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受け取った大きな愛

 寝ていて、そのまま最後だった。そういうのが一番理想。私が小学生くらいだった頃、こんな話を祖母としていたような思い出がある。何も苦しくない。そうだったらいい。
 あれから、何十年も過ぎた。父との別れが来た。父は、このときの理想の形で旅立った。気づいたら、呼吸していないようだ。と、母からの連絡。家で看取るまでは、平穏ではなかった。想像もできないほど痩せてしまった。ただ、家に戻ってきてからは、言葉は発せないけれども目には暖かい何かを見ているような光が見えた。見ているのも辛いという様子は最後までなかった。
 私は、どれほどの愛情を浴び続けていたのだろう。反抗期だったころは、ひどい言い方もしたし、睨みつけたりすることもあった。でも、そんなことを出来るのも、安心感が底にあっだからこそ出来たもの。元気だったころは、親なのだから当たり前ということさえ考えていた。存在がなくなったことを知るのは、心に大きな穴を開ける。
 藤井風くんの「旅路」に、父への思いを重ねる。

 僕らはまだ先の長い旅の中で
 全てを笑うだろう 全てを愛すだろう
 これからまた色んな愛を受けとって
 あなたに返すだろう

 すべてを愛せないと、すべてを笑えないだろう。思うと、父は家庭で顔を見せる時、笑顔が多かった。おだやかな笑顔だった。
 受け取った大きな愛。父には返せないけれど、周りの人、環境に大きな愛を返していきたい。旅は楽しいときもあれば、苦しいときもある。苦しい時に生き抜くのは、周りから受け取った愛が、その力を与えてくれるのだ。受け取った瞬間に理解できるものでなくとも。

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