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長編小説⑦:下準備がだいじ
楽園にいたときから、女のうえにのり性行為をおこなうと主張してきた自分勝手な男を殺すことなく、神具のまえまで楽に運ぶ方法はないものかと私は考えこんでいた。
なかなか妙案がうかばずに、仕事でもありえないミスを連発してしまった。
体と脳を休ませようと、ゆっくりと湯船につかる。ロウソクに火をつけ、電気の照明は消した。
お風呂からあがったあとは、海外のドラマをゆっくりと視聴した。
運命としか言いようがない。神が私に正義を執行せよ、卑猥で邪悪な男を断罪せよと神託をくだされた。
私の目にうつりし神託。それはスタンガンだ。
メガネをかけたひ弱い女性が、筋肉隆々かつ軍隊あがりで冗談みたいな胸毛をはやしたマッチョな男を一瞬でシビれさせる映像が目に飛びこんできた。
スタンガンは、どこで販売されているのか、また、日本で販売されているのかを知らない。
その日から、スタンガンをもとめる旅がはじまった。
知りあいに声をかける、図書館にかよう、大型のショッピングモールやホームセンターを駆けまわる。
そして、私はいま、アメリカ軍基地のすぐ横にある薄暗い店のなかにいる。
大人ひとりだけが歩ける狭く細い通路。
軍からはらいさげられた迷彩色の服やカバンが無造作につみあげられている。
戦争映画でみかけるドッグタグ。頑健なブーツ。堅牢なリュック。銃弾をうけとめるチョッキ。
とろんとした目で私をみつける女性店員にスタンガンがほしいと伝える。
カウンターの下に手をいれる彼女。
ガチャガチャと金属がこすれあう音が耳にとどく。
透明なガラスのカウンターのうえに無骨な黒い機械がおかれた。
ドラマで見たスタンガンとおなじものだ。
私は女性からスタンガンの使い方の講習をうけた。
彼女の左肩には、左目をとじた天使のイレズミがいれられている。
彼女は真剣にスタンガンの使い方を私に説明してくれた。
店をでるときに、店員の彼女は左手をつきだし親指を天にむけ「GOOD LUCK」と私に声をかけてくれた。
私は彼女の声にはげまされながら店をでた。
しばらく歩いた。何かが消えた気配をかんじた。背後をふりかえる。
スタンガンを買った店が、夢幻のごとく消えていた。
8話