Black Lives Matterデモを横から見てみた(1)
5月25日にジョージ・フロイド氏が白人警官により死に至らしめられてから、1ヶ月になります。首を押さえつけられ、"I can't breathe...(息ができない)"と言いながら命を失っていく彼の動画により、世界中の人が胸を痛めたあの事件です。アメリカでは、5月末からの半月あまりが怒涛のように過ぎました。毎日デモ、デモ、デモ三昧。現地でないと見られないものなので、散歩を兼ねてその1つを見てきました。ニュースで報道されるような激しいのではなく、写真のような小規模のご近所デモです。
ご近所デモの前に、半月以上にわたり続いたデモ全般が、どのように展開し収束していったのか簡単にまとめておきます。デモの様子を読みたい方は(2)に行ってください。
事件が起きて早くも翌日には、現地ミネアポリスで最初のデモがあったそうです。それから各地に飛び火して、3日もするとニュース番組がずっと全国各地のデモの報道をしているという状態になりました。私が住んでいる町の近くでも大規模なのがありまして、テレビで略奪や逮捕の場面を見て口あんぐりでした。まるで戦争やん。なんか燃えてるし、店はガラス割られてめちゃくちゃだし。この辺は穏やかな地域という印象を持っていましたが、さすがアメリカ、いざとなると激しい。街中に住んでなくてよかったと、心から思いました。
最初の1週間少々は、デモと略奪が入り乱れた混乱状態でした。都市部では夜間外出禁止令まで出ました。昼間は比較的平和なデモが展開されても、夜になると略奪者がうようよ出てきます。警察による催涙ガス噴射とか、逮捕者続出とか、めちゃくちゃでした。州知事やニュースキャスターは、デモはいいが暴力や略奪はダメとしきりに呼びかけていました。大統領からはこうした呼びかけがなく、収まらないなら武力行使で鎮圧すると脅してましたねえ…。
略奪は褒められた行為ではありませんが、コロナで表面化してきていた、貧富の格差に対する不満が噴出したとも言えます。貧しい層に感染者が多いのは、ステイ・ホームできない職種に就いている人が多いから、というのは日本でも報道されていますよね。私が仰天したのは、料金滞納で水を止められ手が洗えないという話。食糧を配布してくれる慈善活動のフード・バンクにはキロ単位の行列ができたとも聞きます(距離を空けて並んでいるせいもありますが、それでも大変な長さです)。でも不満があろうと、不法行為に及んでいいことにはなりません。攻撃した店についても、店主の人種などを必ずしも考慮していなかったようです。
略奪は少しずつ減っていきましたが、事件後最初の週末の暴動が一番激しかったようです。週が明けた6月1日あたりから、昼間のデモは平和に遂行しているという意思を明示する工夫が目立ってきました。kneeling (死者の追悼のため片膝をつく)やdie-in (死体のポーズで地面に全員寝る) などです。子連れ参加者が増えたのも、暴力を避けるためだとか(コロナはいいのか…)。そして「今回は違う」という言葉が頻繁に聞かれるようになってきました。一過性のものに終わらせないという決意を感じます。
完全に平和になったわけではありませんでしたが、私自身はかなり落ち着いたなと感じるようになりました。ご近所デモに行ってみようと思ったのはこの頃です。この週の間に、ミネアポリスをはじめ各地の教会でフロイド氏追悼集会がありました。そして週末はワシントンD.C.を含め、各地で最大規模のデモ。テレビで2週間くらいこの話ばかり見ていたので、少し飽きてきました。大都市では毎日欠かさずデモしてたんですよ! えらいよ、あなた達。すごいよ、そのエネルギー。
2週目が明けて6月9日、フロイド氏の出身地アトランタで葬儀が行われました。教会での葬儀部分のみテレビ中継されましたが、軽々と3時間超え。またまたアメリカ人パワーを実感します。彼の葬儀が一連の出来事の締めくくりになり、ここでデモは下火になっていきました。今でもデモはポロポロ起きていますが、半月超の連勤はさすがにありません。一方、議論がヒートダウンする気配はありません。これからの大統領選にも関わる重要な問題として扱われています。
ではこのデモが問題として提示したのは何だったのか。細かくは、ご近所デモレポートで見たプラカードや掛け声をベースに考えていきますが、人種問題の中でもまずは、黒人の命を脅かす警察組織への抗議だったとまとめることができます。
フロイド氏は偽の20ドル札を使った疑いで警察に通報され、命を落としました。本当に偽札だったかどうかは報じられていないようです(ご存じの方がいたら教えてください)。ということは、たぶん偽札だったんじゃないかな…と…考えちゃいます。でも問題の本質は、たった20ドルのために、公衆の面前で無抵抗の被疑者の命が失われたということです。疑われるのも命がけです。20ドルと思うと、死んでも死にきれません。葬儀やデモで掲げられたフロイド氏の肖像を見て、私は思いました。こんな聖者のような扱いをされるより、失業中でキツくても家族と夕ご飯食べたかったでしょうに。刑務所入る方がマシだったでしょうに。
ここまではテレビやネットを通しての体験です。ずっとテレビをつけていたわけではありませんが、この時期は必ず2、3時間は流すようにしていました。テレビのリアルタイム感って案外バカにならないです。でも私はライブで体験したかった。よし、行ってみよう(ただし歩いて行ける小さめのデモに)。小規模でしたし、参加ではなく見ていただけですが、日本でのものも含めてデモ未体験の私には考えポイントをたくさん与えてくれました。次回に続きます。