日本代表が負けたのは偶然か、必然か
カタールW杯決勝トーナメント1回戦で、クロアチア代表と対戦したサッカー日本代表は、PK戦の末、敗退しました。これは偶然でしょうか、必然でしょうか。個人的には必然のような気がします。
クロアチア戦の感想
グループリーグのドイツ、スペイン戦と打って変わり、前後半の印象が真逆となりました。誰もが思ったように、クロアチア戦は非常に良い入り方でした。危ないシーンはほとんど見られず、数少ない危険なシーンはレフェリーがちょっとアレだったせいで発生したシーンだけだったように思います。
展開もグループリーグと違い、ボールを保持できる時間が多く、また積極的な攻撃が良く見られました。そこまで差がある国だとは思いませんが、なんだかんだ言っても前回大会の準優勝国相手に互角以上に渡り合えたのは世界に対して大きなアピールになったことでしょう。
そんな中、前半終了間際に前田のゴールで先制する嬉しい展開に、ベスト8まであと一歩と思った人は非常に多かったでしょうが、戦前の空気から見てもこういう時は嫌な落とし穴があるもんです。
良い展開から形を変えたくなかったこともあって、選手交代なしで入った後半は、前半の良さはどこへ行ったのか、ミス連発で危ないシーンを作られ、自分で自分の首を絞めるような展開でした。なかなかパスが通らず、大きいトラップでボールをロストし、寄せも甘くて後半は常にヒヤヒヤした展開でした。選手交代も限定的な効果で、かなり研究されていて戦いにくいと思ったのではないでしょうか。
延長戦に入ってからゴールの臭いがしますが、それも生かせずPK戦までもつれ込んだのは、相手のゲーム運びが上手かったかもしれません。日本もそうですが、相手も肝心なところではやらせず、機会があれば前進するスタイルは日本と似た印象がありましたね。延長戦は仕方ないにしても、できればPK戦になる前に決着をつけたかったです。
こうした互いにしっかり守って攻め手に欠ける展開は、南アフリカ大会の決勝トーナメント1回戦、パラグアイ戦を見ているような感じでした。PK戦も南アフリカ大会の時にPK戦を見ててあぁ負けるなって思ったのと同じ嫌な予感がしかしませんでしたし、一瞬、イングランド代表のPKの弱さがよぎったんですよね。同じになるんじゃね?って。
結局のところ、戦っているチームはベスト8を目指して必死に戦ったのは異なり、周りの盛り上がりが異常過ぎてフラグ立ちまくりの苦しい中、良く戦ったなぁという印象が強く残りました。チームを取り巻く環境が甘いのかなと思いましたし、日本はまだまだだなぁと思いました。それは監督や選手、チームにはどうしようもできない事なんですがね。
ただ、私の好きなサッカー漫画「俺たちのフィールド」の中に、フランスW杯を戦っているシーンがあるのですが、そのシーンを思い出しました。それはアルゼンチン相手にラストワンプレーまでもつれた展開で、絶体絶命のPKをストップしカウンターでゴールを狙うシーンで実況のアナウンサーが場違いにも語り始めたシーンです。以下引用です。
『あのぉ…私事で…申し訳ないんですがね……実は私……昔……そう、中学の頃、サッカーをやろうと思ったことがありましてね。でも……アノ……自信も無くて運動神経もなかったし……夢は……かなわなかったんですがね…』
『今……彼らは………サッカーを通じてかかわりあったり競い合ったり……憧れたりしている人々の代表として……フィールドにいます。サッカーにかかわったスベテの人々の破片をまとって……彼らは今……戦っています!!』
『彼らは「私」です!!「私たちです!!」だから頼む……勝って……勝ってくれ……勝ってくれたら、死んでもいい………』
フランスW杯当時、日本代表が世界相手に勝つなんて到底考えられませんでしたし、作中で世界最高のFWを擁するアルゼンチン相手に一歩も引かず、選手全員が命を削って戦ってる姿を見たアナウンサーの言葉に、テレビで応援する主人公の母たちは静まり返るのでした。
このシーンはとても印象に残っているシーンで、W杯の度に思い出します。私個人もサッカーをしていました。小さな大会ですがGKでベスト11にも選ばれたこともありますし、コーチである親の判断で選抜のセレクションから落とされたこともあります。病気でサッカーを続けられなくなった時、審判やコーチの立場でサッカーに携わろうと奔走した事も懐かしい思い出です。
『サッカーに関わった全ての人々の代表として戦っている』
