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モノクロームの街で


アユミは、東京の夜遅くの電車で揺られていた。スマホの画面を見つめながら、今日あったことをぼんやりと考える。仕事で少し失敗し、上司に軽く叱られたこと。同僚との短い雑談。慣れすぎたルーティンの一日がまた過ぎていく。そんな日常に、どこか満たされない感覚があった。


「何か、足りない気がする…」


アユミは心の中でそう呟くが、それが何なのか具体的にはわからない。日々の忙しさに埋もれて、自分が何を求めているのかすら掴めなくなっていた。日常の中で感じる虚無感。友達や家族と過ごしても、それは完全には埋まらないものだった。


そんなとき、隣に座った男性が話しかけてきた。彼は落ち着いた表情で、アユミが抱えている見えないものを見透かすように見つめていた。


「都会の生活、息苦しくないですか?」


突然の問いかけに、アユミは驚いた。初対面の人に話しかけられるなんて、久しぶりのことだったからだ。彼はリョウと名乗り、数年前に東京を離れ、山奥で一人暮らしをしているという。毎日が同じように過ぎていく都会の生活に疑問を感じ、自然の中で過ごす選択をしたらしい。


「山奥に住んでるんですか? それって、どうして?」


アユミは思わず問い返した。リョウは微笑んで、「自分を見つけたくてね」と答えた。


「都会の生活は便利で、刺激的ですよ。でも、何かを犠牲にしている気がしてね。」


アユミはリョウの言葉に、自分の中にある虚無感と重なるものを感じた。何も犠牲にしているつもりはなかったが、便利さや楽しさの中に埋もれて、大切なものを見失っている感覚があったのだ。


「週末、もし良かったら遊びに来てください。自然の中に身を置くだけで、何かが変わるかもしれませんよ。」


彼の提案に半信半疑だったものの、アユミの心の奥で何かが動いた。



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数日後、山奥での再会


週末、アユミは思い切ってリョウの住む山奥の町を訪れることにした。都会の喧騒を離れ、電車とバスを乗り継いでたどり着いたその場所は、時間がゆっくりと流れているように感じられる静かな町だった。


「ようこそ、山へ。」


リョウは優しい笑顔でアユミを迎えてくれた。都会の雑踏とは全く異なる景色の中で、彼の言葉に癒しを感じた。リョウの案内で森を散策し、川沿いに座りながら話をした。


「ここにいると、自分が小さな存在だって気づくんです。日々の忙しさに追われる必要なんてないってね。」


アユミはその言葉を心に刻み込むように聞いた。都会では感じられなかった静けさ、自然の匂い、風の音。それらが、少しずつ彼女の心を解放していくようだった。



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終わりのない探し物


短い滞在を終え、アユミは東京に戻ることにした。山奥で感じた静けさを持ち帰り、日常に新たな視点を取り入れることを決意した。それは、ただの逃避ではなく、忙しさの中でも自分自身を見つけるための第一歩だった。


帰りの電車で、アユミはスマホの画面を閉じ、窓の外に流れる景色を見つめた。東京に戻ることが少し怖く感じたが、それでも今なら、少し違う自分で日々を過ごせる気がした。

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