第二章：森の中での出会い

森は静まり返っていた。木々が高くそびえ立ち、鳥のさえずりさえ聞こえない異様な静けさが広がっている。この世界に来て、こんな場所に足を踏み入れるのは何度目だろう。昔なら、これくらいの森の探索は日常茶飯事だったが、今ではどこか懐かしい気持ちになる。

俺は背中に担いだ男の重さを感じながら、森の奥へ進んでいた。  

「全く……カフェの材料調達どころじゃなくなったな。」  

目の前で気を失って倒れていた戦士を助けたのはいいが、これ以上のトラブルを背負い込む気はない。

「星降り亭を知ってるって言ってたな……どういう経緯で聞いたんだ？」  

返事はない。無理もない、完全に意識を失っているんだから。彼の体はボロボロで、傷口から血が滲んでいた。普通なら放っておいてもおかしくない状況だが、どうにも「困っている人を見過ごせない」冒険者時代の癖が抜けないらしい。

---

「まぁ、まずは手当てしてやるか。」  

俺は近くの木陰に彼を下ろした。簡単な応急処置くらいなら冒険者時代に覚えている。森で採ったハーブを傷口に当て、布で巻く。昔とった杵柄とはこのことだ。

男の顔をじっと見る。肌は浅黒く、顎には無精髭が生えている。年齢は俺より少し上くらいだろうか。鎧は擦り切れており、剣も傷だらけ。明らかに長い間、戦場を渡り歩いてきた者だ。

「誰に追われてたんだ？そして、なぜ星降り亭を目指してた？」  

俺はぼそりと呟く。彼が言い残した「癒やしの場所」という言葉が、やけに引っかかっていた。

---

ふと、周囲の空気が変わった。  

木々の間から冷たい風が吹き抜け、背筋に嫌な予感が走る。森が静かすぎるのは何かがおかしい証拠だ。

「やっぱり、追手が来たか。」  

俺は剣を抜き、周囲を見回した。

風が止むと同時に、木々の間から黒い影が現れた。それは人型ではあるが、その動きは人間のものではない。赤い目が暗闇の中で光り、鋭い爪が獲物を狙うように輝いている。

「魔物か、それとも……」  

俺は剣を構えた。男を守りながら戦うのは少々厄介だが、ここで逃げるわけにはいかない。

---

影が俺に向かって飛びかかってきた。  

そのスピードはかなりのものだが、俺の経験が上回った。剣を振り抜き、影を正面から斬り裂く。血飛沫ではなく、黒い煙のようなものが空中に舞い上がった。

「……召喚された使い魔か。」  

俺はその正体を見極めた。誰かがこの魔物を操っている。ということは、追手は確実に近くにいるはずだ。

もう一体、そしてまた一体。次々と影が現れる。俺は剣を構え直し、次の一撃に備える。

「どいつもこいつも……面倒くさい連中だ。」  

一体一体を確実に仕留めながら、俺は戦い続けた。

---

「くそ、きりがないな……！」  

息を整える間もなく、さらに影が現れる。だが、次の瞬間、俺の背後で微かな声がした。

「手伝おう……俺を、守ってくれた礼だ。」  

振り返ると、傷だらけだった戦士が立ち上がっていた。先ほどまで意識を失っていた男が、疲れ切った表情のまま剣を握り、俺と並んで立っている。

「おい、大丈夫か？無理するな。」  

「ここで寝てたら、今度こそ死ぬ。それなら剣を振った方がいい。」  

彼の声は低く、だがその目には力が宿っていた。

---

戦士と共に剣を振るい、次々と影を斬り裂いていく。俺の剣技と彼の力強い一撃がかみ合い、ついに最後の一体を仕留めたとき、森は再び静けさを取り戻していた。

「ふぅ……なんとか片付いたな。」  

俺は剣を納め、隣で膝をつく彼を見下ろす。

「名前は？」  

俺が尋ねると、彼はゆっくりと顔を上げた。

「レオン……かつては、そう呼ばれていた。」  

「レオンか。俺は坂本悠也。この森の向こうに小さなカフェをやってるんだ。とりあえず、そこまで運んでやるよ。」  

レオンは驚いた表情を見せた。「カフェ……本当に噂は本当だったのか。」  

「何の噂だ？」  

「お前のカフェは、人だけでなく、世界を癒やす場所だと……」  

彼は苦しそうに微笑みながら呟いた。

---

俺はその言葉に眉をひそめた。  

「……癒やしのカフェ、か。そんな大層なものじゃないがな。」  

そう言いながら、彼を再び背中に担ぎ上げた。

「さあ、戻るぞ。傷を手当てして、何があったのかゆっくり聞かせてもらう。」  

そして、俺たちは森を抜け、星降り亭へと向かって歩き出した。

---

**次章の展開**

1. レオンが抱える過去と「星降り亭の噂」の背景が明らかになる。

2. レオンを追う勢力がカフェにも危険を及ぼす。

3. 主人公がカフェを守るために力を振るう決意を固める。

あなたの素晴らしい感想をコメント欄でぜひ教えてください！あなたの声がこの瞬間をさらに特別なものにします。感想をコメントで教えてください