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第3章:星降り亭に迫る危機


星降り亭の夜は静かだ。森の木々がざわめく音と遠くから聞こえるフクロウの鳴き声が、自然の音楽のように店内に響いている。

けれど、今日はその静寂に奇妙な緊張が漂っていた。


「レオン、お前に何があった?」

カウンター越しに向き合うレオンは、コップを握りしめたまま口をつぐんでいる。

傷だらけの体は手当てされたとはいえ、彼の目にはまだ深い疲れが見える。あの「謎の箱」を守り続けるために追われ、戦い続けてきた結果だろう。



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「……逃げ続けてきたんだ。」

レオンがぽつりと呟いた。彼の声は低く、どこか諦めに似た響きを帯びていた。


「この箱が、戦場で拾ったただの遺物だったら良かった。でも、そうじゃない。これは……呪いと憎悪を浄化する力を持つ装置だ。」

「呪いと憎悪を?」

俺は思わず聞き返す。


「ああ。この箱があれば、戦場に蔓延る負の感情を浄化し、戦争を終わらせることができる。だけど、その力を欲しがる連中もいる。」

「それで追われていたのか。」

「俺はもう戦うことに疲れた。でも、この箱を奪われたら……また戦争が始まる。」

レオンはそう言いながら、強くコップを握り締めた。



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リリィが黙って聞いていた。彼女も何かを感じ取ったのだろう。

「それって……星降り亭の噂と関係があるんですか?」

リリィの問いに、レオンは小さく頷いた。


「この店は、箱の影響を受けている。ここに来ると、戦場で傷ついた者の魂が少しだけ軽くなる。」

「だから『癒やしの場所』なんて噂が広まったのか。」

俺は呟く。


星降り亭が特別な力を持っていることは、薄々感じていた。だが、それが箱の影響だったとは。



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店の扉が不意に揺れた。冷たい風が吹き込み、店内の灯りが小さく揺れる。


「誰か来たのか?」

俺は剣に手を伸ばしながら扉を見た。



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扉の向こうには、一人の男が立っていた。黒いローブをまとい、その顔は深くフードに隠されている。背中には剣を背負い、体から漂う殺気は尋常ではない。


「この店が、星降り亭か?」

低く、冷たい声が店内に響いた。


「そうだが、お前は何者だ?」

俺は剣を抜かずに応えた。けれど、背筋に冷たい汗が流れる。相手がただ者ではないことは一目で分かる。


「俺の名はサラズ。あの男を渡してもらおう。」

サラズはカウンターにいるレオンを指差した。


「そう簡単にはいかないな。」

俺は剣を抜き、サラズを睨みつけた。



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「やはりそう来るか。」

サラズが薄く笑った瞬間、彼の周囲から黒い霧のようなものが湧き出した。その霧は形を変え、複数の人型を作り出していく。


「また使い魔か……!」

俺は剣を構える。周囲を取り囲む霧の人型は、森で戦ったものよりもさらに強力そうだ。


「オーナー!」

リリィが叫ぶ。だが、俺は振り返らずに言った。


「リリィ、レオンを奥の部屋に連れて行け。絶対に出てくるな!」

「でも、オーナー……!」

「早く行け!」

俺が怒鳴ると、リリィは渋々レオンを連れて奥へ走っていった。



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サラズが手を挙げると、使い魔たちが一斉に襲いかかってきた。

俺は剣を振り抜き、一体を正面から斬り裂く。黒い霧が弾けるように消え去るが、次の一体がすぐにその隙を埋めるように攻撃を仕掛けてくる。


「……さすが、ただのカフェオーナーじゃないな。」

サラズは冷笑しながら手を叩いた。「けれど、俺を本気にさせてしまったようだ。」



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サラズが剣を抜いた。その刃は赤黒い光を帯び、周囲の空気が一瞬で変わる。

俺は剣を構え直し、深呼吸を一つした。


「守るべきものがある限り……俺は負けられない。」

そう呟いて、俺はサラズに向かって駆け出した。

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