妄想 短編小説 『面白いオジさんの選び方』
(カツンッ、カツンッ、カツンッ・・・)
俺は天を仰いだ。
昇天させるべく挑んだこの闘いにて、今日もあっけなく昇天させられたからだ。
右手でハンドルを回したまま、無情にも空打ち音だけが鳴り響く。
給料が入ったその脚で、パチンコ店に向かい今月も見事に財布の中をスッカラカンにしてしまった。
俺は半月分の給料を、貰ってそのまま口座に入れず全て使い果たすという、見事なアリウープを決めパチンコ店を後にした。
俺は無名な漫才コンビ『西瓜』のツッコミを担当している。
厳密に言うと、担当していた。
というのも、これで5人目となった相方もファミレスでネタ作り中に突如「タバコ買ってくる」と言い出して自転車を走らせて姿を消した。
そのまま2カ月が経過し、未だに帰って来ない。
これは、相方の長い長い超大作のボケでツッコミを待っているのか。
それとも未だにタバコを買いに自転車を走らせているのか。
真相は謎である。
まぁ、俺の長い長い人生のほんのイチブだと考えると些末な出来事だ。
ただ一つだけハッキリしている事がある。
相方はタバコを吸わない。
帰り道、俺はいつものようにペチペチとビーチサンダルを踵で鳴らしながら、商店街を歩いていた。
すると何やら面白そうな看板が目に入った。
『面白いオジさんの選び方』
そう書かれていたイーゼルの看板には続けてこう説明されていた。
1、シマ模様がはっきりしていると面白い!
全体にツヤがあって、黒の縦縞がはっきりしているオジさんがおすすめです。表面を手のひらでさわってみたとき、ぼこぼこしているのも面白いサイン。
2、オジさんのお尻の穴が大きいものはツッコミ頃!
お尻にある穴が大きいほど、よく熟していてツッコミ頃であることを表しています。面白みも大きいほうが強いので、ぜひ持ち上げてお尻も見てみてください。なお、穴が小さいからといって、時間を置けば追熟するわけではありません。あまり日を置かずにツッコミましょう。
3、ツルが色濃く周りが盛り上がっているか?
完熟になるとツルの付け根より周りが盛上がってきます。ツルの付根が凹んでいないものは未熟と診ていいでしょう。ツルの付け根がくぼんでその周りが盛り上がっているものを選びましょう。
4、オジさんを叩いて音を聞け!
「オジさんの面白さは叩いたときの音で判断できる」と聞いたことがある人が多いかもしれません。実際、ツッコミ頃のオジさんを叩くと、ポーンポーンと軽い音が響きます。一方、まだ熟していないオジさんは、コツコツと硬い音がするはず。
この説明された1〜4に習って、様々な人達がオジさんを物色していた。見事に自分好みのオジさんを選ぶと、そのまま手を繋ぎレジへと並んで行く。
一見はたから見ると不埒なゲームのようにも見えるが、俺も新しい相方を見つける為に面白いオジさんを探し出す。
なになに?
(1、シマ模様がはっきりしていると面白い!)
右から二番目のこのオジさん、バーコードが五線譜のようにピッチリ分けてある。取り敢えずこのオジさんにしよう。
(2、オジさんのお尻の穴が大きいものはツッコミ頃!)
ちょっとオジさん失礼します・・・
・・・まぁまぁ熟されてるな。
(3、ツルが色濃く周りが盛り上がっているか?)
オジさんのつむじのてっぺんを軽く撫でてみるとこんもり盛り上がっていた。よしっ
(4、オジさんを叩いて音を聞け!)
撫で終わると、今度はツッコミの要領でオジさんのおでこを叩いてみた。するとギトギト脂のオジさんからは想像も出来ない、何とも涼しげな水々しい音がするではないか。
「キミに決めた!」
俺はそう叫び、オジさんの手を取るとオジさんは頬を赤らめてこう言った。
「わしゃポケモンかっ!」
『西瓜』の再スタートである
ーーーおわり
あとがき
どうも、シンスケです!
最近スーパーで見た「美味しいスイカの選び方」を見て、そっくりそのまま
スイカ→オジさん
食べる→ツッコミ
美味しい→面白い
という文字だけを変換して書いたら、不思議な世界となりました。