夢を書く百一夜④
参拾一夜
おれは、バーカウンターにすわっている。
バーカウンターの長さは10メートルほどある。
おれは、バーカウンターの真ん中にすわっている。
バーカウンターの向こう側には、酒棚がある。
バーカウンターとおなじく10メートルほどの酒棚には、色とりどりの酒瓶が並べられている。
おれの右側は、バーの出入り口があり、おれの左側には、6つのボックス席がならべられている。
バーカウンターの一番左端は、スイングドアがとりつけられており楽にボックス席に移動できる。
バーカウンターと酒棚のあいだは、大人ふたりが自由に行き来できるスペースがある。
おれのまえには、30歳前半のバーメイドがたっている。
この店の主人のようで風格がある。
服装はスーツのような、着物のような判別できず。
就寝するまえに、応募していた小説コンテストの結果発表があった。
いい小説が書けたと自信、自負のあった小説だった。
おれは期待していた。
棒にも箸にもひっかからず。
ズドーンと意気消沈していた。
夢とわかっているおれは、ふだん飲まない長期熟成されたテキーラをくれ、と注文した。
バーメイドは、後をむき、酒棚から、黄金のドクロの瓶をとりだした。
そして、おれのまえにドクロの瓶を置いた。
照明にてらされたドクロが、キラリと光り、カカッと歯をかちあわせて笑った。
「この、うつけもの」
バーメイドは、日本刀をとりだし、ドクロの瓶を一文字に切ろうとしたのだけども、瓶は切れず。
そして、ボックス席のほうにスっ飛んでいった。
バーの一番奥の壁にぶつかったドクロの瓶は割れることなく転がり、黄金バットのように「うはははは」と笑いだした。
黄金のドクロの口から、大量の酒があふれだし、バーの床はびちゃびちゃになった。
場面かわる。
おれは、びちゃびちゃになったバーの床をモップで掃除している。
モップには、ホコリと液体が混ざった灰色のものがベットリと付着している。
なんで、おれは掃除しているんだ、とアホくさくなりモップを放りなげた。
現実のカーテンをとおし、淡い朝日が、おれのマブタを温める。
いつもであれば、起きる時間だ。
小説を書いたり、英語を勉強する時間ではあるが、落選し自暴自棄に落ちいっていたおれは、布団のなかにもぐりこんだ。
場面かわる。
おれは、中華料理屋のカウンターにすわっている。
カウンターは赤く、食べるスペースの奥行きは30㎝ほどある。
両サイドには、だれも座っていない。
食べるスペースの対面は、階段のようになっており出来上がった料理を置けるようになっている。
カウンターのむこうには、ナマズによく似た顔の料理人がいる。
たいかくは肥えているが、ボクサーのように軽快にオタマをあつかい、中華鍋をふり料理をつくっている。
おれの目のまえには、中華粥がおかれた。
白い陶磁器にいれられた、白い粥は、どんどんと明るく発光しだした。
おれはまぶしくなり、目をつむった。
参拾弐夜
20歳ぐらいの女が森のなかに、ぽつんと立ちすくんでいる。
女のまえには、二頭のゾウをつみあげたほどに巨大なゴリラが座っている。
ゴリラが、右手をひろげて地面においた。
女はゴリラの手のひらにのった。
右手に女をのせたゴリラは、ずんずんと森のなかをすすんでいく。
白い壁にかこまれた街に到着したゴリラ。
ゴリラはたちどまり、女の地面におろした。
女のまえに、衛兵をつれた王子様があらわれた。
王子様と女は恋に落ちた。
ゴリラは守り神として祭られるようになった。
女と恋に落ちた王子様は、王位第二後継者だった。
ゴリラを味方につけ、貧民たちのために活動する第二王子を憎々しくおもう王位第一後継者の王子とその取り巻きがいた。
取り巻きたちは、第二王子がひとりになったときを狙い殺害した。
女は、第二王子の死体をながめている。
第二王子の目はつぶされ、歯はすべてひきぬかれていた。
女は顔を手でおおい慟哭した。
巨大なゴリラが、彼女の横によりそうように立っている。
ゴリラの大きな右目から、巨大な雫がながれおちた。
参拾参夜
おれは手紙とハガキの仕分けをしている。
おれの目のまえには、手紙とハガキをいれるための箱がたくさん並べられている。
住所ごとに決められた箱に手紙を放りこんでいく。
おれのノルマをすべて終わらせると休憩時間になった。
いっしょに休憩をとっていた先輩が、おれにお土産をくれた。
フランスで買ったジッポライターだった。
「こんな高価なものをいただいてよいのですか?」とおれはたずねた。
「安かったので気にすんな」と返答された。
おれは、ジッポライターのふたをひらき、火をつけようと黒いちいさいタイヤのようなパーツを右手の親指でまわした。
がりッと音はたてるが、なんども黒いパーツをまわしても火はつかず。
おかしいな、と思ったおれは、ジッポライターを分解してみた。