まさに今大会の日本代表はそういう存在だったのではないでしょうか。彼らは私の代表として戦ってくれたのだと、私は勝手に思っています。だから称賛もするし、批判もします。そして感謝も。
個別の評価
■森保
大会前から入念な準備をしてきたと思いますが、クロアチア戦後のインタビューで遠藤が『PKの順番は蹴りたい人から蹴る』とコメントしたところが気になりました。私は、PK戦は始めと終わりが肝心だと思っていて、先攻でしたし、一人目は成功するしないに関わらず、チームを引っ張るべき選手が蹴るべきだと思うのです。このチームで言えば吉田や遠藤でしょうか。そういう指示を出していない点が最後の最後は人任せなのかなぁと気になりました。
試合は久保を欠いたので堂安を先発させ、板倉の代わりに冨安を配置し、上手いこと自分たちペースに持ち込めましたし、先制点を奪ってリードした展開で前半を終わらせることができたのは良い展開だったと思います。ただ、グループリーグでは途中出場から勢いを付けた堂安を先発させた事で、カードが一枚不足してしまいましたね。
同点にされ、拮抗した展開で、いつも通り浅野、三笘を入れたはいいですが、思った以上に三笘は研究されていましたし、危険なエリアに侵入する事さえできなかったので、それを打開するための一枚が欲しかったです。それが南野では正直物足りないですし、相馬、上田、柴崎ではもっと足りなかったでしょう。そういう打開できる選手が三笘しか居なかった点は苦しかったですね。
また、ノックアウトステージのPK戦を考えると鎌田や堂安は残しておきたかったですが、メンバー構成を見ると残すことは難しかったと思います。逆に試合展開を見ると南野先発で、堂安or鎌田を切り札投入でも良かったかもしれません。タラレバですが。
あと、浅野と最後まで心中した印象があります。クロアチア戦も自らピンチに繋がる危険なバックパスやパスミスが目立ちましたし、プレスも甘かったように、ドイツ戦以外の浅野は正直、技術が不足していたように思います。そういう選手の使い方やプレーの質、幅をもっと指導してほしかったですね。
■権田
クロアチア戦は危ないシーンはあまり見られず、しっかりと対応していましたし、モドリッチのミドルシュートを止めたり、高さのある相手のCKに積極的に飛び出すなど評価は高いです。失点のシーンは止めるのはちょっと難しいと思います。
■吉田、冨安、酒井
前半はとても良かったですが、後半は非常に残念なプレーばかりでした。トラップミスやパスミスが目に付きましたし、難しいところを無理に通そうとする姿勢はどうかと思いました。展開的にも大きくシンプルにプレーした方が流れを取り戻せると思うのですが。良いプレーと悪いプレーがハッキリした試合は今大会ずっと変わりませんでしたね。
■守田
クロアチア戦は非常に悪かったと思います。前半もちょいちょいミスっぽいプレーがありましたが、後半はパッと見ただけでも3~4回はボールロストしていましたし、それが直る気配がありませんでした。しっかりとした守備から入るのは森保ジャパンの約束事のように思っていたので、この軽いプレーの連続は全く評価できません。
■遠藤
デュエル王だけあって対人は強いですね。守備では常に安定したプレーを見せてくれました。その一方で、攻撃面は物足りなかったです。遠藤からゴールが生まれる雰囲気がありませんでしたからね。遠くからでもゴールを狙えるようになると相手DFを引きずり出せるんですが、その辺は課題なのかな。
■伊東
今日も良く動いていました。持ち前の攻撃力を生かすシーンはあまり見られませんでしたが、その反面、前線から素早く戻り、危険の芽を摘むプレーが随所に見られたのは好印象です。難しいポジションでシステム変更を繰り返しながら奮闘した姿は素晴らしかったと思いますが、やはり脅威となる攻撃力が見られなかったのは残念です。
■鎌田
最後まで鎌田の長所が出なかった大会のように思います。クロアチア戦も良かったプレー、悪かったプレーありますが、鎌田自身をサポートできる選手が欲しかったですね。遠藤、守田という中盤を支えるタイプを起用している以上、左ウイングにそういうタイプが欲しいんですが、三笘のようなタイプじゃないところが難しい。
■堂安
現状では、先発には向かなかったとしか言いようがありません。最後のPKも堂安だったら悪い流れでも決めたと思いますし、最後までピッチに残れなかったのは残念です。ただ、攻守にわたって懸命なプレーは印象が良く、戦術が違ったら、もっと化けたかもしれないと強く思いました。
