妄想 短編小説 『勝利へのルーティーン』
俺は43歳で実家暮らしのフリーター
若い頃は、いわゆる「パチプロ」だった。
今日は7月7日
行きつけである近所のパチンコ店では、年に一度何かを期待させるゴロが良い大勝負の日である。
巷では七夕なのだが、そんなものは俺にはカンケーない。
今日もバイト代を握りしめて、朝イチ抽選の列に並ぶ。
抽選結果は258番
前列の集団は、スロットに流れるとして何とかパチンコには座れるか・・・
時刻は8時59分。全国のパチンコ店は10時開店の地域が大半だが、俺の地域は9時が開店時刻である。
フィルターのギリギリまで吸ったタバコを、足で踏み潰すと同時に、店内からスタッフが元気よく出て来た。
「それでは、まもなくオープンです!おはようございます!」
お目当ての台を、他の連中どもは我先にと駆け足になり、直ぐ様スタッフに注意を受ける。
なんとも哀れだ。
ここから俺の勝利へのルーティーンが始まる
まず、店内には右足から入る※ルーティーン①
次にスタッフのお姉ちゃんに挨拶をする※ルーティーン➁
【森物語】の島へ競歩で向かう。
狙いは、昨日出ていなかったカド台だ。
危ないっ、杖を着いたババァが俺の狙っている台のデータを見ている!
すかさずパチンコ台の上皿にタバコを置く。
ざまぁ見ろババァ。シッシッ!
今日狙いの台は【森物語】前日1350回転ハマっていた台だ。
次は自販機に行き小銭でブラックを買う※ルーティーン➂
尿意は無いが、トイレで手を洗う※ルーティーン➃
座席に着き、パチンコ台のハンドルに小銭を挟んだらさぁ始まりだ!
サンドにお札を入れる。
お札が出てきた。
なぁに問題ない、お札を半分に折り再びサンドに入れる。
(ジャラジャラジャラ)
ほぉら
まずは様子を見るとするか。
1000円で21回転、まずまずだな。
すると
187回転目にしてリーチ!
画面にはマタギ姿の「モリンちゃん」が登場。
焦るな
台のボタンを高速で連打すると当たりやすいのだ※ルーティーン➄
(ざんね~ん)
モリンちゃんが消えていった。
まだマイナス1万、取り返せる。
負の根源を洗い流すべく再びトイレへ。
台に戻ると隣の台では、俺の台を奪おうとした杖を着いたババァが大当たりしている。
なにっ!
俺は平常心を保ちながらハンドルを回す。
その後も、リーチや熱めの演出は続くも当りは引けず、お札だけがサンドに吸い込まれる。
迎えた824回転目
なんと1と9のダブルリーチ、しかも今度は猪群が走った。
期待値は80%
モリンちゃんも来てくれた。
左手でボタンを連打しつつ、右手は指紋ベタベタになりながら、画面のモリンちゃんをタッチする※ルーティーン➅
次の瞬間
(おめでと〜う)
投資マイナス5万
時刻は12:45だった。
奇数で大当たり後、直ぐさま俺は店の外に出て電話をかける。
「お疲れ様ですぅ。バイトの○○です。今日体調悪いので欠席いたします」
馬鹿か。コンビニでの時給と【森物語】の確変を天秤にかけたら結果は一目瞭然だろうが。
ここから巻き返すぞ!
そして直ぐに、確変中の紫色の画面にリーチがやって来た。
(リーチ)
偶数でのリーチで嫌な予感。
「・・・」
案の定、結果は2連チャン
再び258回転まで回して、二箱あった出玉もあっという間に無くなった。
呆然とたたずむ俺の隣では、ババァが大箱を出している。
そして
無言のまま立ち上がった俺のルーティーンが再び始まる
パチンコ台の上皿に噛んでいたガムを詰める※ルーティーン➆
飲みかけのコーヒー缶を逆さまに置く※ルーティーン⑧
トイレの個室に入り大便用の便器にトイレットペーパーを突っ込む※ルーティーン➈
出口付近の防犯カメラに向かって中指を立てる※ルーティーン⑩
外の駐輪場に並べてある自転車を蹴ってドミノ倒しにする※ルーティーン⑪
バイト先に電話をする
「お疲れ様です。バイトの○○です。体調治ったので今から出勤します」
※ルーティーン⑫
ーーーおわり