日本の化学産業の労働生産性は高い
日本の労働生産性は世界23位
2022年に書きかけていた記事なので、少し情報が古いのですが、投稿いたします。
2022年1月17日付日本経済新聞によると、「日本の労働生産性は低位に甘んじている。日本生産性本部の報告書によると、2020年の時間当たりの労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は49.5ドルと、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国のうち23位だった。21位の前年から順位を下げ、1970年以降最低となった。」とあります。
データの元になった日本生産性本部発表の図を下に示します。ルクセンブルクとアイルランドが突出して高く、以下は欧米先進国が近い数字で並んでいて、日本はイタリアやスペインと同じレベルです。
「労働生産性」とは何か?
「生産性」という言葉は頻繁に使われます。一般的な受け止め方は「今日も1日会議。だから日本の労働生産性は低いんだ」とか「うちの工場の無人化は進んでいない。ロボットを導入して労働生産性を高めねば」などといったものでしょうか。
日本生産性本部のレポートにある「労働生産性」の定義は「GDPを就業者数または総労働時間数で割ったもの」です。上の図は「OECD加盟諸国の1人当たりGDP」です。
ルクセンブルクとアイルランドが上位にいるのは理由があります。どちらも人口が少ない一方で、低い法人税率で多くの多国籍企業を呼び込んでいるからです。 ルクセンブルクは、人口60万人弱で面積が神奈川県と同程度の小国ですが、Amazonなどのデジタル企業やグローバル金融業などが居を構えており、労働生産性の数字を押し上げています。
主要先進7カ国の中で長期低落の日本
主要先進7カ国の労働生産性の変遷を下図に示します。アメリカは常に上位にあり、イギリス、ドイツ、フランスも中堅の位置をキープしているなか、日本とイタリアは長期低落が続いており、特に日本はその落ち込みぶりが激しいことがわかる。
化学産業の労働生産性は全産業でトップ
しかし産業別に労働生産性を見た時に、日本で唯一米国の平均を上回る産業があります。それは化学産業です。2015年の情報ですが、下図は米国基準で比較した産業別生産性(時間当たり)を縦軸に、付加価値額のシェアを横軸に取ったグラフです。化学産業は日本の産業の中で労働生産性がトップであり、唯一米国の生産性水準を上回っています。
このような日本の化学産業の労働生産性の高さについて、詳細を解説した資料は見つかりませんでしたが、私の考えは以下の通りです。
付加価値の高いファインケミカル分野において日本に優良企業が多い。
石油化学においても合成ゴムのS-SBRや、食品包装のPVAなどのように高付加価値品が強い。
製造の自動化・省人化が進み、労働コストを削減している。
日本が強いファインケミカルの一つに半導体分野があります。半導体そのものは台湾や韓国にトップの座を奪われましたが、半導体に使われる化学製品においては、依然として日本が高いシェアを握っています。
「現在の半導体材料は高性能化が進み、メーカーごとのオーダーメードが主流になっている。品質条件が厳しく管理にコストがかかり、少量生産では収益を上げにくい。台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子、米インテルなどの要望に「応えられたのは日本の中小メーカーだけだった」(三宝化学の捫垣社長)。日本勢は半導体そのものでは海外に敗れたが、材料では競争力を維持している。」
日本の中で化学産業が高い労働生産性を達成していることは、もっと知られてよいと思います。日本の化学産業のさらなる発展に期待します。