
一口馬主の確定申告について
はじめに
現役のクラブスタッフが一口馬主の確定申告について、わかりやすくまとめてみました。本来は知人向けに作成したものですが、有料部分以外はいらないと言われたので、供養するためにnoteにしました。中には一般に知られていない有益な情報もあるかと思いますので、確定申告の際の参考にしてください。
本稿は一口馬主の経験が浅い方に、正しく確定申告をして、すてきな一口馬主ライフを送っていただくことを目的としています。中には不正確、抽象的な表現もあるかと思いますが、大目に見てください。
※まず大前提として、「一口馬主」という言葉はこの世には存在しません。JRAの見解は競走馬ファンド事業者の出資会員を指す俗語(スラング)が広く流用されているものです。
競走馬ファンド事業者(いわゆる一口クラブ)のクラブ法人、愛馬会法人は年に一度、JRAと面談を行いますが、そこでは必ずといっていいほど、
「一口馬主という言葉を使うな、関係先(牧場等)にも指導を徹底しろ、会員にも誤解をあたえるような表現はするな」と指導を受けています。
ただ、本稿ではわかりやすさ重視のため、
競走馬ファンド事業者を一口クラブ(仮)、
同出資会員のことを一口馬主(仮)と呼びます。
けして、厳格な審査をパスした(本当の)馬主の立場を脅かす意図はありません。
そもそも論 [一口馬主の配当のしくみ]
一般的な話として、収入がある場合、経費をのぞいた残りの金額が利益となります。そして、その利益のうち決められた割合を税金として納税することになります。
収入からのぞいた経費分のお金は、「経費の戻り」として、すでにその経費を立て替えている会社(個人)に返すことになります。
一口馬主は匿名契約ファンドという難しい形式になっていますが、
本質的には同じで、
収入(出走レースの賞金、見舞金、保険金など)から
経費(馬の代金、毎月のエサ代などの維持費、運送費など)を引いた残りが利益(利益分配金と呼ばれてる)になります。
ただ、ファンドへの出資という形なので、経費ではなく「出資金」と呼ばれています。
また、クラブから送られてくる書類に載っている「出資返戻金」という用語は「いままでかかった費用を、経費の戻りとして返します」と認識するとよいでしょう。
この出資返戻金と、利益から所得税(愛馬会法人源泉)を控除した金額が、クラブから月の下旬に振り込まれてくるお金になっています。

また、未勝利馬などで、いままでかかった経費分よりも収入が少ない場合、
収入分がそのまま出資返戻金として振り込まれてきます。(今まで払ってきた経費が戻ってきているだけなので、当然所得税の対象外です。)
また、一口馬主はファンドの仕組み上、馬が引退(運用終了)するまで損失を繰り越すルールなので、
経費として計上しきれなかった部分は、翌月以降の収入が発生したタイミングで計上する形になっています。(出資返戻可能額と記載されている部分)
《紛らわしい名前を使っているのでよく聞かれますが、出資返戻可能額はいつか必ず戻るお金ではありません。
経費として払ったのに、まだ(経費の戻りとして)返還できていない金額≒現状の赤字額です。収入が発生すればその収入額に応じて帰ってくるものです。》

この点がよく誤解される点ですが、
クラブからお金が振り込まれたからといって、その金額がすべて所得税の対象とは限りません。
あくまでも収入が経費(出資金)を超えた場合の利益(利益分配金)が所得税の課税対象です。
たいていの場合、クラブからの振り込まれる金額のうちのほとんどが経費の戻し(出資返戻金)なので、思っているより利益は少なくなります。
一口馬主の源泉徴収のルール

クラブから振り込まれる金額のうち利益部分(利益分配金)は所得税の源泉徴収の対象となります。
本来の納税額はその人の総所得(一口馬主だけでなく給与所得なども含めた額)によって段階的に定められた所得税率によって決まります。

※収入ではなく所得なので思っているより少ないはずです。
《同じ馬に出資している場合、利益分配金の額は同じはずですし、クラブが源泉徴収する金額も同じなので、同じ金額が振り込まれてきますが、実際に納税する必要がある金額はその人の給与などの所得によって変わります。金持ちそうな人と貧乏人が同じ馬を持っていた場合、貧乏人のほうが実入りは多いです。》
一方で、クラブ側は一口馬主個人の税率なんて把握できないため、法令で決められた一律20.42%で源泉徴収します。
サラリーマンは税率5%、10%または20%がほとんどだと思われますし、
おおくの方は、個人の税率と差があるはずです。
一口馬主の確定申告とは、クラブが源泉徴収した税率20.42%と、個人税率の差額分を還付、または追納する手続きです。
また損失が多く発生したときには、源泉徴収された金額を還付してもらう手続きでもあります。
要注意ですが、一口馬主でものすごく配当の多い馬をもっていたり、種牡馬になったりで一時的に収入が増えた場合、その年の個人の所得税率が上がってしまうことがあります。給与所得部分にも影響を与えるため、まあまあな金額の追納となるので覚悟しておきましょう。
所得税の申告について
用語の解説
毎年1月にクラブから所得税の確定申告用の資料が送られてくるかと思います。