ジッポライターの綿にオイルをしみこませ、そのほかのパーツもしっかりと確認したのちジッポライターを組みなおした。
おれの右手のなかに収まっているライターは、ジッポライターからダンヒルの黄金のライターにかわっていた。
黄金のライターにとりつけられたマニ車のような部分をまわすと、青い火がともった。
参拾四夜
おれと友人が、MMOオンラインゲームについて語っていると、背後から声をかけられた。
うしろをふりむくと、ドワーフのようにずんぐりむっくりとした体形の先生がいた。
先生は、息子がMMOオンラインゲームにはまり、部屋にひきこもってしまいコミュニケーションをとれなくなったしまった、と困っている。
悩んだ結果、先生もおなじオンラインゲームをプレイすれば、会話のきっかけをつくれる、もしくはゲーム内でチャットできるのではと考えられた。
そこで先生は、おれたちにオンラインゲームを教えてくれと頼んできた。
おれと先生は、パソコンとオンラインゲームのソフトを電気量販店で買った。
そして、先生の家にいき、パソコンを設置し、オンラインゲームをインストールしていると、先生の家の2階から、コロスやら、シネやらの罵声が聞こえた。
息子の声だそうだ。
ゲームをインストールしたあと、おれは先生に操作方法やルールなどを教えた。
そして、先生の弱いキャラを強くするためにいっしょにプレイしようとゲームにログインした。
ゲームにログインすると、おれはゲームの世界のなかにはいりこんでいた。
おれの目のまえには、天までとどく世界樹がそびえたっており、世界樹の幹はサクラダファミリアほど太い。
あたりはモンゴル高原のようになにもない。
モンゴル高原とちがい、緑の芝生がおいしげっており、世界樹へとつづく茶色い道がある。
世界樹へむかおうと、おれは一歩足をふみだした。
参拾伍夜
おれは、鉄の剣を右手にもち、左手には丸い木製の盾をもっている。
中世の西洋風のズタボロの服を身にまとい、ボロボロのマントをまとっている。
おれは、襲いかかってくるゾンビを斬りたおしている。
ゾンビの動きはおそく、右へ左へかすかに揺れながらちかづいてくる。
かんたんに叩き斬れるが、いかんせん数がおおい。
見渡すかぎりのゾンビの群れ。
おれの左手あたりにカーソルがあらわれた。
いろいろな人間の名前と職業が書かれている。
ちいさい英語で書かれており、読むことはできないが、おれは聖職者をよびだした。
おれの左後方に聖職者があらわれた。
そして、なにか聖句をとなえだすと、バスケットボール大の光の球体が出現した。
その球体は、ゾンビの群れに飛びこみ、そして、炸裂した。
ゾンビは木っ端みじんにくだかれ、こまかいゾンビのパーツが宙を舞う。
ゾンビのパーツがすべて地面に落ちた瞬間。
地面がゆれだした。おれはたたらをふむ。
地面のゆれは、どんどんと大きくなり、そして震源地はちかづいてきているようにかんじられた。
おれの目のまえに、ビル2階の高さに相当する怪物があらわれた。
闘牛士を5人ほど殺してそうな怪物の顔。
手も足もヒヅメなのだが、両手でおおきな斧をもっている。
肌は赤く、乳首は黒い。大人の二の腕ほどの長さの桃色のペニスがだらりとたれている。
ミノタウロスだ。
ミノタウロスが、雄々しく吼えた。
そして、おれと聖職者をおおきな斧でなぎはらった。
参拾六夜
おれはバスルームにたっている。
目のまえには白い浴槽が置かれている。
大人ひとりが、ゆっくりと寝そべられるほど大きい。
おれは、白い浴槽はきれいではあるが、殺風景すぎると思った。
そこで、どこからとなくとりだした桜の枯れ枝を浴槽の中央に刺した。
桜の枝を刺したところから、お湯があふれだした。
浴槽いっぱいにはられるお湯。
白い湯気をたてる透明のお湯。
愛くるしい桃色の花が咲いた枝がぷかぷかとお湯に浮いている。
参拾七夜
おれは、仕事にさそわれた。
高校時代につるんでいた人物に仕事をしないかと声をかけられた。
なんでも、マダムのあいてをするだけで、とほうもない大金をもらえるとのこ。
興味ぶかかったので、おれは仕事をうけた。
あらわれたマダムは、すらりとした身長。よけいな贅肉はなくほっそりとしている。
ストレートの黒い髪は肩にかかっている。
体のラインが透けて見えそうな白のワンピースを着ている。
顔は清楚。よけいなメイクをしておらず白皙。
ここから、性少年たちが期待するムフフっな展開に突入するわけだが、おれの発想が貧困なのか、中華レストランで飯をたべ、そのあと、白いシーツがかけられたダブルベッドでいたした、と早送りのように物語がすすむ。
そして、おれは、大金とマダムの名刺を手にいれ自宅にかえる。
自宅にかえり、ベランダにでると、隣の家との境目にあったブロック塀がすっかり消失していた。
母にどうなっているのたずねる。
隣の土地を買ったとのこと。
