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技術士合格体験記

 技術士は、技術士法に基づく国家資格で、「科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格」とされています。科学技術に関する高度な知識、応用能力および高い技術者倫理を備えていることを国家によって認定されており、登録した技術部門の技術業務を行うことができます。私は2023年4月に化学部門で技術士資格を取りました。技術士試験をこれから受ける方の参考になればと考えまして、合格に向けた私の体験記をお伝えいたします。

技術士を知るきっかけ

 「技術士」という資格を最初に知ったのは、元日本曹達の西川唯一氏の著書「化学産業「超」入門」(1995年)でした。化学産業の実務一般をバランスよく取り上げた本で、化学企業の研究所にいたときに非常に参考になりました。この著者の略歴に「技術士」という肩書があり、初めてこの資格を知りました。この本は他に類のない非常に優れた本で、2006年に改題された「化学産業「脱」入門」を最後に改訂が無いことが惜しまれます。

 その後、インターネットが仕事のツールとなり、業務に関連した検索を行うと、いろいろな技術士の方の個人ホームページが見つかるようになりました。なかでも沢木至氏のホームページは非常に参考になることが多く、技術コンサルタントとして独立する道もあることを学びました。

技術士受験のきっかけ

 2021年に当時の勤務先が別の企業に買収され、自分の担当していた業務に関する会社の方針が大きく変化したことから、転職活動を開始しました。この機会に独立も視野に技術士の受験を考えるようになり、21年3月に技術士受験を決意しました。7月に受託製造企業に転職しましたが、技術士試験の勉強を継続しました。

一次試験(2021年)

一次試験の勉強

 新技術開発センターの教材を中心に勉強しました。購入した教材は「技術士第一次試験専門科目解答解説集ー化学部門ー」の平成27年度、28年度、29年度、30年度など。また8月4日の「2021年度技術士第一次試験合格のポイント-受験対策のポイントと対策講座ガイダンス-」をオンラインで受講し、9月25日の「技術士第一次試験直前模擬試験」を受けました。通信教育は10月1日から「メール速習!技術士第一次試験予想問題トレーニング」(基礎、適性-1〜5弾、化学1〜4弾)を受講し、10月の1か月で終了、概ね合格ラインを突破しました。模擬試験や予想問題トレーニングは実際に受験に役立ち、非常に効果があると思います。技術の現場を離れて20年、ずっと営業職に従事してきたので、専門の化学は、自分が得意な有機化学以外はほぼすべて新たに勉強しなおす必要がありました。

過去問の勉強

 過去問の勉強は非常に重要です。技術士会のホームページから過去問をダウンロードすることができます。

 過去問の解答と解説は新技術開発センターの教材でも勉強できますが、世の中にはホームページで独自の解説を掲載している方もいます。違った角度からの解説はとても参考になります。

前野さんの「技術士(化学)合格応援☆MAENOSEISEIのブログ」

技術士試験ナビ

過去問の解析

 私は過去の一次試験の出題傾向を解析し、技術史のように繰り返し出題される重要問題は落とさないように勉強しました。下の図は毎年の問題を分野別に色分けしたものです。
 基礎科目は一般的な知識を整えれば解答に困らない問題(地球環境、技術史、製造物責任、情報セキュリティーなど)と、まったく歯が立たない別分野(アローダイアグラム、最適値計算など)があり、後者は捨てました。下図の白いところは勉強しなかったところです(笑)。

基礎科目の出題傾向


 適性科目も繰り返し出題される問題が多いので、過去問をしっかり勉強すれば大丈夫です。毎年の1問目は技術士法第4章についてです。知的財産権も重要です。

適性科目の出題傾向

適性科目の出題傾向

 専門科目で必ず出るのが石油、燃料、石炭関係(問題の番号まで一緒です)。石炭などは技術士試験がなければ全く勉強しなかった内容です。石炭は現在、世界のエネルギー構想からは排除される方向にありますが、日本は排出CO2を減らす環境に適応した石炭技術では世界の先頭を走っています。中国など石炭利用が続く場所での活用が期待されます。

化学一次専門試験の出題傾向

 また、ワードで自分なりに過去問の解答解説集を作ってみました。作ったワードファイルの数は基礎23、専門54、適正29の計106になります。手を動かしながらの勉強が頭に入りやすいと思いますね。

自分で作成した解答解説集

noteで連載していた「SDGs

一次試験本番

一次試験は2021年11月28日(日)、機械振興会館で行われました。当日留意したことは健康管理と、温度調節しやすいリラックスできる服装です。解答中、靴は脱げるようスリッパも持っていきました。2022年2月28日に合格発表。下記の成績で合格しました。準備をしっかりやりさえすれば一次試験の合格は見えてきます。
成績(配点)
基礎科目 11点(15点)
適正科目 10点(15点)
専門科目 34点(50点)

二次試験(2022年)

