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ラッキーの自分語り(中編) / 明日花の感想

※これは事実を元にしたフィクションです。
前編はこちら↓

神戸市の須磨海浜水族園はスマスイの愛称で多くの人に親しまれてきた。この物語は、かつてここにあったラッコ館で最後まで元気に暮らしたラッコのラッキー(と明日花)の物語である。

僕の名前はラッキー。14歳でスマスイにやってきた、食いしん坊で氷が大好きなオスのラッコだよ。
僕がここに来て、スマスイのラッコは4頭になったよ。僕のお父さんのトコ、野生生まれのパールさん、パールさんの娘さんの明日花ちゃん、そして僕。僕は明日花ちゃんのお婿さん候補としてマリンピア日本海から来たんだけど、明日花ちゃんと仲良くなれるかなあ…。


明日花ちゃんは1999年2月3日生まれで、僕より少し年下。僕がスマスイにやって来たときには13歳で、人間の歳で言えば素敵なマダムってところなのかもしれない。だけど、僕の目にはすごく可愛く映ったんだ!一目惚れだった。

早速明日花ちゃんに声をかけてみる。前も言ったけど、僕はシャイだから、初めて話すのは緊張するなあ。
「こんにちは。僕はラッキー!よろしくね!」
「ウチは明日花っていうで。ほなよろしく」
とりあえず話すことには成功!これから一歩ずつ距離を縮めて、ゆくゆくは子どもを…!!

その後はだんだん距離を縮めていくために、頑張って明日花ちゃんを毛づくろいしたよ。ほんとに好きで好きでたまらなくて時にはうっとうしいと言われたりしたけどね…。
「明日花ちゃん!僕のこと好き?」
「うっとうしいわ。今はほっといて」
明日花ちゃんはなかなか振り向いてくれないけど…。

やがて時が経ち、パールさんも僕のお父さんもお空に還っていった。お父さんは19歳まで生きてほんとにすごかったなあ。僕はどれくらい長生きできるかな。
僕らの居場所、スマスイにいるラッコは、僕と明日花ちゃんの二人だけになった。少し寂しいような気がした。でもこれで二人きりだから、アプローチに集中できるかな。だけど、そもそもここは水族館で、たくさんの人間たちに見られてると思うとちょっと落ち着かないな…。

ところで、僕は食いしん坊だから、ときどき明日花ちゃんのごはんを横取りしちゃうんだ。本当は明日花ちゃんの分をおいておかないととは思ってるんだけど、目の前にごはんがあるとやっぱり食べちゃう。もうこれはしょうがない。あと、少し明日花ちゃんの気を引きたいっていうのもある。そんなことして嫌われたら元も子もないのに…。

一緒にいる時間が増えて、だんだん明日花ちゃんとも打ち解けていった。明日花ちゃんの性格も分かってきた。明日花ちゃんはすごく美意識が高くて、食後の毛づくろいをすごく丁寧にしてる。だからいつでも可愛かったんだね。それから、はじめは明日花ちゃんはつんつんしててクールな子なのかなと思ってたけど、ときどき僕にかまってくれることがある。
「ねえねえ明日花ちゃん!」
「毎度毎度明日花ちゃん明日花ちゃんってくどいねん!…呼び捨てでもええんよ」
「えっ、今なんて言った?」
「特別にウチのことを呼び捨てで呼ぶ権利をあげるってゆうたんよ!二回も言わせんとって!」
「ほんと!?…じゃあ、あすk…。あs…」
「ちゃんと明日花ってゆってよ!それとも……呼び捨てで呼ぶん恥ずかしいん?…ふーん」
僕は何も言えなくなっちゃった。図星だったから。だけど、こんな風に明日花ちゃんに言われると、まるで明日花ちゃんが僕のことを弄んでるみたいで、嬉しいような、恥ずかしいような感じがしてにやけちゃう。あ、またちゃん付けで呼んでる。明日花、明日花と…。
「あ、明日花!」
「どうしたん?ラッキー。」
「いや、明日花って呼べって言うから…」
「そう…(ラッキーがウチのこと『明日花』って呼んでくれると少しどきどきするな…)」


僕は明日花のお婿さん候補としてここに来たんだ。だから、出来れば明日花との間に子どもが欲しい。それに明日花はとっても可愛いから、ふたり一緒に暮らしてると、どうしてもその、むらむらしちゃう時期があるんだ。ぶっちゃけると、エッチがしたい。

