超上位合格者に学べ!社会人受験生のための合格10ヵ条
「学生さんたちの『長時間勉強したぜ!ツイート』を見てると、メンタルつらくなるんだよね…心から尊敬するし、あの気迫は是非見習いたいんだけど…」
「うん…我々の場合、真似したくても(物量面は)真似できないからね…」
予備の論文試験2日前、オンラインロースクール(OLS)で知り合った勉強仲間とそんなようなことを喋っていた。
予備試験受験生の約半数近くは「仕事を抱える受験生」だし、ロースクール組の中にも働きながら勉強を続けている人がいる。自分の家庭を持ち、仕事(家事・育児・介護含む)・勉強のマルチタスクを必死でこなしている人だって多い。
日々やるべきことに追われ、仕事や家庭のストレス、さらには思うように勉強時間が取れない罪悪感・焦燥感にさらされて。
「責任」という名の重い荷物を背負った私たち社会人は、大学受験時のようには自由に動けない。
それなのに、試験本番では勉強時間・環境面ではるかに恵まれた大学生やロースクール生と戦わないといけないわけで……正直、理不尽の極みである。
と、まあ、ここで愚痴っていても仕方ない。不自由すぎる私たちは、少ない時間でなんとか現役の学生さんたちに対抗しなければならないのだ。
そんな悩める社会人受験生たちの「処方箋」とでもいうべきイベントが、OLSで開催された。
あいかわたくみ先生の「兼業受験生のための受験戦略」である。
「兼業受験生のための受験戦略」とは?
【今回の担当アドバイザー】
あいかわたくみアドバイザー
あいかわ先生は2017年度の司法試験超上位合格者にして、現役バリバリの医師でもある。ご本人のツイートによれば、ロースクール在学中も1ヶ月に80時間くらいは医療機関で働いていたらしい。
1日に5~6時間勤務していた時期もあったようで、「さすがにフルタイムで働いている人ほどではなかったけれど、他のロースクール生と比べると時間がない方ではあった」と、当時のことを振り返り、あいかわ先生は語る。
以下で紹介するのは、我々OLS生が氏に伝授された「社会人受験生のための処方箋」を10ヵ条風に(意訳しつつ)まとめたものである。
働きながら司法試験超上位合格(公法系1位(!))を達成した先輩合格者直伝、社会人受験生ならではの受験必勝術をご覧あれ。
【超上位合格者が教える】社会人受験生の心得10ヵ条
【その1】専業受験生にマインドで負けるな
社会人受験生のお悩みナンバーワンといえば、「勉強時間の圧倒的足りなさ」。しかし、勉強時間が少ないからといって、専業受験生に比べて不利になるわけではない。
人の集中できる時間には限りがある。1日8時間も10時間も集中して勉強できる専業受験生はほぼいない。また試験対策に直結しない勉強をしている学生も多い、という実態がある。
というわけで、勉強時間が少ないからといって、マインドで専業受験生に負けてはいけない。「相手もどうせ見かけほどは勉強できていないし」というある程度の開き直りが必要である。
【その2】ゴールはトータルで考えよ
受験というのは、人生の1つの目標でしかない。たしかに合格することは重要だが、人生それだけではない。社会人受験生たる者、本業のキャリアや家族といった受験以外の要素も踏まえたトータルで目標を設定するべきである。
「とりあえず合格して、就職すればいい」というわかりやすいゴールが決まっている学生とは違い、社会人のゴール設定はもう少し複雑なはずなものであるはずだ。
人生は長い。広い視野をもって、自分らしい「ゴール」を決めよう。
【その3】年齢の問題は直視せよ(ただしポジティブに)
社会人受験生は、受験生全体のなかでは年齢層が高めになりやすい。それだけに、体力面では10代・20代の人のようにはいかないことも多いだろう。そのあたりの現実についてはきちんと直視する必要がある。
ただし、法律という学問は面白いもので、実際の答案作成では「年齢を重ね、社会人経験を積んだこと」がポジティブに働く場面も多い。
経験則や一般常識が重視される法律の世界では、専門知識だけあっても答案は書けないからだ。
事実の評価や価値判断、バランス感覚といった分野では、むしろ社会人経験が生きる。
体力面で不利になりやすいのは事実だが、基本的に年齢のことはポジティブに考えるべきである。
【その4】「正しい戦略」のPDCAを回せ!
