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ミスター「ゼロ」#4 『丸亀製麺』


みなさん、こんにちは。
結果的にミャンマーに魅せられた男、オリバーの安谷です。
この物語は、株式会社オリバーインターナショナルで勤務するわたくし安谷が、ミャンマーから特定技能実習生を日本に招聘する業務で、生まれて初めての海外生活で七転八倒するお話です。
海外戦闘力「ゼロ」安谷の奮闘を包み隠さずお伝えする事で、海外赴任を控えている方、外国人とのコミュニケーションに自信のない方、全てに自信がないと落ち込んでいる方などに、謎に勇気をお届けできたらいいなと思っております。



安谷の海外赴任時の持ち物(※イメージ)

スタンバイ

ミャンマー赴任まで残り4週間。
同僚には「現地では適応力が鍵」と知ったように豪語していたが、安谷にとっては「渡航準備」すら絶望的に未知の領域だった。

直前まで渡航回避に全力で専念していた為、準備は全くできていなかった。
しかも、海外旅行に一度も行ったことが無いので、本気で「何をどう準備すればよいのか?」も分からなかった。

社内では相変わらず「余裕感の安谷」を演出していたので、準備に関して同僚に相談するわけにもいかず、全てGoogleに頼る事にした。

ステップ1:パスポートの取得
申請から取得までに1週間程度必要なため、まずは最初に取り掛かりましょう(Googleからの指示)パスポートサイズの写真を用意しましょう(Googleからの指示)

「確か駅前に証明写真機があったなー 就活ぶりだな」
就活時の思い出に浸りながら、久しぶりに駅前の撮影ボックスに入った。

Googleからの指示通り、しっかりとパスポートサイズを選択して撮影。

妙に真剣すぎる表情が気になった。
「外国では笑顔が第二の言葉だって何かに書いてあったな」

取り直しボタンを強打して再度撮影。
歯が見えないよう口を閉じて、少し微笑む感じで再撮影した。
「よし、いい感じだ」
「確定」ボタンを押してプリント。

2分後、仕上がった写真は微妙にアントニオ猪木のモノマネのように、顎に力の入った謎の表情になっていた。

ステップ2:航空券の手配(※自分で予約しろと上司から言われた)
「会社に迷惑かけないように一番安い便でいい」と、旅慣れたバックパッカー気取りで検索を始めたが、見慣れない「乗り継ぎ」や「経由地」の表示。

「バンコク経由?クアラルンプール経由? 他の国に寄り道するの?」
「バンコクはまだわかるけど、仁川って韓国じゃないの?逆方向?」

自宅リビングでパソコン前にて混乱する安谷。

妻「ミャンマーってそもそも直行便ないんじゃないの?」
安谷「えっ そうなの!?」

5時間後。
直行便がない事、金額によって経由地もいろいろある事を知った安谷は、まるで生まれたての赤ちゃんのような表情で、一般的であろうバンコク経由便を予約した。

ステップ3:荷造り
ここはかなり重要なので、慎重に調べる事にした。
「ミャンマー 持っていくべきもの」とGoogle検索し、出てきた情報に忠実に従った結果、安谷のスーツケースは異様な光景を呈していた。

・うまかっちゃん40袋(安谷好物)
・蚊取り線香10巻
・体温計
・薬
・大量の除菌シート
・大量のお土産用のハイチュウ

自分が服を着る習慣がある事、また、うまかっちゃんとハイチュウで一杯になったMサイズのスーツケースは海外赴任には小さすぎる事に、妻からの指摘で気がついたのは2日後だった。

2日後、新しいXLサイズのスーツケースに、スーツと革靴を押し込む際、さらなる問題が発覚した。
「現地は蒸し暑い」との情報なのに、手持ちのスーツは全て分厚いウール製。慌てて紳士服の青山に軽量夏用スーツを買いに行った。

店員に「どちらへ行かれるんですか?」と聞かれるたびに「ミャンマー」と答え、異様に丁寧な接客を受ける。
「なぜ皆こんなに心配そうな顔をするんだ」と首をかしげたが、彼がまだ経験していない現実がそこには待っているのだが、今の安谷には知る余地もない。


安谷が郷愁に駆られた丸亀製麺の釜揚げうどん

丸亀製麺

渡航3日前。
安谷は渡航準備をすべて終えていた。
慣れない事の連続だったが、ここにきて安谷はようやく気持ちの余裕を取り戻した気がしていた。

スーツケースはリビングの片隅に鎮座し、上には「インスタントラーメン厳重注意」と書かれたメモが貼られている。
妻に「準備は完璧だ」と胸を張ったものの、その完璧さに対する妻の評価は薄かった。

「これで、もう日本ともしばらくお別れか……」

安谷は窓際でぼんやりとつぶやいた。
ふと、心の中にひとつの思いが湧き上がる。

「日本の味、最後に堪能しておきたい」

しばらく悩んだ末に出た結論は「うどん」だった。

安谷は急ぎ車を走らせた。
大通り沿いの「丸亀製麺」の看板が見えてくると、彼は少し緊張してきた。
「本当にこれが最後の丸亀製麺かもしれない」と思うと、自然とその一杯の重みが増す。

昼時の賑わいの中、入店した安谷は落ち着いた足取りでカウンターへ向かった。いつも頼むのは「ぶっかけうどん(冷)」だが、今日は特別な日だ。
「ここはやはり原点にして頂点、釜揚げだな」と心に決め、さらに天ぷらを物色する。
「ミャンマーで天ぷらなんて食べられるだろうか」と考えながら、かしわ天とちくわ天、さらにかき揚げをトレーに乗せた。

席に着くと、うどんの湯気とともに漂うだしの香りが、安谷の郷愁を刺激する。生姜とネギををたっぷり入れたツユに、アツアツの釜揚げうどんをつけて口に運んだ。

「・・・これが日本の味か・・・」

としみじみと感じた。
次に天ぷらをひと口食べ、そのサクサク感に感動しながら、すかさずテーブルにある「だしソース」を天ぷらにかけてもう一口。

「これをしばらく味わえないなんて……」

思わず目頭が熱くなるが、周囲の視線を気にしてぐっとこらえた(自己陶酔)ふと、隣の席で若いカップルが笑い合いながら釜玉うどんを食べているのが目に入った。
「俺も若い頃、こうやって気軽にうどんを楽しんでたな」
と過去の自分を思い出し、どこか懐かしく少し寂しい気持ちになる(自己陶酔加速)

最後の一口を飲み込むと、安谷は静かに席を立った。
トレーを返却し店を出ると、どこからか「頑張れよ」と声をかけられた気がした(自己陶酔による幻聴)

「日本の味、しっかり覚えておくからな」
安谷の目には、どこか決意と覚悟が宿っていた。

次回 ミスター「ゼロ」#5 『ジェットストリーム』