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妄想 短編小説 『配膳ロボット』
様々な職業が人手不足に悩まされている昨今、職種により理由は様々だが、飲食業も例外ではない。
コロナウイルスという未知のウイルスがもたらした未曾有の事態に外出自粛を余儀なくされた。
人々が外に出歩かなくなると勿論、レストランにはお客が入らない。お客が入らないと、仕事が減る。仕事が減ると従業員は、生活をしないとならない為、他業種へ転職する。
いちど他業種へ移った人手は、中々戻ってくる筈もなく飲食業は慢性的な人手不足という現状だ。
そんな飲食業を救うべく未来からやって来た『猫型ロボット』とでも呼んでおこう、まるでアニメのような話が、実際に現実で起きてしまった。
なんと配膳ロボットの誕生だ!
ここは地方の田舎にある某レストラン。
「中村くんコレ見て!いいでしょう〜」
珍しく機嫌が良い店長が、ロボットの頭を撫でながら自慢してきた。
「店長、最近流行りの配膳ロボットじゃないですか。一体いくらしたんですか?」
「大体350万くらい。年間のメンテナンス代をいれたり、何やかんやで毎月のランニングコストは3万てとこかな?
昨日ホールの山田くん飛んじゃったじゃん?
この配膳ロボットはプログラムされた事だけやってくれるから楽だよ〜。名前はロボ子さん」
すると、ロボ子の顔の位置にあたるモニターに映像が映し出された。
(^O^)
「それでは、ミーティングはじめようかぁ」
「今日は、16名の団体が一組。ロボ子さんが山田くんの変わりに入ってくれるから、今までやっていた貸切りは廃止します。予約なしのお客様も入って少し忙しいと思うけど皆で頑張りましょう!」
「ホールは、中村くんとロボ子さんでお願いね」
店長は相変わらず、他人事である。
「いらっしゃいませ」
開店と同時に、予約が入っていた団体がやって来た。
一人ひとり席に着くと、あっと言う間にホールの半分が埋まった。
シェフが手際良く料理を作る。事前に予約を貰っていたので、出来たてホクホクの料理が次から次へとデシャップに並べられていく。
中村くんとロボ子は、交互になりその料理をお客のテーブルへと運んだ。
中村くんが両手に料理を持って慌ただしく二往復する間に、ロボ子は四段の棚が設けてありそこに料理が載せられると、ゆっくりと一往復する。
厨房では、あっと言う間に人数分の料理が完成した。
中村くんが合計4往復、ロボ子は2往復。
一段落付いた中村くんは、ふとロボ子を見ると
(・∀・)
ロボ子は、中村くんに余裕を見せつけるように顔文字を変えた。
「感情でもあるのか?鼻に付くなぁ」
いらっしゃいませ
今日は日曜日なので予約無しのお客も次から次へとやって来た。
中村くんとロボ子はフル稼働。
(T_T)
「たとえ忙しくとも笑顔は大事だよ」
中村くんは、いつもの後輩に教育する癖で反射的にロボ子に話しかけた。
「ってロボットに言っても一緒か。メニューから設定を・・・」
先程、説明書を読んで勉強していたので直ぐ様『笑顔モード』に切り替えた。
(^o^)
顔文字の数は30種類あり、状況によって変化があるみたいだ。なんと粋なロボットなのだろうか。
せっせと料理を運んでいく内に、再びロボ子の顔文字が変わる。
(*_*)
(駄目だ!笑顔モードに戻さないと)
中村くんはそう思ったが、接客に忙しく手が離せない。
m(_ _)m
(最悪、もうロボ子さん疲れてるじゃん)
ロボ子が少しだけ熱くなってきた。
時刻はまだ12時30分。どんどんお客は押し寄せる。
中村くんとロボ子はフル稼働。
(´ε` )
(アレ?ロボ子さん開き直ってない?)
明らかに配膳スピードが落ちたロボ子を、邪魔そうにドリンクバーにいたギャルが高飛車な態度を取る。
「マジで邪魔なんだけど。ウザっ」
ロボ子に吐き捨てた。
「・・・ブツッ」
熱を帯びたロボ子の画面が急にブラックアウトした。
その時だ
「キャーーー」
中村くんは、ドリンクバーで悲鳴を上げるギャルとロボ子が目に入った。
何事かと近付くと、ギャルがロボ子のほうを指差し何かを言っている。
「まじチ○コじゃん」
ロボ子の顔を見るとモニターには、卑猥な物が映し出されていた。
中村くんはとっさに手にしていた布巾で画面を隠した。
「申し訳ございません!」
幸いな事に、ロボ子はカウンター側を向いていた為、他のお客には目撃されずにすんだ。
しかし暴走は止まらない。
突然、ロボ子の両肩が開き拡声器が現れた。
次の瞬間、ヘビメタの曲にコブシを効かせた演歌が混じり独特なBGMが大音量で店内に流れる。
(´ε` )
食事中のお客がむせ上がる。
(´ε` )
大人は悲鳴を上げるが、子供達は大爆笑。
(´ε` )
「うるせぇー!」
上下のセットアップを着た強面のおじさんが近寄って来た。
「食事の邪魔をしてんじゃねーよ!ロボットのくせしやがって!」
おじさんは、至近距離でロボ子に近付き啖呵を切った。
(´ε` )
ウィ~ン
何やら機械音と共に、今度はロボ子の右手がピストルに変形した。
「うわっーーーー」
銃口は腰を抜かし尻もちを着くおじさんの額へとロックオン。
中村くんは一旦目を背けて、再びおじさんを見た時には赤く染まっていた。
(ぴゅっぴゅっぴゅっ)
「おえっ〜〜〜」
刺激臭に耐えられず、えずくおじさんに攻撃は止まらない。
(´ε` )
店内がタバスコの匂いに包まれる中、ロボ子は扉を開け店の外へと出て行った。
「待ってよー。ロボ子さーん!」
中村くんが追い掛けて、ロボ子を取り抑えようとすると顔の位置にあたるモニターにモザイクが掛かった映像が映し出された。
肌色のモザイクで真ん中の部分が尖ったシルエット。中村くんはモザイク処理がされていたが直ぐに何か解った。
(これ絶対、中指立ててるよな)
ウィ~ン
再び、機械音と共に今度はロボ子の背中から翼が出て来た。
(ビューーーーーン)
店から慌てた店長が出て来た。
「中村くんロボ子さんは何処にいった!?」
中村くんは、あんぐりと空を見上げながら言った。
「ロボ子さんは飛びました」
ーーーおわり