「バランス・ライフ ‐ 30歳、私のリスタート‐」第3話:幸せのかたち

「バランス・ライフ ‐ 30歳、私のリスタート‐」

第3話:幸せのかたち

柔らかな陽光が差し込む教会。美咲は後列の席に座り、幼なじみの由美が純白のドレス姿で歩む姿を見つめていた。

「美しい...」

思わずため息が漏れる。由美の顔には幸せな笑顔が溢れ、隣を歩む新郎の顔もまた輝いていた。

式が進む中、美咲の心は複雑な感情で揺れ動いていた。喜びと祝福の気持ち。そして、どこか寂しさのようなもの。

「私も、こんな風に幸せになれるのかな...」

ふと、そんな思いが頭をよぎった。

式が終わり、受付で芳名帳に記入していると、懐かしい声が聞こえた。

「美咲ちゃん?久しぶり!」

振り向くと、高校時代の同級生、健太が立っていた。

「健太くん!本当に久しぶり」

「どう?元気にしてる?」

「ええ、まあね。広告代理店で働いてるわ」

「へぇ、すごいじゃん。僕は地元で塾の先生やってるよ。結婚して、去年娘が生まれたんだ」

健太は誇らしげに携帯の中の家族写真を見せてくれた。幸せそうな笑顔の3人家族。

「おめでとう。素敵な家族ね」

心からの祝福を伝えながら、美咲の胸の奥で何かが疼いた。

披露宴が始まり、美咲は同級生たちのテーブルに座った。話題は仕事、結婚、子育てと多岐にわたる。

「美咲は?彼氏とかいないの?」

唐突な質問に、美咲は苦笑いを浮かべた。

「ええ、今はいないわ。仕事が忙しくて...」

「そっか。でも美咲なら、すぐに素敵な人見つかるよ」

優しい言葉。でも、なぜか心に刺さる。

披露宴も佳境に入り、新郎新婦からのサプライズの時間がやってきた。
スクリーンに映し出されたのは、由美からの親友へのメッセージ動画だった。

「美咲へ。
私たちは幼い頃から一緒に夢を語り合ってきたね。
あなたは今、その夢を追いかけている最中。
でも、時には立ち止まって周りを見ることも大切だよ。
幸せは意外と近くにあるかもしれない。
これからも、お互いの幸せを見守り合える関係でいたいな。
愛してるよ、親友」

涙が頬を伝う。由美の言葉が、美咲の心に深く響いた。

帰り道、美咲は駅のホームで電車を待ちながら、今日の出来事を振り返っていた。
由美の幸せそうな姿。健太の充実した家庭。同級生たちのそれぞれの人生。

そして、自分。

仕事に打ち込む日々は、確かに充実していた。でも、それだけで幸せと言えるだろうか。

電車に乗り込み、揺れる車内で目を閉じる。
頭の中で、由美のメッセージが繰り返し流れる。

「幸せは意外と近くにあるかもしれない」

家に帰り着いた美咲は、久しぶりに押し入れから古いアルバムを引っ張り出した。
ページをめくると、懐かしい写真が次々と現れる。

学生時代の由美との写真。夢を語り合った日々。
初めて就職が決まった時の嬉しそうな自分。

そして、最近の写真。
仕事に打ち込む自分の姿。確かに誇りはある。でも、笑顔が少し寂しげに見える。

「私の幸せって、なんだろう」

問いかけに、まだ明確な答えは見つからない。
でも、考え始めたこと自体が、大切な一歩なのかもしれない。

美咲はスマートフォンを手に取り、由美にメッセージを送った。

「素敵な結婚式だったわ。あなたの幸せそうな姿を見て、私も色々考えさせられたわ。
ありがとう。これからは、もう少しバランスの取れた人生を送れるよう頑張ってみるね。
また会いましょう。愛してるわ、親友」

送信ボタンを押し、美咲は深呼吸をした。
新しい何かが、静かに、でも確実に始まろうとしているのを感じていた。

この度のご縁に感謝いたします。貴方様の創作活動が、衆生の心に安らぎと悟りをもたらすことを願い、微力ながら応援させていただきます。