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妄想 短編小説 『集中線』

世の中には、幾つもの情報が溢れている。

その幾つもある情報を個人がアンテナを張り巡らせて、必要な情報のみを取り入れる。

パラボナアンテナの様なでっかい利き耳を立て、何でも情報を取り入れる人。

はたまた、か細いラジオアンテナを立て必要最小限の情報のみを取り入れる人。

勿論、アンテナを張張らずとも生活をしていれば自ずと情報は入ってくる。

・・・しかし、それは取るに足りない情報だったりもする。


ここは、とある昼下がりの閑静な住宅の一室。

子育てに勤しむヒロミにとって家事が一段落する時間帯である。

テレビから聴こえてくるのは、耳障りの良い甲高い声だ。

『今回紹介する商品はこちら!
自動インフォメーション付きコンタクトレンズ
その名も「お知らせ君」です!

こちらの商品は、視界に入った情報を個人に向けてAIが分析してくれます。

そして、なんとその情報が必要と判断された場合には対象物に漫画の集中線が投影される
という画期的な商品になります!』

ヒロミは、リビングの真ん中に置かれたローテーブルに片肘を着きながら荷物が届くのを待っていた。

ピンポーン

「お届けものでーす!」

「はーい、きたきた」

ルンルン気分で箱を開けると、中から出て来たのは先程まで見ていたあの商品「お知らせ君」だった。

そりゃあ毎日

同じ時間に
同じ商品を
同じ口調で

販売されたら気にもなるはずだ。

早速ヒロミは、そのメカメカしいコンタクトレンズを右目に付けてみた。

(アレ?視界もかわらないし、度もはいっていないようだな・・・)

続けてローテーブルの上に置かれたスーパーのチラシに視線を変えた。

その時

バシューーーン

たまご1パック198円に集中線が投映された。

(おー凄い!)

バシューーーン
バシューーーン

国産黒毛和牛980円!
春菊1束98円!

ヒロミに有益な情報が次々と集中線にてアナウンスされる。

「決めた!今日はすき焼きにしよう」

ローテーブルに両手を付いた反動で立ち上がる。

「ママ、うんちおわったよ」

トイレの方から子供の声が聞こえてきた。

「はーい。うんちはいっぱい出たかなぁ?今お尻きれいきれいにしようね」

バシューーーン

集中線の真ん中にあるのは、硬すぎずも柔らか過ぎない健康的な形の良いウンチだった。


ヒロミは子供を自転車の後ろに乗せてスーパーに向かっている。

バシューーーン

よく行くアパレルショップの表に出されていた花柄のワンピースに集中線が付く。

先週までは定価だったが、なんと半額になっている。

(ラッキー、帰り道に買って帰ろう。それにしても便利な機械だな)

次に、前方を歩いていたおじさんに突風が吹き上がった。

バシューーーン

ふわりと浮き上がったカツラに集中線が投影された。

(おーーー!)

その後も、道行く人に次々と集中線が投影される。

バシューーーン!

バシューーーン!!

バシューーーン!!!

ヒロミはまるでFPSゲームにて敵にエイムを合わせる要領で次々と集中線を投影させていった。

街には大なり小なり情報が溢れ出している。

ーーーおわり









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