効率よく勉強をすすめるためには、「どのような方針で、どう勉強するか」という戦略面が大切である。特に、時間のない兼業受験生は、勉強方針を間違えてしまうとリカバリーするのが難しい。
それだけに、専業受験生以上に、戦略面については徹底的に考え抜くべきである。自分の置かれた環境、当座の目標などをにらみながら、今の自分にとって必要な勉強が何かを考えよう。
また戦略は一度立てて終わりにするのではなく、こまめに見直すべきである。
自分にとって必要なことが本当にできているか。1日ごとにPDCAサイクルを回すくらいの覚悟で取り組むのがよい。
勉強には多少の試行錯誤がつきものだが、こまめに軌道修正していれば、万が一失敗した時もダメージを最小化できる。
【その5】かけられるコスト・かけられないコストを見極めろ
人はそれぞれ置かれた環境によって、かけられるコストが違う。かけられるコスト・かけられないコストを見極め、自分に合った勉強戦略を立てよう。
たとえば、学生は時間があるので、勉強に対して「時間」というコストはかけやすい。
逆に、社会人には圧倒的に時間がない代わり、(少なくとも学生よりは)自由に使える「お金」がある。予備校の講座や個別指導などに金銭というコストをつぎこめるかもしれない。ゆえに、ときには、お金で時間を買う、という発想もアリである。
ちなみに、時間というリソースを節約するためには、わからないことや悩みがあったら「周囲の合格者や勉強仲間にとりあえず相談する」というのもおすすめである。
自分の頭で考えるからこそ成長できるという側面もあるが、社会人受験生の場合タイムロスは命取りになりかねない。失敗する可能性を減らし、また悩む時間を減らすためにも、周囲にどんどんアドバイスを求めよう。
【その6】勉強時間を「なんとなく」過ごすな
とにかく時間がない受験生にとって、目的意識に欠ける勉強は「悪」である。
たとえば、特定の問題集を何度も反復するという勉強。もちろん反復回数が増えるにつれて、知識も定着するし実力は伸びる。しかし、この戦略が取れるのは、勉強時間が潤沢に取れる人だけである。
勉強時間がとれない人こそ、目的意識を持ち、目の前の教材等から何を獲得したいのかを明確にして勉強するべきである。
もちろん勉強は試行錯誤の連続なので、最初からはっきりとした目的意識を持つのは難しいかもしれない。
しかし、少なくとも「1日のうちに何ができるようになったのか」を振り返ることはできるはずだ。
1日の勉強内容を振り返り、新しく理解できたこと、自分の中での気づきを見つけよう。
そういった意識を持って進んでいけば、具体的な目標が自然と見つかり、勉強方法のPDCAサイクルにも反映できる。
たった1つでいい。1日の終わりに、「今日の自分が成長できたこと」を思い出そう。
ちなみに、「なんとなく勉強している」状態を回避するためには問題を検討して強制的に頭を動かす、といった対策が有効である。
【その7】効率よく学び、覚えるべし
法律の学習には、①理解、②記憶、③定着、という3つのステップがあると考えている。
この各ステップにかける時間を、いかに減らすか。それが多忙な兼業受験生に求められる勉強戦略である。
まず、前提として理解にかける時間は減らせない。知識の理解があやふやなまま、本番の試験に挑んでも良い結果は期待できないからだ。
だからこそーー若干逆説めくがーー最初の段階で理解・記憶の対象となる知識を限界まで絞ることが時短のためのポイントとなる。
最初に理解・記憶の対象を絞っておかないと復習時間が足りなくなり、受かる試験も受からなくなってしまう。
理解・記憶の対象を減らし、着実に定着させよう。そうすることで最小限の時間で、長期記憶された知識を増やすことができる。
もっとも「覚える対象を減らすべき」だからといって、1つの分野を時間をかけて勉強するべきではない。司法試験・予備試験の問題は総合問題であり、科目の全体像が把握できていないと解けない問題が出るからである。
全体像をすばやく把握できる薄い教材を使い、勉強範囲は広げながら量を徹底的に絞ろう。たとえば論証であれば、全範囲を勉強する代わりに「初回は規範の部分しか覚えない」と決めてしまう。それくらいのメリハリを意識して勉強しよう。
それでも時間が足りず、「同じ教材の同じ範囲を次に勉強するのは数カ月後」という方もいると思う。そういう場合は、付箋や空きスペースへの書き込みを活用して未来の自分に対するメッセージを残しておこう。学習中に得た気づき・発見は成長には不可欠なものではあるが、とにかく忘れやすい。頭が冴えているときに得た思考プロセスやひらめきは、きちんと言語化して残しておこう。
