあるもののタレント力では二列目に負けず劣らずの最終ライン、そしてウィークポイントとされていたフォワードとゴールキーパーも、欧州の最前線で一定の評価を獲得する選手が現れつつあり、考えるだけでもワクワクするようなメンバーが揃っている。
 時期早々とはわかりつつも悲願のW杯ベスト8進出の期待が既に高まる中、現在の日本サッカーにおいて別の問題が露見しつつある。

 それは「移籍金」問題である。

 簡単に説明をすると、移籍金とは選手が現在所属しているチームとの契約を解除するために支払われる金額である。例えば2024年11月現在、2026年12月まで現在所属しているチームAとの契約がある選手が、別のチームBへと移籍をする場合、現行のチームAとの契約を解除する必要があり、契約を解除するために支払われるものが移籍金にあたる。
 サッカー界はヒエラルキーがはっきりしている世界である。極端な言い方をすれば、どの国でどのチームからプレーを始めたとしても、最終的に行き着く先はビッククラブ、或いはメガクラブと呼ばれる欧州の強豪チームになる。その理由は様々なのだが、要するに今いるチームで一番凄い選手(抽象的ではあるが・・・)はいずれそのチームよりも強いチームへ移籍をし、その強いチームで活躍をすればより強いチームへ・・・もちろん選手個人の考え方や待遇によって一概には言えないものの、これがサッカー界という世界の摂理である。
 その弱肉強食の世界で生き残るため、世界中のクラブは自らの身の丈に合わせた処世術を身につけている。
 ビッククラブと呼ばれるような欧州のトップチームは、そのブランド力によって世界中のサッカー少年とファンを虜にし、そのチームでプレーをしたいという憧れを餌に有望な選手を獲得する。有望な選手を獲得出来ればさらに素晴らしいチームとなり、ファンを増加させ、将来のスター候補生たちがまたそのチームでプレーをしたいと思う。そうしてファンが増えればチケット、放映権、グッズ、スポンサー等々により多額の金を手に入れ、その金で莫大な「移籍金」を支払い、チームを強化する。

 ※ビッククラブ内でもチームごとに財力が異なることは、現代のサッカー界においては常識である。また金に物を言わせチームを強化することを取り締まるルールも存在するが、ここでは割愛する。

 一方で、買い手がいれば当然売り手も存在する。ビッククラブが莫大な「移籍金」を支払う立場なら、ビッククラブからの「移籍金」を手にするクラブもまたある訳なのだ。
 ビッククラブが莫大な金を払い自分のチームに加えたいと思うような選手は、当然今所属をしているチームでも大活躍をしており、売り手のチームにとってもそう易々と手放したくはない存在なのは想像に難くない。先程の例えで言えば、チームAと残り約2年の契約を残してい選手をチームBが移籍金を支払い獲得したいと申し出た所で、チームAが首を縦に振らない限り移籍は成立しないのだ。
 しかしながら、選手はロボットではなく感情のある生身の人間である。幼い頃からの憧れのチーム、より高いレベルの国やチーム、圧倒的に金銭的な待遇が向上するチーム等々・・・から声をかけられたのであれば、移籍を望むことは自然である。スポーツというメンタルが大きく影響する世界、今所属をしているチームに気持ちがなくなってしまった人間が活躍出来る程優しい世界ではない。
 またチーム側から見れば、選手は資産である。今シーズンは素晴らしい活躍をしたが、来シーズンはどうなるかわからない。怪我やモチベーションの低下で成績を下げるかもしれない。そうすれば選手の価値が下がり、いわば売り時を逃すことになる。またチームの規模によっては、活躍し過ぎた選手の給料を支払うことが難しくなるケースもあり、一人のスターを雇い続けようとした結果財政バランスが崩壊し、最悪チームが消滅する可能性だってある。
 買い手はタイミングを見計らい安く買う努力をする。売り手は逆に一番高いタイミングで売る。そんな商売の基本が、サッカー界の移籍劇の中で行われているのだ。
 
