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「傷つく」という感情
「傷つく」という感情って、私の中では怒りとか悲しみとかショックとかの感情とセットで記憶になっていることが多い。
ただ覚えている中で1件だけ「傷つく」以外に分類のしょうがないことがあったから、それについての覚え書きです。
母は単純な音の繰り返しを嫌う人だ。
秒針がカチカチ鳴る時計はうちに無い。
手拍子も「やめて」と言われて育ったし、同じフレーズが繰り返される曲も気を遣って一度も聴かせなかった。
小学校高学年の頃に私が好きなものと言えば、TWICEとすみっこぐらしの2択だった。あたしかわいい。
いつか父がガチャガチャで、すみっこぐらしのゆらゆらマスコットを買ってきてくれたことがある。
小さなソーラーパネルがついていて、陽の光に当てるとキャラクターが揺れる。
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でも似てるはず…
顔がみんな可愛くない。
娘が好きだろうからとおじさんながらも1人でガチャガチャを2度も回した父には申し訳ないが、それを見た正直な感想だった。
もちろん口には出さなかったが父自身もうっすらと感じていたのか、ゆらゆらマスコット2体は家中でいちばん日当たりの良い父の部屋に置かれ、移動することは無かった。
父の部屋では光の強さが十分すぎて、マスコットたちは微かにコトコトと音を立てながら揺れていた。
時は経って緊急事態宣言が行われた頃、父の部屋でマスコットたちがたまたま目に留まり、話題にした。
この子たちずっといるね、と言う私に対し、父はいくつか置き続ける理由を挙げたと思う。
ただ、その最後に苦笑いで放った言葉だけが今でも忘れられない。
まあ、ママ避けになるからね。
両親が単純に「合わない」人たちであることも、関係がそこはかとなく微妙であることも感じ取っていた。
家で唯一印刷機があるその部屋に母が入る度、嫌そうな顔をする父も何度となく見てきた。
そんな中でも、両親の関係がこれ以上悪化せず、離婚などすることが無いよう密かに願っていた時期だ。
はっきりとは見えていなかった事実を、本人の手によって突きつけられた。
だが何も衝撃的では無かったのだ。
全て知っていたから。
この時の父の発言が心に重く残って、しばらくは思い出す度に気分が沈んでいた。
思い返すと、これが純粋な「傷つく」気持ちなのだろうと思う。
ショックも怒りも悲しみもセットになっていない。単品だ。
私は間違いなく、両親の愛をたっぷりまっすぐ受けて育った。
その両親間の愛がとっくに尽きていた、それだけ。