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ラッキーの自分語り(前編)
※事実を元にしたフィクションです。
神戸市には須磨海浜水族園という水族館がある。ここはスマスイという愛称で市民を始め多くの人々に親しまれている。ここには、かつてラッコ館があった。"あった"という言い方になってしまったのは残念だ。
このラッコ館には、開園以来たくさんのラッコたちが来園し、誕生し、そして亡くなっていった。この物語は、スマスイにお婿さん候補として来園し、ラッコ館が無くなるまでずっと元気に暮らしていたオスのラッコ、ラッキーの物語である。
僕の名前はラッキー。1998年5月13日に、かごしま水族館で生まれたラッコの男の子。お母さんはララ、お父さんはトコっていうんだよ。食いしん坊で氷が大好きだよ。でも、もっと大好きなものがあるんだ。
僕は生粋の水族館育ちだから、野生の仲間たちがどうやって暮らしてるのかわからないんだ。お母さんはアラスカからやってきたんだけど、お父さんはマリンピア日本海っていう水族館で生まれたんだ。僕のお父さんはすごく女の子からモテて、いっぱい子どもができたからすごいんだよ!だけど僕はそんなに上手く女の子に積極的になれないんだ…。食いしん坊でお腹いっぱいになっちゃうからね!
僕達のいる水族館では、僕たちの仲間を増やすためにいっぱい頑張ってたみたいなんだ。それもそのはず、僕が生まれたぐらいの頃に、日本に野生の仲間たちを連れてくるのが禁止されたんだ。だから、水族館で生まれ育った子たち同士で結婚して、なるべく多く子どもを増やしたかったんだね。人間の都合なんて僕にはよくわからないけど。
だから、僕もかごしまで生まれたんだけど、他の水族館に何度か移動したんだよ。移動の時は暗くて狭いところに閉じ込められてかなりしんどいんだけど、飼育員さんたち(僕たちの世話をしてくれる人間)がすごく大変そうにしてたから、僕も頑張んなきゃと思って耐えてたんだよ。
大変っていうので思い出したんだけど、僕たちラッコは人間よりもストレスに敏感みたいなんだ。まあ、僕は人間じゃないから人間がどのくらいストレスに強いか知らないんだけどね。
僕が10歳のとき、お父さんが生まれたマリンピア日本海っていう水族館に行ったんだ。これもさっき話したとおり結婚して子どもを増やしたいからなのかもしれないけど…。だけどやっぱり僕はシャイだから、女の子と遊びたい、仲良くなりたいっていう気持ちはあっても、女の子の機嫌が悪くなったら引っ込んでしまうんだ。お父さんはそこのところが上手だったんだろうなあ。
それで、その水族館(マリンピア日本海)がリニューアル?することになって、また移動することになった。まだ女の子との間に子どもができてなかったのに。今度はお父さんのいるスマスイっていうところに連れていかれるみたい。僕が14歳の時の話だよ。14歳なんてもう中高年じゃん。まあ、女の子と遊びたいとはずっと思ってるんだけどね(笑)
スマスイに来た。ここには先住の仲間が3頭いた。1頭はお父さんのトコ、もう1頭はアラスカからやってきた野生育ちのパールさん、そしてもう1頭はパールさんが野生の時に妊娠して水族館で生まれた明日花ちゃん!僕より少し年下ですごく可愛いんだよ!ちょっとツンデレだけどね…。
僕のお父さん、トコはほんと長生きだね。ここ、スマスイで、今の奥さん(!)パールさんとの間に女の子ができてたみたい。パコちゃんっていうんだけど、僕が来るよりずっと前に他の水族館に行っちゃった。それに、パールさんの娘さんの明日花ちゃんとの間にもカンナっていう女の子ができたみたい。人間の世界だったらあり得ない不純!知らないんだけどね。
どうやら僕は、明日花ちゃんのお婿さん候補としてここにやってきたらしい。仲良くなれるかなあ…。
(続く)
(2021/12/26追記)
中編が出来ました。こちらからどうぞ。
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