汐留の高層ビルから見た東京の夜明け
大学時代、汐留のとある会社でバイトをしていた。
24時間対応のシフト制のバイトで、夜勤に入る時は帰宅に向かう背広姿のサラリーマンに逆行して、適当な私服姿でオフィス街を歩いて出勤した。
まだパワハラやセクハラが問題視される前だったのと、業界的に体質が古かったこともあって、社員からよく怒鳴られた。
電話を取るのが遅いこと、声が小さいこと、話が面白くないこと、性格がオープンではないことをチクチク指摘された。
夜勤の時は、夜ご飯を食べるような時間から深夜の2時頃まで働き、数時間の仮眠を取ったあと、朝のシフトのバイトが出勤するまで少し仕事をして帰るようなスケジュールだった。
帰宅する時は、出勤した時とは真逆で、サラリーマンと逆行して駅に向かった。
夜勤の翌日は、大学の授業や遊ぶ予定があることが多かった。
だから深夜に一度仕事を締めたあとの仮眠時間は少しでも寝た方がいいものの、僕はなんとなく眠れないことが多かった。
社員から休憩の許可をもらうとふらっと会社の外に出て、人気のない汐留から新橋までを、音楽を聴きながらうろうろと歩くことが多かった。
RADWIMPSのバグッバイをよく聴いた。
人がいないオフィス街を歩いていると、世界に一人だけになった気がした。
そしてなんとなく不安になった。
今まで生きてきた自分が、今の自分が、考えれば考えるほど間違ったことばかりしているような気分になって、どこで間違えたんだろう、と逡巡した。
しばらく歩いていると眠くなってきて、それと同時にお腹が減ってきて、不安を振り払うようにファミリーマートでおにぎりとファミチキとカップラーメンを買って食べた。
暴飲暴食したあと、すぐに仮眠するので、起きたときには当然胃がめちゃくちゃもたれていて気分が悪かった。
仮眠室のベッドはあんまり居心地がよくなくて、シャワーを浴びても気分は変わらない。
気持ち悪さを抱えたままに仮眠室を出て、執務室に向かうためにエレベーターを待つ。
そのとき、高層ビルの10数階の窓から、街を見下ろすことができた。
晴れた日、そこから太陽が昇ってくるのを見ることができた。
とても眩しくて、直視するのが難しかった。
それでも薄目になって、なんとか夜明けの瞬間を見ようとした。
太陽で照らされていく東京の街は、月並みな表現だけれど神々しかった。
それを見ることができた朝は、「まあ、もうちょっと頑張ってみるか」と思った。
今までは間違いだらけだったかもしれない。
だけど、これからの日々は違うかもしれない。
変わりたいと思っている自分は、変われるかもしれない。
深夜と違って、世界にたった一人だとも思わなかった。
東京には、たくさんの人の暮らしがある。
僕もその1人として、自分の人生を生きていく。
バグッバイ / RADWIMPS