①収入金額=利益分配金。
クラブから振り込まれる金額のうち、出資返戻金を除いた金額。ただし、源泉徴収税がひかれる前の金額。
②必要経費
主に2つ。
一つ目は馬の終了損失。一口馬主は引退まで赤字(=出資返戻可能額)を繰り越していくので、引退(運用終了)したタイミングで損失として確定する。
儲からなかった馬が引退すると引退精算が終わった年にまとまった額の損失が計上されます。
2つ目は、毎月の会費などのクラブの会員として馬に出資するのにかかった費用。出資金は馬ごとにかかった経費に対して、クラブの会員としてかかった経費。
ここはかなり知られていないものも必要経費として計上できる。詳細は下部に記載
③所得金額
収入①から必要経費②を引いたもの。
雑所得に分類される。
ここの金額が申告の義務があるかの基準になります。
④源泉徴収税額
よくある問い合わせで、この金額を納税する必要があると勘違いされる方があるが、一口馬主のかわりにクラブがすでに税務署に納めた金額です。
クラブは会員へ賞金等を分配する際に、利益部分に税率20.42%をかけた金額を控除して残りを送金しています。
クラブ側の申告基準
クラブ側は毎月、源泉徴収した金額を税務署に納付する。
ただし、この時点では誰からいくら源泉徴収したかは報告なし。
翌年1月頃に、12か月の集計が完了したら、①収入金額が12か月合計で5万円を超えた人を税務署に報告。
その後、各会員に申告資料を送付しています。
雑所得(総合課税)内での損益通算
申告書に書いてあるとおり、雑所得内での合算(損益通算)が可能。
正確には合算して申告することになるので、半強制的に合算される。
→馬の引退などの終了損失で必要経費が多く出た場合、ほかの雑所得と合算される。ほかの雑所得で源泉徴収済みの金額があった場合に還付してもらえる可能性大。
【ほかの雑所得の候補】
・年金(年金はほぼ確実に源泉徴収されるので、一口馬主で損失が出た場合、合算して還付になる可能性が高い。定年後の趣味としては一口馬主は最高。損しても年金の源泉分が還付される。)
・他の一口クラブ(たいてい複数クラブ掛け持ちしてるでしょ)
・事業所得としていない馬主業(一口馬主は馬主業ではありません。)
・ウーバー配達などの個人委託系の副業(会社から給与もらうアルバイトは✖)
・仮想通貨(のちに分離課税になって合算申告できなくなる可能性が高いですが、現状は可能)
【合算できないもの】
・FXなどの先物
FX側が特別な扱い(分離課税)なので合算できない。
※仮想通貨や馬主業などは取り扱いの規模や開業届の有無などで、雑所得以外の所得区分になることがある。合算できなくなるので要注意ex馬主業→事業所得
一口馬主でたいした利益がなくても、必要経費は基本的に毎年発生しています。(年会費など)
一口馬主以外の雑所得のある方は確定申告を検討してみてください。
確定申告が必要な人やるべき人
1⃣ 一口馬主以外の理由で、確定申告をする人(義務)
なにかしらの理由で確定申告する場合、すべての所得について申告が必要。一口馬主の所得金額が大したことなくても、道連れ的に一口馬主分の申告も必要になります。
給与所得2000万以上ある人とか、年収4000万以上ある人とか、贈与税申告する人とか、不動産所得申告する人とか。フリーランスとか。結構いるはずです。
2⃣ 雑所得の合算の金額が20万円を超える人(義務)
個人の所得税率によっては還付になるのであきらめて申告しましょう。
住民税は確実に増えるので、勤め先の総務人事から確認されるかも。
副業ではないので胸張って、投資の趣味で少し収入があったとでもいっておけば。
3⃣ 雑所得の所得金額がマイナスなのに源泉徴収額がある人(任意)
クラブから送られる申告書のうち、④源泉徴収額に数字がある人で、③所得金額がマイナスの場合や、雑所得内(ほかのクラブなど)との合算所得がマイナスの人。
支払っている会費に対して、所得の額が小さすぎたり、引退する馬がいて終了損失がでてる人とか。
雑所得に関しては、ほぼ確実に還付になるので、マストで申告
所得は増えないから住民税も増えない、脳死で申告しましょう。
※表記上はマイナスでも申告時は「0」になります。税務署の人にこいつ馬見るセンスねーなとか思われないんで大丈夫。
確定申告を検討するべきか微妙な人
1⃣ 雑所得の③所得金額の合計が20万円以上ではないけど、④源泉徴収税額に数字がある人(任意)
①収入金額 ✖ (20.42-個人の所得税率)%が還付される金額です。
個人の所得税率が10%とかの場合、④源泉徴収税額は20.42%で計算されているため、差額の10.42%分が還付される可能性があります。
ただし、還付を受けるために申告をすると、所得が増えていることを申告することになるため、住民税が増えます。申告しなければ増えません。
住民税の計算式は複雑ですが、おおよそ10%(より少ない)くらいです。
10.42%の還付を受けたら、10%分住民税の負担が増えましたってなるけど、申告する必要ある? 所得が増えて所得税率があがってしまうリスクあるけど、申告する必要ある?
所得税の申告については年末調整を受けていて、雑所得が20万円以下の場合、申告は免除されますが、所得がある場合、住民税の申告は義務なので、ちゃんとやりましょう💦
申告書の記入

