妄想 短編小説 『便利な世の中』
時は西暦2085年
個人がテレポートを自由自在に行えるようになって間もない。
観光業は、右肩上がりの好景気だがそれと同時に「乗り物に乗って移動する」という概念が無くなった。
飛行機、新幹線、バスやタクシーなどあらゆる乗り物が見かけなくなった。
メリットの分だけデメリットも発生する。
まぁ、世の中そんなもんだ。
サトシは平凡なサラリーマンで、今日は休日である。
実家暮らしの二階の部屋では、昨年でサービスが終了した二世代前の5Gを接続し、壁に投映された立体的なバラエティー番組を観客席から横になり鼻をほじりながら見ている。
サトシはゲラゲラと笑いながら「ポテチ口運びマシーン」を使い娯楽に浸っている。
「ピンポーン」
自宅の呼鈴が鳴る。
「ピンポーン」
「お母さーん!誰か来たよ」
サトシは二階から母を呼んだ。
「ピンポーン、ピンポーン」
(お母さんいないのかな?)
「はーい!」
サトシは二階からテレポートで移動し玄関を開けた。
「お荷物届いています。印鑑をお願いいたします」
「印鑑何処だったけな?」
サトシはテレポートを使い一階と二階を行ったり来たり。
ようやく、冷蔵庫隣の引き出しの中から印鑑を見つけ出した。
「ありがとうございました」
サトシは再び、テレポートで移動して二階に戻った。
しかし、間髪入れずに再び呼び鈴がなる。
「はーい」
テレポートで移動して玄関に到着した。
隣のおばさんだった。
「はいサトシ君、回覧板」
ステックタイプのUSBを受け取った。
「いつも思うんだけど、なぜ回覧ステックと呼ばないんでしょうね~?」
サトシは、おばさんの言葉など無視して二階へテレポートした。
その後も今日に限って、呼び鈴は止まらない。
「はーい」
(テレポート)
「ありがとうございます」
(テレポート)
「はい」
(テレポート)
「どうも」
(テレポート)
「・・・はい」
(テレポート)
「・・・ども」
(テレポート)
「ピンポーン」
「ピンポーン」
あ~あ
テレポートするのも面倒くせぇ
サトシは3年ぶりに階段を使い二階に上がった。
ーーー終わり