#無茶ブリお題道場「スペースボーラー 幸子」
本編↓
シャトルはラウンドワンの入場ゲート前へと着陸した。
幸子はそのまま、パスをかざし入場している列の最後尾へと並んだ。そして「さぁ今日も頑張るわよ~」と続けてパスをかざす。しかし
ピピっ!ガタン
勢いよくゲートが閉まった。
「あら、やだっ!」
幸子は片手で口元を隠し、恥ずかしそうに照れている。
因みに「あら、やだっ!」は彼女の口癖なのである。
どうされましたか?係員が訪ねてきた。
「間違えてラウンドワン地球店のカードをかざしちゃった。ここは銀河ステーション店だったわね?ごめんなさい」
「いえいえ・・・。ちっ地球店?あの地球?」係員は幸子を二度見するとそのまま続けた。「失礼いたします。念のため拝見させて頂けないでしょうか?」
「写真は上手く盛れていないけど、はいどうぞ」
幸子はそのピンク色でヒョウ柄の定期入れからカードをかかげて見せた。
「こっ、これは初めてみた。これが地球店カード・・・しかもプラチナ会員じゃないか。さぁこちらへどうぞ」
係員が別扉へと案内した。
「えっ?何??私のこのオールパーパスがそんなに珍しいの?確かに、地球では『おばさんパーマ』って呼ばれているけど」
「さぁさぁ、こちらへ」
「あら、やだっ!」
✣
別扉である鉄製の大扉を開くとそこは巨大なスタジアムになっていた。観客席からは、割れるような声援やら怒号が聞こえてくる。
客衆の声を割って聞こえてきたのは、唸るような声だった。
「お前が地球人か?」
幸子が見上げると、そこにはイカにも似た6本の触手をクネクネ動かした巨大生物が仁王立ちしていた。
「今更この『スペースボーリング』のルールを説明するのも野暮だが、いかせん、地球人は理解力に乏しいと聞く。それにこの広い天の川銀河、派生に派生を繰り返し、現在は生ぬるいローカルルールが確立されている。非常に不愉快だ」
幸子は目の前にそびえるレーンを睨んだ。そして、そのままボーラーズ・ベンチへに座るとタッパーを取り出し、煮物を食べ始めた。
そう、既に彼女のルーティーンは始まっているのだ。
「ルールは至ってシンプルだ。この50メートルあるレーン先に並んだ300本のピンを何本倒せるかが勝負。勿論、投球回数は1回のみ。
何処かの惑星の様に、2投10本倒すルールなんぞ虫唾が走るわ!」
ワーーー!
あおられる観客のボルテージも最高潮だ。
「さすが銀河ステーション店ね。スケールが全然違う。でも大丈夫、やれるわ!でも何あいつ、観客をあおりにおおっちゃって。あれじゃまるで『アオリイカ』じゃない」
幸子はドヤ顔をして周囲を見渡したが、そもそもここにはイカというが概念が無い。
「・・・まぁいいわ」
「さっきから何を一人でブツブツ言っておる。では、私からいくぞ!」
そう言うと、巨大生物は6本ある全ての触手にボールを持ち勢いよく投球した。
ブンッ!!
その左右から放たれたボールは互いにフックし合って大きな弧を描いた。
そして、ヘッドピン手前で弧がぶつかり合うと大爆発を起こした。
ドッカーーーーーン!!
砂埃が収まり幸子の視界が晴れた先には、全てのピンが跡形も無くなっていた。倒れたというより全て吹き飛んだのだ。
「まぁこんなもんだろう。では、お手並み拝見といこう」
巨大生物は意気揚々としている。
パチッ。その時、タッパーの蓋を閉じる音がした。
そう、幸子はその瞬間に辛子へと豹変するのだ。
辛子
彼女と戦った敗者達はそう呼んでいた。理由は「幸」から一画抜くと何となくキャラが立ってカッコいいからだそうだ。
そんなスペース中二病の戦友達からは、カリスマと崇められた。
「さぁ、行くわよ」
辛子はマイボールを取り出して入念に磨く。
そのボールに掘られているネームを見た瞬間、巨大生物は勘づいた。
「ナカヤマ・・・。貴様、ナカヤマというのか?」
「ええ、そうよ」
「まっまさか、先祖はあの・・・」思わず後ずさりしている。
巨大生物がおののく頭の中には、あの綺麗な決めポーズの女性がフラッシュバックしていた。
「あら、やだっ」
ーーーおわり
【追記】最終日締め切りは、1月26日(日)です。まだまだ受け付けております。
最後まで皆さん、盛り上がって行きましょう!
#無茶ブリお題道場 #ショートショート #お題 #ボーリング #SF