「明日花!明日花!」僕はその高まる衝動から、本能的に明日花の背中に覆い被さる。
「ラッキー!?ちょ、ちょっと何すんの?」
「明日花!愛してるよ!大好きだっ!」
僕は明日花の背中を追いかけるように、思いっきりジャンプして明日花に抱きつく。
「や、やっぱりやめてっ!」
今日は明日花に逃げられてしまった。僕は何事もなかったかのように顔をゴシゴシする。まただめだったか…。

ずばり言うと僕はエッチが下手らしい。というより、もしかしたらやり方を知らないのかも知れない。お父さんに聞いておけば良かった。でも、生まれたときにはお父さんは同じプールにいなかったし、スマスイでも僕が来たときには直接会うチャンスが少なかった気がする。もしかしたら明日花と僕ふたりきりにすることになっていたのかも知れない。野生だったら、他のオスがどうやって女の子とやっているのか見られるのになあ…。

そう思ったから、僕は飼育員さんに聞いたりいろいろ調べて、びっくりした。野生のラッコの一般的な交尾の仕方に。

《オスがメスの鼻を咬み押さえつけるようにして挿れる》

出来ないよそんなこと…。絶対痛いでしょ。しかもその傷でメスが死ぬこともあるんだって。そんなあ…。
そういえば明日花の鼻にも傷があったな。もしかして、いや、もしかしなくても、あれはお父さんの仕業だったんだ。明日花もきっと痛かったんだろうな。それから妊娠、出産、子育て…。メスばっかり大変すぎじゃないか?
どっちにしろ明日花にはそんなこと出来ない。

「ねえ明日花」
「どないしたん?そんな顔して」
僕は思い切って直接聞いてみることにした。
「明日花はトコと子作りするとき、鼻咬まれたんでしょ?痛くなかったの?」
「……」明日花はしばらく黙り込んで、意外な返事をした。

「…ラッキーはウチのこと、本気で愛してる?」

そうきたか。
「そりゃもちろん、愛してるよ。」
すると明日花は真剣な目でこう言った。
「本気で愛してるなら、咬まれてもがまんする。」
僕はびっくりしたんだ。そして、自分が明日花のことを本当に愛せているか少し自信がなくなった。正面から向き合ってるか不安になった。
「明日花は、僕のこと愛してる?」
「ラッキーにはどう見える?」
「そ、そりゃ好きって言ってくれる方が嬉しいけど…。明日花素っ気ないときあるし…。どうなんだろう。教えてよ!」
「ラッキー、ちょっとこっち見て」
明日花はそういって顔を近づけてこう言った。
「一回しか言わへんからね」
僕の手を握った。

「…だいすき」

何がびっくりしたって、明日花が僕の鼻を甘噛みしたんだよ。
「痛くなかったよね」
「愛されてるって分かるから、ウチは我慢する。せなしゃあない。この人なら大丈夫だって、信じれるから」
僕はなんというか、嬉しかった。明日花が本気で思ってくれてるって分かったから。
「…じゃあ、素っ気ないときはどうして?」
「まあ、ちょっとラッキーしつこいときあるからね。あんまりしつこいと嫌われるで」
きっと明日花はずっと愛してくれると確信した。
「ありがとう」

(続く)


【明日花の感想】

ウチはスマスイ生まれ、スマスイ育ちのスマスイのアイドル、明日花やで!
こう見えて出産・子育て経験済みのお母さんラッコなんやで!
ラッキーはトコくんの息子って聞いとったからさぞかしやり手なんやろなーって思っとったけど、もうぜんぜんピュアやね。ピュアっていうんか、それとも頼りないっていうんか知らんけど、もうとにかく、ちょっとウチがイヤってゆったらそこで諦めちゃうんやから。
まあ、たしかにウチがイヤって言うからあかんのかもしれんけど。

呼び捨てなあ…べつにどっちでもかまへんねんけど、どうせなら明日花って素直に呼んでくれる方が嬉しいしなあ…。ちゃん付けされるとなんかしつこく感じるんよなあ…。どきどきするとか書かれるとちょっとツンデレが強調されすぎてなんか恥ずかしいわ。まあ、ラッキーのこと嫌いやないからしゃあないんやけど。

エッチの話なあ。ウチはラッキーとは違って経験しとるし、そもそもメスやからオスがどうやって…とか知らんねん。ただ鼻咬まれるのは痛い。別に痛くない訳ちゃうねん。痛いけど耐えるっていうこと。愛してるから耐えられるていうか。まあ、されるがままっていうか。身を捧げてるんよね。
ラッキーはそこんとこもうちょっと頑張ってもいいんやけどなあ…。ウチは待っとるで。メスからアプローチをすることはないけど、メスには選択権がある。ウチは待っとるで。

それにしてもスケベな話やったなあ…!!恥ずかしいわ!!


後編はこちら↓

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Olivine
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