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ジェマイマおばさん(奴隷)のパンケーキ
研修目的でアメリカに一時滞在しています。マスク外しての会話は3ヶ月してません。おかげで隔離生活満喫中、テレビをよく見ています。
今の話題の中では、コロナも大変なんですけど、ここでは人種差別関係の話を中心に書こうと思います。私もアフリカン・アメリカンではないので完全に理解できてるかというとできてません。でもアメリカのヒートアップぶりは、自分も含めて日本人にはあまりピンときてないという印象を持っています。デモがあんなにドンガラガッシャーンとなってた理由を、もう少し腑に落ちるよう理解したいな、書いて整理できたらなと思います。
ジェマイマおばさん(Aunt Jemima)は、有名なパンケーキミックスの名前に使われている黒人女性キャラクターです。値段はスーパーで一箱3〜4ドルくらい。シロップなども発売されています。ミックスの販売開始は、なんと1889年です。6月17日、131年売ってきたこの商品の名前を変えます!というニュースが出ました。ジェマイマおばさんが奴隷の黒人女性のステレオタイプだから、という理由です。古いパッケージを画像検索で簡単に見ることができますが、肌はもっと黒く白い歯を剥き出しにしてニッと笑う、バカにしてる感満載の黒人像です。ここまでもろ奴隷のイメージはまずいよね、ということでデザインを変えつつ現在に至るのですが、今回はキャラクターそのものをやめるという話になりました。ニュースに取り上げられるほど大きな事件として扱われています。これに続き、商品名変えると発表した会社が他にも出てきています。
発売開始の1889年といえば、奴隷が解放された南北戦争の終結(1865年)から20年ちょっとしか経っていません。それで奴隷のイメージの商品って…とも思いますが、20年という時間は戦争のショックや後処理が少し落ち着くだけの長さでもあるんでしょうね。今は戦争に負けてボロボロだけどあの頃は良かった…奴隷が何もかもやってくれて、と没落した白人が思い始める頃です。
奴隷にも色々な職種(と言っていいのか?)があり、腰をかがめて綿花をひたすら摘むきつい屋外労働から主人の家を掃除担当や料理人まで、多岐に渡りました。こうした奴隷に支えられて南部の大規模農園(プランテーション)の方々は優雅な生活を送っていました。ドレス着てうふふ、の『風と共に去りぬ』の世界です。(『風と共に去りぬ』のネット配信をやめるという話が出ました。思うことはありますがまた別の場に書きます)。ジェマイマおばさんはお料理担当。このパンケーキの商品名は、古き良き時代(ただし白人に限る)を彷彿とさせるイメージ戦略だったわけです。
胃袋、大事ですよね。嫁とお袋の味が違うのが離婚のきっかけになるくらい。ジェマイマおばさんの味はお袋の味。本当のママは料理しないから。この時代、アメリカ南部に限らず富裕層の女性は家事を使用人にさせています。子育ても乳母任せです。南部で黒人を下働きに使えるくらいの層の白人の子は、幼い頃の世話を黒人の女性にしてもらっていました。ジェマイマおばさんのような料理人がマミー(お母さん、そして南部では乳母を意味する)を兼任することもあったようです。生みの母よりマミーに愛着を抱いていたケースは多々あります、いえ、自然なことと感じます。
ジェマイマおばさんは、黒人が労働力のみならず感情的な搾取もされていたことを示すキャラクターでもあるわけです。『箱の中の奴隷 (Slave in a Box)』というジェマイマおばさんについての研究書がありますが、秀逸なタイトルです。これまで議論がなかったわけではないのに、しれっと131年も売り続けてきたのは、まあ無神経だと思います。奴隷のイメージが薄れたとはいえ、小さい頃から慣れ親しんだ食品が簡単には消えないのも、理解できる話ではありますが。繰り返しますが、胃袋、重要です。
黒人の立場にしてみれば気分がいいわけありません。日本人にとって不快な商品はあるかなと考えてみましたが、これほど強烈なのは思いつきませんでした。今回の大規模デモにより、人種差別を認めませんと意思表示する数の多さにようやく企業が動きました。動いたことへの感動より、これだけ長く動かなかったことが驚きです。
とはいえ大きな動きへの兆しはこの数年で確実に見えてきていました。南北戦争時に使われた南軍の旗の掲揚はやめましょうとか、南軍の将軍の像を撤去しませんかという働きかけとか(今は力づくで撤去している地域がありますが)。そうした運動があったから、ジョージ・フロイド氏の死をきっかけにボッと火がついた(コロナで家にいたので集まりやすかったのも大きかったんでは?と個人的には思います)。ジェマイマおばさんを皮切りに、商品名変更のニュースがさらに出ています。あまりに振り幅が大きくて私のようなのろまな日本の民は戸惑うばかりですが、このパワーがアメリカの良いところ、同時に怖いところなんだろうと感じます。