神聖なものには麻
神代の祈りには欠かせない素材
良く歩く小社の鳥居に その末端が見られる 結い飾られた縄 そのもとをくぐると自然に心あらたまるのは
古今変わらぬ感動だろう
古代人の貫頭衣も麻だったと聞く
魔から身を守る御布は 楚で正直
いにしえ 神 近く暮らす人々の息づかいが
近くの神域の鈴のねとなって
聞こえてくる
鈴から垂れる縄も 元来 麻が正式
伊勢 斎宮では今も麻畑が営まれている あの一画で どれ程の神飾りが作られるのか知らないが 能率効率を言い出したら到底成り立つ仕事ではない
神 敬い奉ずる仕事… 仕事というよりごく当然な祈りの一貫のうちだろう
新嘗祭の伊勢 稲作の副産物である藁も縄となり処々の結界をあきらかにする 神に限らず 神仏習合の寺院にも縄は見られる 昔 奈良柳生の円成寺に参った時 寺域の境に歓請縄が渡されているのを見た いわゆる魔除けの装置にも見えるが 魔を真っ向から遮断するものではなく
品良く おひきとりいただきたいという仏の意思表示にも見えた
古人の魔に対するスタンスは繊細極まる… あまたある畏れにも敬意をはらって……
その円成寺には運慶作の大日如来が おはす 五重塔の御本尊は心柱一本の印象が強いが この古刹の多宝塔の大日は黒光りして当時の闇深い不穏な空気を伝える その玉眼から放たれる大日大聖の光が あをによし の平城から少し離れた池水にゆらぐ
そんないつか見た景色を心に浮かべて
はっと
又 近く 鳥居からさがる注連に
縄もどす
秋の暮色は濃く 昨日より奥行きが増した気がしてくる
日常の ほんのささいな出来事に
昔見た風情を重ね 連想する…
そういう細糸が絡み合い
博識の蔵書家や教え請う人を訪ねるきっかけになる
「字引孫引きに頼らない勉強をしなさい」と ある先生に言われた
知識より先
自分が観た印象を
自分の言葉で……
そういう人生を
歩んでいきたいと思っている