■南野
試合に入るのは難しかったでしょうね。10番を背負いながらろくにプレーできなかったわけで、かといって一人で打開できる能力は無く、かつての本田や香川、乾など得点の臭いがする選手になれなかったのは勿体なかったです。PKに関しては、一人目じゃないだろうと思いましたし、一人目ならチームを勢いづけるため力強く蹴り込む姿勢を見せて欲しかったです。
■三笘
研究されていて、ほとんど封じられていました。ディフェンスでもレフェリーとの相性が悪く、ファウルになる事が度々あり、プレーしづらかったと思います。試合終了間際に訪れた最高のチャンスでGKの正面に撃ってしまったのは後悔が残るんじゃないかなと心配です。PKに関しても余裕が無かったように見えました。二呼吸くらい置いてからビシッと決めるくらいの余裕が欲しかったですね。
■前田
プレー中はずっとプレスをかけ続けられるんじゃないかって思うくらいプレスが上手いですね。浅野のそれと比べると雲泥の差です。英メディアのSquawkaがクロアチア戦前半の前田のデータを信じられない稼働と評価していたように、ディエル勝率 100%、タックル成功率 100%とかFWして恐ろしい数字を叩き出しています。グループリーグでは結果を出せなかったものの、決勝トーナメントという大一番で結果が出たのはサッカーの神様が頑張った前田にくれたプレゼントだったかもしれませんね。
■浅野
試合後のインタビューで「ふがいない、自分の下手さ、未熟を思い知った」とコメントしていましたが、それはみんな知ってるとツッコまれそうな気がするのは私だけでしょうか。浅野の良かった点はドイツ戦での神トラップからのシュートだけだったように思いますし、クロアチア戦の出来は酷かったです。トラップは目も当てられないくらいでしたし、プレスは甘く、途中交代なのに走り切れなかったのは問題です。監督の寵愛を受けて選出されましたが、後半から切り札として使うには色々な部分が不足していたように思います。
まとめ
今回のカタールW杯は戦前の予想を覆す躍進を遂げた良い大会だったと思います。しっかり準備すれば強豪国でも渡り合える事を確認できましたし、粘り強い守備という日本の特徴も確立されてきたような印象を受けます。
その一方で、攻撃面では組織的な部分は見えず、完全に個人頼りになっていると思います。海外に出た選手が多く、自分の武器を伸ばした選手が多いのも分かりますが、強豪国は個人+組織で攻めてきますので、そうした部分が不足していれば勝つ時は常に紙一重になるのではと思いますね。
またまた俺たちのフィールドからの引用で申し訳ないのですが、あの作品には2002年W杯の開催が決まり、初めてのW杯出場をなんとしても自力で決めたいというストーリーがあります。実際の日本代表もフランスW杯に出場できなければ、初出場が自国開催枠という不名誉なものになっていた事でしょう。
今回、カタールが自国開催枠で初出場を果たしましたが、その結果は皆さんご存知の通りです。次回からは出場枠が大幅に増大し、またグループリーグがわずか2試合のみとなりますが、こうした金の力で出場枠を買う、あるいは出場国拡大に伴う質の低下は、長期的な視点からすればサッカーの質を低下させる要因になるでしょう。
もちろん、放映権料の問題は財政を支える重要な問題ではあります。今大会は放映権の高騰に伴ってNHK、フジ、テレ朝しか手を出せませんでしたし、今後も放映権料の高騰が収まるとは思えませんので、財政的には非常に潤うでしょう。
しかし、ただ門戸を広げれば良いというわけではありません。W杯の価値を落とさないためにも、W杯は現状の制度のまま維持し、CLとELのようにW杯予選で敗退した国でもう一つのW杯のような大会を開いた方がデメリットは少ないと思うのですが・・・どうでしょうか。
何にせよ、今大会で質の高いW杯は最後になるかもしれませんし、ベスト8の壁はさらに遠くなったと思います。森保監督の続投問題ありますし、田島会長の続投も問題です。日本サッカー界には問題が山積みですね。本田の言うようなライセンス無しで代表監督に、という意見はぶっ飛びすぎだと思いますが、旧態依然とした体制や考え方は改めるべきだと思います。
それは協会も選手もクラブもマスコミもファンもです。
質の高い素晴らしいサッカーを強豪国と繰り広げる日本代表をまた見たいですね。