タイトル:鏡の中の訪問者 1
序章
「おい、エドワード。本当にここに住んでるのか?」
私は半分冗談、半分本気で友人エドワードに尋ねた。何しろ彼が相続したというこの屋敷は、古くて薄暗く、どう見ても幽霊が出そうな雰囲気だったのだ。
「……ああ。でも、君が思ってるより……厄介な場所だよ」
エドワードはまるで何かに怯えるような目で、チラリと屋敷の奥を見やった。その表情はどこか不安げで、再会した喜びもあまり感じられない。
「何だよ、その顔。まるで化け物でも見たみたいだな」
「……化け物、か。まあ、似たようなものかもしれない」
彼の声はどこか震えていて、普段の冗談っぽい口調とは全く違った。私は思わず真顔になり、深い空気を漂わせる屋敷の内部に目を向けた。薄暗い廊下を進むと、壁に掛かっている肖像画たちが、不気味にこちらを見つめているような錯覚に襲われた。
そして、部屋の奥でひときわ異様な存在感を放つ大きな鏡が、私の目に入った。
「……なんだ、あれ?」
その鏡を指差すと、エドワードは急に足を止め、低い声で呟いた。
「その鏡には……何かがいるんだ」
「何かがいるって……。冗談だろ?」
私は笑い飛ばそうとしたが、彼の顔には冗談のかけらもなかった。エドワードの目には、本物の恐怖が宿っていたのだ。
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第1章:鏡の秘密
「聞いてくれ、あの鏡のことなんだが……」
エドワードは振り返り、真剣な顔で語り始めた。
「この屋敷を相続した時から、あの鏡がずっとここにあるんだ。夜が更けると、鏡の中に……知らない誰かが映るんだよ。僕じゃない、何者かの目がじっと僕を見つめているんだ」
「はあ? 鏡の中の誰かが、お前を見てるって?」
「馬鹿にするな!」エドワードは急に声を荒げ、私の腕を掴んだ。その手は冷たく震えていた。
「最初に気づいた時は、凍りついたよ。何度見てもそれは消えないし、むしろ近づいてきているんだ。まるで僕を引きずり込もうとしているみたいに」
私は驚いて言葉を失ったが、なんとか自分を落ち着かせ、「なら隠しちゃえばいいじゃないか、鏡なんて」と提案してみた。だが、エドワードは激しく首を振る。
「試したよ! だけど、鏡を覆おうとするたびに、それはさらに僕に近づくんだ!」
彼の震える声を聞き、私も次第に不安を感じ始めた。
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第2章:不安な夜
その夜、エドワードは私に頼んで一緒の部屋で過ごすことにした。私は「子供じゃあるまいし」と笑い飛ばしたが、彼の真剣な顔を見て、結局同意した。
深夜、部屋の静寂を破るように何かが動く気配を感じ、私は目を覚ました。ふと見ると、エドワードがベッドから立ち上がり、鏡の方へゆっくりと歩き始めていた。
「おい、エドワード……何してるんだ?」
私が声をかけると、彼は振り返らず、ぼそっと呟いた。
「……彼が……僕を呼んでいるんだ」
「何を言ってるんだ!?」
私は焦って彼に駆け寄り、肩を掴んで鏡から引き離そうとした。だが、彼は私の手を振り払い、狂ったように叫んだ。
「どうしてだ!どうして僕を拒むんだ!」
彼の叫びは不気味なほど深い恐怖を帯びていて、私の心に冷たい手が伸びてきたようだった。
ふと鏡を見た瞬間、私は凍りついた。鏡の中で、何かが……動いたのだ。
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第3章:鏡の向こう側
その影はやがて形を成し、驚いたことにそれはエドワード自身に見えた。しかし、その「エドワード」はどこかおぞましい微笑を浮かべ、じっとこちらを睨みつけている。
「僕だ……僕が、本当のエドワードなんだ……」
エドワードは呆然と鏡に向かって手を伸ばし、必死に叫んだ。
「戻してくれ!僕をここに戻してくれ!」
だが、鏡の中の「エドワード」は嘲笑を浮かべたまま、次の瞬間、エドワードの姿は鏡の中へ吸い込まれるように消えてしまった。
「エドワード!」
私は震える手で鏡に触れたが、それは冷たく、ただの無機質なガラスだった。鏡の中には、今や助けを求めるエドワードの姿だけが残っていた。
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