また、暗記の量を減らすためには、条文の文言を中心に勉強する、文章力や読解力といった「知識以外のスキル」を磨くといった戦術も重要となる。
条文の文言を学習の中心に据えるのは、単純に暗記量が減るからである。条文の文言とズレた言い回しを使う教科書や論証を使うと覚える量が増えてしまう。要件を覚えるときも同様である。時短のためにも、条文から導き出せるものはどんどん条文に頼ってしまおう。
そして、実際の試験では文章力や読解力といった「知識以外のスキル」面で勝負が決まることも多い。知識に頼ろうとすると、どうしても定着のために時間がかかってしまう。一方、「知識以外のスキル」は一度身につけば維持コストはかからない。学習量で勝負できないからこそ、知識以外の技術で点を稼ぐ意識を持とう。
【その8】受験生モードをキープせよ
受験生モードを維持する努力をしよう。試験が終わった途端に高速で知識が抜けることからもわかるように、記憶の定着のしやすさとメンタルには大きな関係がある。
社会人は専業受験生と比べ、「受験生モード」で過ごせる時間が少ない。受験生特有の緊張感やメンタルを維持するためにも、受験生モードにならない時間を最小化するべきである。
細切れで良いので勉強時間を1日のうちに複数回確保し、こまめに受験生モードに立ち返ろう。可処分時間や通勤スタイルの関係で勉強する時間が1日になんども取れない人は、何やったのかを頭の中で反芻するだけでもいい。それは立派な復習になる。
【その9】体調&メンタル管理は徹底すべし
【その1】でも述べたとおり、専業受験生だからといってきちんと勉強できているとは限らない。したがって、時間がないからといって、社会人が絶望的に不利ということはない。
ただ、体調管理とメンタルコントロールが難しくなる、ということには留意するべきである。
たとえば、フルタイムで働いている人の場合は1日8時間以上働き、さらに勉強するということになる。結果的に超長時間労働にならざるを得ないからこそ、徹底した体調管理が必要だ。
また複数のタスクを抱えて生活する社会人受験生はどうしてもキャパシティオーバーに陥りやすい。安定的に学習を続けるためには、メンタルコントロールも重要な課題である。
【その10】受かるべき瞬間を見つけてインテンシブな努力を
受験勉強には、受かる可能性が一気に高まる「ここだ!」という瞬間がある。逆に言うと、この瞬間が来るまではどんなに勉強しても受からない。
そして、その人によって、受かるべきタイミングは違う。
特に兼業受験生は全範囲の学習を終えるまでに時間がかかるなどして、ある程度勉強が進まないとそのタイミングがなかなか来ないかもしれない。
しかし、いざそのタイミングが来たら、腹をくくって一気に全リソース(時間、お金など)を投入してほしい。受かるべき「その一瞬」に賭けよう。
もちろん受験するからには短期合格を目指したいところではあるが、環境がそれを許さないこともある。
正しい方向性で淡々と勉強し、伸びる瞬間を待つというある意味待ちの姿勢も必要である。
そして、もし「ここだ!」というタイミングが見つかったら、そこで一気に畳みかけ、勝負を決めてほしい。
置かれた場所で咲くために、今私たちにできること
「我々には時間はない! だが、お金はあるッ!!」
これは、ある社会人合格者の方から聞いた言葉である。そして、愛川先生のお話を聞いた今、私はこの名言にもう一言、二言付け加えたいと思う。
「我々には時間はない! だが、お金と人生経験と悪知恵はあるッ!」
今はSNSやらブログやらの登場により、できる他人と自分を簡単に比較できてしまう時代である。専業受験生や学生の超人的な勉強量を目のあたりにして、気持ちが折れてしまうことはある。
でも、時間はないと嘆いても時間が増えるわけじゃないし、そもそも悩む時間がムダすぎる。
結局のところ、たくさんの事情を背負った私たち社会人は、それぞれの持てるリソースを超賢く使って、この戦いに勝利をおさめることを考えるしかないのだ。
だからこそ、知恵を極限まで絞り、これまでの社会人としての経験値をフル活用して前に進む。
エレガントに、しぶとく、スマートに。
学生さんには学生さんの戦い方があるように、兼業受験生には兼業受験生の戦い方がある。
頼れる先輩の言葉にちょっとだけ勇気をもらいつつ、今日も淡々と進んでいこう。
(文責:紀村真利)