<連載>OMと旅する鉄道情景(第16回/神谷 武志)GROUP K.T.R
「生きている軽便蒸機」の魅力
~北海道紋別郡遠軽町丸瀬布上武利 「丸瀬布いこいの森」雨宮21号~
大雪の山々を越えた先にある、林業で栄えた町・丸瀬布。ここにはかつて森林鉄道で活躍した、小さく愛らしい蒸機「雨宮21号」が今も元気よく煙を上げています。
「町の宝」は国の宝。雨宮21号
1928(昭和3)年。
雨宮21号(当地では「雨宮号」と呼ばれています)は当地で開業した森林鉄道で使用されるべく、貨車に載って半製品(部品)状態で丸瀬布駅に到着しました。
小さな愛らしい機関車は、町の人々みなが見守る中で組みあがっていき、産声の汽笛を鳴らしました。まるでポニーの誕生のように。だから、雨宮号は生粋の「丸瀬布生まれ・丸瀬布育ち」。修理修繕時を除いて、ここよりほかの場所を知りません。
雨宮とはかつて日本にあった軽便機関車のメーカー名ですが、その社名は当地ではこの機関車の固有名詞。町中一丸となって大切に守ってきました。
ケムリが消え、線路も無くなってのちの1979(昭和54)年。引退から21年にも及ぶ長い期間を乗り越え、営林署から晴れて町の財産になった雨宮号は徹底的な修理を経て、見事「奇跡の動態復活」へ。
今では北海道遺産・林業遺産・準鉄道記念物・近代化産業遺産にも指定されています。日本唯一の「動く雨宮」です。
ここ「いこいの森」公園は、キャンプ場です。雨宮号の活躍舞台は、園内に8の字に敷かれた約1.8㎞のレールの上。水遊びやバーベキューを楽しむ家族連れの歓声と一緒に、汽笛が山々に響きます。なんと素敵な、「唯一無二」のキャンプ場。常に全国キャンプ場の人気上位だというのも頷けます。
夏まつりの花火を、手持ちで撮る
2024(令和5)年8月、コロナ禍での中断を経て、 42回目となる「夏まつり(丸瀬布観光まつり)」が復活しました。
残念ながら客車の電飾や、日没後の運転は取りやめになってしまいましたが、それでも綿あめやヨーヨー釣りの露店が並ぶ背景に、ごく当然のように雨宮号も一緒になって参加しているさまは、嬉しく微笑ましい情景です。
そして夏祭りの〆といえば、夜空を彩る大輪の花火。「生きている軽便蒸機と花火」が同じフレームに収められるのもここだけ。
つい「ここだけ」フレーズを乱発してしまいますが、本当に、宝物のように大切にしたい貴重な場所です。
定刻。花火が上がります。
あれ?予想していた場所より打ち上げが相当右側に寄っている…。
数年前の打ち上げ場所とは違ったようです。
花火はごく短時間。
でも、焦りは禁物。大丈夫。
だって、ここぞ。OM SYSTEM の威力を発揮するところ。
セットしていた三脚からカメラを外し、手持ちに切り替えてポジション変更。「花火も手持ちで撮る」。以前だったら言語道断の撮影方法(笑)も、OM SYTEMが現実のものに変えました。
数年前に肩を痛めてから、手持ち縦位置が苦手になってきた私。それでも出来るだけしっかりとカメラをホールドし、OM-1の頑張りを信頼して設定はシャッター速度2秒。ファインダーにきっちり収まる打ち上げ花火。手持ちなので微妙なフレームの変更も自由自在です。帰路、大切なカットを難なく抑えた相棒・OM-1くんのアタマをポンポンと軽くたたいて労いながら、臨時運行のバスの客となって駅へと向かいました。
「閉園式」で機関車に感謝を捧げる
季節はもう秋。なので花火は来夏までお預けですが、運行終了になる10月の最終日(閉園)には、安全を保ってシーズン中活躍してくれた雨宮を庫に収納する「運転納め」の式典があります。
神主さんがお祓いをして車両たちに一同の感謝の気持ちを伝えます。神妙に(のように見える)佇む雨宮号。お神酒を捧げ、機関車に向かって一同礼。見守る私たちももちろんこうべを垂れます。「車両」が単なる無機物ではなく、人車を越えた大切な「町の仲間」という、深くて篤い気持ちが伝わってきます。
式典のあとは、雨宮号の「蒸気抜き」の儀。
勢いよくほとばしった蒸気がだんだんと弱まり、最後、これも貴重なDLの手を借りて入庫すると本年の雨宮号のお仕事は完全におしまい。
冬場には札幌に陸送して入念な健康診断を行い、来年5月の再びの出番に備えます。
私も今から、来年の訪問計画作んなきゃ。
筆者紹介
神谷 武志(カミヤ タケシ / Takeshi Kamiya )
1963年 東京都新宿区生まれ。1995年より、交通新聞社「月刊鉄道ダイヤ情報」誌にて海外蒸機紀行を6年、国内編を4年、足掛け10年間連載を担当。ほかJAL機内誌や鉄道雑誌(日本・台湾)などで活動。著書は「世界を駆ける蒸気機関車」(弘済出版社)、「日本路面電車カタログ」、「蒸気機関車紀行」(イカロス出版)など。クラブツーリズム社写真ツアー講師。「鉄道写真をもっとオトナの趣味に」をテーマに、地元・鉄道・撮影者がみなHAPPYになれる関係を目指して、さまざまな撮影イベントを企画・運営している。
※GROUP K.T.Rとは、このnoteを担当する「鉄道を愛し、OMを愛する」3人のフォトグラファー牧野和人、神谷武志、高屋力の名前のイニシャルから取った頭文字です。
グループの首謀者神谷の準地元であり、OM SYSTEMの地元でもある「京王線」の旧社名をリスペクトした名称でもあります。今後もさまざまな鉄道ネタをご紹介していきます。どうぞお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
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