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フォロワー1,000人到達記念作品 1,000文字ショートショート『Y字路に佇む家』後編
前編↓
中編↓
倉庫の中は薄暗く天窓からの光がホコリをちらつかせていた。
広さはおおよそ3畳程だろうか?
生活空間では無い為、板張りにグラスウールの断熱材を敷き詰めているだけの簡素的な構造をしている。
私はサラッと辺りを見回した。
すると一番奥の隅に、この間取りの最大の特徴である(Y路地に佇んだ)60度の空間が目に入った。
乱れる呼吸を抑えながら整えつつも、体中から溢れる「知りたい」という感情が一歩、そしてまた一歩とその空間に足を近づけた。
(一体、あの隅に何が?)
中腰になりながら、子供一人が入れるサイズの横倒しになったボストンバックをそっと跨いだ。
そして、
天窓からの光の線が『それ』を銀色に照らしていた。
『それ』は60度という幾何学的な角度にピッタリとはまり、天井高く隙間を埋め尽くしているではないか。
私にはこのアルミの包装紙に包まれた、キラキラと輝く『それ』がまるで宝物の様に見えたのだ。
息を吸って。
吐いた。
おでこをぶつけた痛みなんて忘れていた。額から滴り落ちる生暖かいものを拭いながら考えた。
頭では「駄目だ」と言い聞かせながらも、体は正直である。既に私は手を伸ばし『それ』を抜いていた。
その時だった。
弓なりに傾いた『それ』が音を立てて、天井から崩れ落ちる。
ダダダダダダっ!
「まずいっ」
一目散にこの場から離れなければいけない。私はそう思って『それ』をポケットに入れると、この小部屋から飛び出そうと勢いよくボストンバッグを飛び越えた。
しかし、つま先がバックに引っ掛かり体勢を崩してしまった。
私は倒れるまいと右手を前に出しながらバランスを保つ。
その勢いのまま扉を押し出した。
トントントン。
まるで歌舞伎役者が繰り出す飛び六法かの如く、右手を突き出したままリビングに飛び出たのだ。
「うわっーーーっ!」
薄汚れたソファーから腰を抜かし倒れこんでいる男と目が合った。
「だっ、誰なんだテメェ!」
「違うんです!私は・・・」
一旦冷静になり正直に全てを話そうとしたが、窓ガラスに映る私の顔は血まみれで拭ったせいか真っ赤である。
「これじゃあ、さっきから私のやっている事は歌舞伎じゃないか!」
「何言ってんだテメー!」
腰が抜けたままの男は、スマホを取り出し警察に連絡しだした。
「すみませーーーん」
私は逃げ出す様にリビングを後にした。そして、階段を飛び降りるなり着地に失敗し派手に転んだ。
その時、ポケットに入れていた『6Pチーズ』が転がり落ちた。
以上、1,000文字(完)
※お陰様で、フォロワー1,000人到達する事が出来ました。これからも色んな文章を書いて、皆様を愉しませたいです!
ありがとう御座います。