 前置きが長くなったが、どうしてこの「移籍金」が日本サッカー界の問題となっているのかをまとめていく。
 まず始めに、下記の2つの事例をご覧頂きたい。
 2017年、当時スペインのバルセロナに所属をしていたネイマールはフランスのパリSGへと移籍をしたが、その際の移籍金は290億円と言われ、これは現在の世界最高額の移籍金となっている。
 続けて、Jリーグから海外リーグへ移籍をした際の移籍金最高額を確認する。それは2001年浦和レッズからオランダの名門フェイエノールトへ移籍をした小野伸二であり、金額は約8.8億円と言われている。
 さて、この金額の差を見て皆様はどうお考えだろうか。
 勿論、当然と考えてる方がほとんどであるだろう。2017年当時のネイマールと言えば、世界で5本の指に入るトップオブトップのスーパースターである。同じくバルセロナに所属をする史上最高のプレーヤー、レオ・メッシの陰に隠れてしまうことを嫌い移籍したとも言われているが、サッカー界のヒエラルキーのトップに立ち、圧倒的に買い手のチームであるバルセロナに所属するスター選手を引き抜くためには、これだけ莫大な金が必要となることは、サッカー界の移籍事情を多少なりとも知る方なら驚きつつも理解は出来よう。今と比べ圧倒的に欧州で活躍する日本人選手が少ない中で、Jリーグから欧州へ移籍をした小野伸二と比較することは、一見何の意味も持たないことである。
 しかし、私が注目をしたいのは時代である。
 2017年、ネイマールと引き換えに莫大な移籍金を手に入れたバルセロナは、その移籍金を基にイングランドの名門リバプールとドイツの強豪ドルトムントからそれぞれに100億~150億程度の莫大な移籍金を支払い選手を獲得した。さらに、その移籍金を手に入れたリバプールもまた選手獲得に多額の費用を投じた。
 お分かり頂けたように、史上最高額の移籍金はサッカー界に移籍金バブルを引き起こし、世界中をインフレーションの渦へ巻き込んだ。川上から川下へ、ヒエラルキーのトップから下へと今まで支払われていた金額の桁が変わってしまったのだ。無論ネイマールの移籍だけが原因ではないのだが、現在やり取りされる移籍金は10年以上前のそれと比べ高騰の一途をたどっている。

 さて、何となく私の言いたいことが理解頂けたかと思う。ネイマール移籍と他要因によって引き起こされている移籍金バブルは、世界中へ波及している。言うまでもなくそれはサッカー界の一端を担う日本及びJリーグにおいても例外ではないはずだ。加えて、史上最強と呼び声高い現在の日本代表。にも関わらず、Jリーグから海外リーグへ移籍する際に発生をした移籍金の最高額が、2001年の小野伸二で止まってしまっている。これは由々しき事態である。
 私は、当時の小野伸二よりも今の選手が優れているだとか、そんな単純な話をしたい訳ではない。誰よりも誰の方が凄いとか、そんなパフォーマンスの話をしたいのではなく、あくまで冷静に客観的に状況を整理すれば、20年前よりも確実にインフレしている世界で、取引における最高金額の記録が塗り替えられていないということが問題であると言いたいのだ。
 なぜJリーグはこのインフレの波に乗り切れていないのか。その理由の一端として私は、日本代表を強化する副作用が生まれているのではないかと考える。
 南アフリカで夜明けを示し、自信を胸に挑んだブラジルでの冒険は失敗に終わったものの確かな選手層を築き、ボロボロの状態で挑んだロシアで意地を見せ、カタールで奇跡を起こし、黄金時代到来を予感させた日本代表。その間代表内で起こった変化と言えば、欧州でプレーをする選手の増加である。
 南アフリカW杯ではその後日本の歴史となる長友や岡崎という面々もまだJリーグでプレーをしていたのに対して、カタールW杯においては主力でありながら欧州でのプレー経験のない選手はいなかったと言っても過言ではない状態となっている。そして現在、ただ欧州にいるだけでなく、強豪チームでしのぎを削っている選手が当たり前のようにスタメンだけでなくベンチに座っている選手層が完成している訳なのだが、一度この状況を客観的に見つめ直したい。