すきな樹木や野菜を植えていい、といわれた。
おれは、マダムの名刺に書かれている電話番号にコールし、マダムにほしい樹木を注文した。
しばらくすると、黄色いコルベットにのったマダムが、あわてておれの自宅にやってきた。
なんでも、マダムの部下が、金額の桁をまちがえて樹木を注文したそうだ。
こちらの不手際なので、おれには迷惑をかけないとあやまるマダム。
そのとき、ゴキブリのようにひらべったい車が自宅のまえにとまった瞬間、夏の夕立のような強烈な雨がふりだした。
ゴキブリのような車はオープンカーだった。
車にのっているふたりは、ビショビショにぬれた。
車からおりてきた二人の人間。
小学校のころにつるんでたやつと、大学のときにつるんでいたやつだった。
ふたりは、発注した商品の金を払えとおれにすごむ。
マダムがふたりを押しとどめる。
さらに、黄色いミニクーパーが自宅のまえにとまった。
ながいあいだつるんでいた先輩が降りてきた。
そして、また金をはらえとおれにすごむ。
ユングを読みだし、夢へ知識をたくわえる。
夢をみながら、人物や乗り物について考えるようになりだす。
参拾八夜
おれは、大阪駅の地下にたっている。
飛行場に行くためには、地下鉄にのり、飛行場いきのバス停にいかなければならない。
おれは、地下鉄の駅をめざし歩きだす。
オープンテラスの喫茶店をとおりぬけ、こじんまりとしたキヨスクの横にある階段をのぼり外にでた。
おおきなショッピングモールが威圧するようにたちならんでいる。
おれが知っている大阪の街並みの姿ではなかった。
おれはスクランブル交差点をなんども、なんども往復してやっと地下鉄の駅にたどりついた。
地下鉄のホームにやってきた銀色の電車にのった。
けれども、地下鉄は地下を走らずに、淀川にかけられた橋をわたっている。
目的地についたので電車からおりる。
バス停へとつづく道は、不思議の国のアリスがまよいこんでしまったような緑の生垣でつくられた迷路がひろがっている。
おれは、左へ左へと迷路をすすんでいく。
しばらく歩くと生垣の迷路をぬけバス停にたどりついた。
オレンジ色のバスがやってきたので乗りこむ。
バスのなかに乗客はおらず。
座ったシートの色は青く、そして安物の映画館のシートのように座りごこちが悪い。
ふと気づいた。おれは乗車賃をもっていないと。
無賃乗車になってしまうと、おれは服やカバンをひっくりかえした。
440円の硬貨がでてきたので安心する。
おれは、飛行場の搭乗口で友人をまっている。
友人は搭乗時間までにあらわれなかった。
おれは、ひとりで飛行機にのりこんだ。
飛行機の右側の席にすわりこんだ。
シートベルトをしめ、いよいよ飛行機が離陸する。
飛行機は、ゆるやかに上昇せずに、ロケットのように直角に空にのぼっていく。
添乗員さんが、飛行機の下部に落ちていった。
参拾九夜
夏侯淵が、こだかい丘にたっている。夏侯淵は三国志の登場人物。魏の曹操につかえた武将。
夏侯淵は、馬に騎乗しており、左手には短弓をにぎりしめている。
夏侯淵の背後には満月がうかんでいる。
夏侯淵の軍隊は、張飛の軍隊と戦いつつ丘まで後退してきた。張飛は猛将と酒呑みの代名詞、夏侯淵とは敵対する国に所属した。
張飛にひきいられた軍隊は、髪をふりみだし、武器はもたず、類人猿のように疾駆している。
夏侯淵はあわてず、馬の尻に吊りさげられた矢筒から三本の矢をぬき、目にもとまらぬ早業で三本の矢を発射した。
すべての矢が、猿のような人間の眉間に命中した。
つぎに発射する矢をひきぬこうとする夏侯淵。
夏侯淵の右手のしげみから、老人のスパルタ兵がとつぜん飛びだしてきた。
スパルタ兵は右手にもつ槍を夏侯淵めがけて力づよく投げた。
一本の白い直線のような線を空にのこしつつ、槍は夏侯淵の右腹にふかく突き刺さった。
四拾夜
おれは父が運転する車の助手席にすわっている。
時速60㎞ほどの速度で車は走っている。
おれたちの車のまえには、四角い形の茶色の軽自動車がはしっている。
軽自動車の後ろの窓は、真っ黒でなかは見えず。
軽自動車が坂道をのぼっていく。
軽自動車は坂道の頂上にたどりつき、反対側の斜面をくだっていく。
水平線に船の帆がしずむように、軽自動車のてっぺんが見えなくなった。
父が運転する車も軽快に坂道をのぼり、頂上にたっした。
ジェットコースターがすべり落ちる瞬間のように、坂道のむこうがわが見えた。
軽自動車が、坂道の途中で停車している。
おれは、「危ない」と声をあげた。
父がおもいっきりブレーキを踏みこむ。黒いタイヤのゴムが削れる音、アスファルトをこする音が聴こえてきた。
おれは、軽自動車のさきを眺めた。
軽自動車のさきには、車も障害物もない。
茶色い軽自動車は、おれたちから見えない位置に停車し、追突し示談金をふんだる気だったのだろう。
なんという悪意だ、おれは強く憤った。