読書感想文『 友情 』自然な笑みがこぼれる青春小説
武者小路実篤。
貴族みたいな名前だなと思っていたら、ガチの元貴族の家系。
志賀直哉たちと同人誌『 白樺 』を創刊したことでも有名。
この時代の作家すべてにアテはまることなんだけど、幼年期から漢文にしたしみ、さらに武者小路実篤は、18歳でトルストイも読んでいる。
トルストイを読んだ人間のほうが少ないであろう、いまの日本。
もちろん、わたしも読んでいない。
しかも、武者小路実篤は、トルストイを独語で読んだというのだから驚きである。
18歳で英語を読める話せる日本人が、はたしてどれだけいるか。
さらに、英語でトルストイを読める人間ともなると。
中学と高校で6年間ほど英語の勉強をしているというのに、どうしてこうなった日本の教育。
私の愚考するところでは、音読・朗読しなくなったからだと思っている。
カリカリ、シコシコと静かに勉強するよりも、音読しながら勉強したほうが、よっぽど第二言語の習得がはやくなると思う。
さらに、文章を読むことで、耳でも名文を吸収した明治・大正・昭和初期の文豪たちは、漢文や外国語の名文のリズムを自然に脳にきざみことだろう。
武者小路実篤もそのなかのひとりだと思う。
『 友情 』の文章は、一文一文が短い。
漢文のように、ポキポキとしている。
読点をうつ必要がないほどに短い。
ハードボイルド文体とも、いま流行りのライトノベル文体ともいえるかもしれない。
武者小路実篤は、いまの世の読者にも読みやすい文体だと思った。
ふるめかしい単語もでてくるが、てきじ今風におきけるとよき。
『 友情 』の愛されぐあいは、重版数をみればわかる。
おどろきの百越えである。
いま、なお愛される『 友情 』
『 友情 』は、くたびれきって、ヨレヨレのおっさんには眼がくらまんばかりの光をはっする太陽のようにまぶしく恋に焦げ、イカロスの羽すらをとろかす愛の物語。
つきあった女性に「あなたが危険な目にあっても助けないし、逃げるよ」とのたまう私では考えらないほどに恋に恋している三人の登場人物。
ここまで恋に夢中になれるのかと、すこしだけ呆れたような、うらやましいような気持ちになった。
恋が成就し、つきあうことになった瞬間の手紙は、一読の価値がある。
無邪気で純粋な喜び、奔放な幸せにあふれかった手紙は、歓喜が狂気へ転化したのではと思わされる愛の洪水としかよびようのない筆のはこび。
このあとの手紙は、ネタバレになるので書けない。
ふだんであれば、電子書籍でも本を読む。
『 友情 』は、ぜひとも紙で読んでいただきたい。
この手紙のつぎのページをめくった瞬間、あなたから自然な笑みがこぼれる。
それは快活でほがらかで天真爛漫な笑いであり、心のなかをホウキで掃除したように清々しい気持ちになることだろう。
青春をわすれさり、疲れきった現代人の清涼剤になる『 友情 』
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