申告書に記入が必要な場合、第一表に合計額、第二表に詳細を記入します。
雑所得での種目が「公的年金等」「業務」「その他」のうち「その他」(区分は空欄のまま)に該当します。かっこつけて「業務」にしないように。
①収入には収入金額(複数クラブある場合はその合計)を記入、
②所得金額には収入金額から必要経費を引いた金額を記入します。
マイナスの場合はマイナスのまま記入。

申告書の第二表には雑所得の詳細を記入します。
記入は面倒ですが、クラブ毎に書くことになります。複数クラブに入っているとそのクラブ分記入が必要です。基本的に会費を払っているのでそんなことないと思いますが、利益、所得、源泉額がすべて0円でも書きましょう。
①所得の種類は「雑」
②種目について、正式な種目は「競走用馬ファンドの匿名組合契約にもとづく利益分配金」です。
長すぎて書けないので、「競走(用)馬ファンド」、「匿名組合契約」、「(利益)分配金」のどれかを推奨します。
ネットで散見される「一口馬主」は俗語なので申告書のような正式な書類にはおすすめしません。というか確実に間違っているのでやめましょう。こいつなんもわかってないぞと目をつけられます。
③にはクラブから送られてきた書類に記載のクラブの住所、クラブの社名を記入してください。一口馬主として契約をしているのは、愛馬会法人(○○クラブ)になります。馬主登録名(○○レーシング)ではないので注意してください。
④収入金額はクラブから送られてきた書類の「収入金額=利益分配金」の金額をそのまま記入します。
⑤源泉徴収税額も同様にクラブから送られてきた書類の「源泉徴収額」の金額をそのまま記入します。

WEBでの申告の場合、必要経費を入力する欄がありますので、入力してください。勝手に反映してくれます。
住民税
所得税の申告が免除されているからといって、住民税の申告は免除されていません。所得が発生している場合、必ず申告するようにしましょう。
各自治体に申請のフォームがあるはずです。
また、還付があるからといって、雑所得の所得税を申告すると、
雑所得がマイナスの場合をのぞき、確実に住民税が増えます。住民税が増えるよりも、所得税の還付が多いのか確認をしましょう。
その他、申告についてたまに聞かれること
ふるさと納税の対象ですか。
所得が増えた分、ふるさと納税の限度額は増えます。
いくら増えるかは各自で計算してください。
年金とは本当に合算できるんですか。
正確には、法律上の根拠としては合算できるかは微妙。ややできない寄り。問題なく可能なのであれば、わざわざ雑収入に年金とその他を分けて記載する必要ないはず。
ただ、申告表の仕様上、強制的に合算されてしまっているというのが現状
って聞いた。
年金との損益通算はまじで大きいので、みんな退職のタイミングとかで一口馬主はじめればいいのに。
赤字が出ている場合、翌年以降に繰り越せるんですか。
これは無理。雑所得である以上、どんだけマイナスを出しても「0円」として扱われて単年でリセットされる。
法人での出資に変更するなどで、事業所得としてしまえば翌年以降に通算できるけど、法人にするメリットがある規模で一口馬主やってるやつほぼいない。
法人化をおすすめしない理由については別のnote書くかも。
申告しないと問題ありますか。
こんなん聞かれても「適切に申告してください」以外の回答できない。
ぶっちゃけ年間15~20人くらい税務調査くるけど、傾向としては、
・金額でかいのに無申告のやつ
・本業の申告で瑕疵があるやつ
・使っちゃいけないお金を一口馬主につかっていたやつ
申告したほうが得なこと多いし、なれれば簡単だからする習慣つけるべき。
ここからはおそらく一般の人や、一口馬主に馴染みのない税理士などは知らないであろう内容になります。実際に詳しい方や、過去の税務調査の内容で聞いたりした玉石混合の情報が混じっています。節税効果はかなりあるかと思いますが、申告についての責任はとれません。
読むのは勝手ですが、自分の責任で法令を遵守し、正しく申告をするようにしましょう。
ここから先は
¥ 3,300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?