二次試験の勉強

 2022年から二次試験の勉強を開始しました。二次試験は論文を手書きするという、いまどき珍しい試験です。3月には新技術開発センターの「技術士第二次試験合格対策オンライン講義配信プレミアム講座」に申し込み、動画配信1回と論文添削6回を受講しました。赤ペンで丁寧に添削いただき、非常に役立ちました。
 4月11日に第二次試験の受験申込書を送付しました。「業務内容の詳細」の記述が口頭試験で試問されるという話を聞き、自分が苦労した業務内容を中心に記述しました。
 購入した教材は化学部門解答事例集(令和元年度、2年度、3年度)、
令和2年度技術士第二次試験 筆記試験合格者による「成績A」復元回答集、
[新版]技術士第二次試験のための新しい合格論文の構成と表現法(高遠健司)などで、これらは論文作成のテクニック面、特に論旨の構成ではたいへん参考になりました。

過去問の解析

 一次試験と同じように二次試験も過去問の解析を行い、ネットで入手した二次試験の答案用紙のワードファイルで、論文執筆の訓練を段階的に実施しました。まずワードで論旨をまとめて論文にする練習を約20本を行い、この論文を手書きで写します。論旨を構成する訓練と、手書きの訓練を分けて行うという考え方でした。最終的に手書きのみで論文を書く練習をし、太字は実際に自分で論文を作成した項目です。出題テーマの予想として「ものづくり白書」などの政府白書をチェックし、またノーベル化学賞などにも注意しました。

二次試験の過去問解析
ワードによる論文作成

Youtubeの活用

一次試験、二次試験を通じて活用したのがYoutubeです。今は技術士試験を対象にした様々なYoutubeチャンネルがあります。私がよく見たチャンネルをご紹介します。

技術士YouTube対談はお二人の穏やかながら的を射た話が魅力です。

技術士塾の小松英雄さんは、毎月の勉強法を効率的に教えてくれます。

4部門技術士ぺんたの「技術士合格セオリー」は陥りがちな落とし穴をわかりやすく解説してくれます。

専門科目の勉強に利用したのがもろぴー有機化学・研究ちゃんねる。有機反応機構の学びなおしにとても役に立ちました。動画の中で反応機構をすらすらと手書きで書いていくもろぴーさんの鮮やかな手さばきも魅力。

必ず出題される石油関係の勉強はRIMINTELLIGENCEを活用しました。

そして半導体、液晶関係の勉強に利用したのがものづくり太郎チャンネル。このチャンネルは今でも業務に役に立っています。

 noteも活用しました。そのころnoteで連載していた「化学産業とSDGs」は、実は技術士試験の対策でもありました。SDGsも技術士試験に頻出するキーワードです。


二次試験本番

 2022年7月18日(月・祝)に東京大学駒場キャンパスで二次試験を受験しました。人によってはシャーペンの太さにもこだわっているようで、私もいろいろな太さのシャーペンをそろえたりしましたが、結局0.5mmのシャーペンを数本と消しゴム、それから小さな置き時計(スマホは置けない)を持っていきました。
 2023年11月1日に筆記試験の合格発表。成績は下記です。
必須科目 (I):A(I-2:カーボンニュートラル)
選択科目 (II):B(II-1-3:水素、II-2-2:委託または受託製造)
選択科目 (III):A(III-2:安定生産)
 選択科目(II)で「委託又は受託製造」という課題が出ました。これは自分の業務と完全に一致していて、すらすらと書き進めて内容にも自信があったのですが、結果は意外にもB評価。振り返る問題点は「多面的に課題をとらえる論文」というよりも、項目を羅列した「引継ぎ資料」のようになってしまったことです。技術士試験に必要な「論旨の構成」の重要さを再認識しました。

口頭試験(2023年)

口頭試験の勉強

教材はこの本になります。書籍の情報を参考に口頭試験で話す内容を原稿化して、100問ほどの想定問答集を作成しました。

 想定問答集をもとに実際に喋る練習もしました。それに役立ったのが「電TARO's Bar」さんのチャンネルです。画面を相手に実際に所定の時間で喋る練習ができます。実際の口頭試験では「何分で説明してください」といわれます。1分、2分、3分の場合など、同じ内容もそれぞれの時間で行う説明を体にいれることができます。

口頭試験本番

 2023年1月8日(日)にTKP市ヶ谷で口頭試験が行われました。受験所要時間は20 分で、試験官は3 人でした。受験申込書に書いた内容に関して、コミュニケーション・マネジメントを問われました。また品質不正など、最近の業界の事案も話題になりました。技術者はえてして長くしゃべりがちですが、本社にいたときに受けた、説明を簡潔にする営業研修の経験が活きました。

 2023年3月10日に口頭試験合格発表。成績は合格。各項目ともよい評価をいただきました。
コミュニケーション、リーダーシップ:〇
評価、マネジメント:〇
技術者倫理:〇
継続研さん:〇

まとめ

 こうして私は化学部門の技術士になりました(登録年月日2023年4月27日)。技術士試験のための勉強としては、新技術開発センターの講座・教材の利用、過去問の徹底的な解析と演習、インターネットとYoutubeの活用が柱になりました。
 建設部門以外では、技術士資格が業務に必須になる場面は少なく、資格としてはそれほど知られておりませんが、自分なりの意義としては、化学技術を幅広く勉強することができたこと、業務に役立つ自分の専門分野の学びなおしにつながったことを挙げたいと思います。
 以上、私の技術士合格体験記をお伝えしました。これから技術士を目指す人の参考になれば幸いです。

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