 もしあなたが欧州の強豪チームにおいて編成を任されている人間だとする。そんなあなたが欲しい選手とは、一体どんな選手だろうか。

 チームに得点力が足りていないと考えれば、理不尽なまでにゴールを決めるストライカーが欲しいだろう。ディフェンスラインに強度を加えたいのなら、鉄壁と形容したいディフェンダーが欲しいだろう。他にもキャプテンシーのある選手?生きのいい若手?頼りになるベテラン?チーム状況によって獲得したい選手のタイプは様々だろう。では、最も踏み込んだ話をすれば、一体何人の選手が欲しいと思うだろうか?
 残念ながら、今も世界中では人種差別の問題が至る所で発生してしまっている。差別とまでは言わないまでも、自分のチームに迎え入れる選手に対して全くフラットな目線を持つということは難しいことだ。仮に能力、年齢、年俸他様々な条件が同じ選手がいた時、それがブラジル人選手と日本人選手だったとしたならば、一体何人が日本人選手を選ぶだろう?その実力が認められつつある一方、またまだ日本に対してサッカー後進国という印象を持つ人間は世界中に少なくないだろう。(ある意味、これもまた一種の偏見であるが。)
 そして、各国のリーグでは外国人選手の枠の設定を始めとする様々な制度によって自国の選手が活躍する機会を奪われないようなルールが存在する。これは日本も例外ではないのだが、枠が限られている以上、自分の国より弱い(と思い込んでいる)国の選手に貴重な外国人の枠を割くよりも、サッカー強豪国の選手を助っ人として迎え入れたいと思ってしまうことは、考え方としてごく自然ではある。見方を変えれば、外国人選手として海外チームでプレーをする以上、例えそこがどこの国でどんなチームであろうとも、結果で居場所を作り出すしかないのだ。
 そんな圧倒的なタフさが要求される中、これ程多くの日本人選手が欧州でプレーを出来ている理由。その理由の一つことまさに、移籍金の安さなのではないかと考える。
 欧州のチームと言えど、当然全てのチームが圧倒的な財力とブランド力を持っている訳ではない。先に述べたようなスペインのバルセロナ、イングランドのリバプールと言ったリーグのレベルのクラブとしての箔も世界トップレベルのチームもあれば、リーグのレベルはJリーグより低い国やJ1のチームよりも財力が弱いクラブも当然存在する。そんなクラブの財源となるのが、選手の売買によって得る利益である。世界中に見つかってしまったダイヤの原石を獲得する資金力はないが、比較的安価で手に入り価値が下がるリスクが少ない、そんな選手を求めているクラブが最近目をつけているのがJリーグなのだ。
 繰り返しになるが、選手は機械ではなく人間である。幼い頃から欧州のトップレベルでプレーをしたい、日本代表としてW杯に出たいという願望を持った選手が、例えその国の2部リーグやJリーグよりも実力が下とされているリーグであっても、極東の日本にスカウトを送るよりも同じ欧州内のチームでプレーした方が強豪チームの目に留まるのではないかと考え、一日でも早く欧州に移籍をしたいと考えることは不思議ではない。またいきなりトップレベルに挑戦をするよりも、一定の出場機会を見込めるチームで海外に適応し、そこで自身の価値を証明して上を目指すというやり方が、近年の日本人選手の中で主流となってきており、日本代表の主力たちもそうして自身の所属しているクラブで地位を確立した人間も多い。
 そうなれば、海外のチームは自分たちの地の利を生かし、野心ある日本人選手たちへ声をかける。近年では欧州各国で多くの日本人選手が活躍をしている背景から、選手たちは成功例にあやかりたい気持ちと早く追いつきたい焦りでとにかく早く欧州へ行きたい。海外クラブは比較的割安の移籍金でリターンが見込める選手を獲得できるという、この2者間においてはウィンウィンの関係が生まれている。
 そしてその割を食っているのが、Jリーグなのである。
 例えば、現在は怪我によりプレーが出来ていないが、この夏ドイツの名門バイエルンミュンヘンへ移籍を果たした伊藤洋輝。昨年まで所属をしていた同じくドイツのシュツットガルトへ支払われた金額は凡そ39億円と言われているが、そのシュツットガルトが日本時代伊藤が所属をしていたジュビロ磐田へ支払われた移籍金は約5000千万円とされている。
 当時、シュツットガルトへ移籍する前の伊藤はJ2に所属するジュビロ磐田の一員であり、J1ですら圧倒的な成績を残した選手ではなかった。そう考えればこの移籍金は妥当と言える。しかしながら当初リザーブチームでのプレーを予定していたとは言え、その将来性を評価し獲得に至った結果、伊藤はブンデスリーガで才能を開花させ日本代表に欠かせない一人となり、シュツットガルトは海老で鯛を釣るなんてことわざすら呆然としてしまうような売買益と掴んだ。そしてジュビロ磐田は雀の涙程の金を握り締め、海の向こうにいるユース出身のディフェンダーを応援していることだろう。
 一体どうすれば、この状況を打破できるのか。現実的に考えて、Jリーグに所属する日本人選手が直接バルセロナ、レアルマドリード、バイエルン、マンチェスターシティなどの強豪チームへ何十億円、何百億円という金を残して移籍する可能性は皆無である。だが今の日本人選手のクオリティを考えれば、十億円という額をJクラブに残して欧州へ飛び立つ選手がいても不思議ではない、そこを目標にしなければJリーグに未来はないのではないかと考える。
勿論、金儲けが全てではない。しかしながら、サッカーというコンテンツ、Jリーグというコンテンツの魅力を上げていくために、金勘定は切っても切り離せない。
 ここでは、全くクラブの経営に携わっていない、ただのサッカーそして金勘定が好きなだけの筆者が、合っているかもわからない情報を頼りに憶測でJリーグを10億円で売る方法を考えていきたいと思う。
 興味を持って頂いた方は、ぜひ次回も読んでいただきたい。
 
 

 
 
 
 


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