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『落第はしたけれど』のシベリア
東京の神保町にあった「アムールエーパン」というパン屋さんの前をよく通っていました。
そこで「シベリア」を売っていたのがずっと気になっていて、買ってみたことがありました。
『風立ちぬ』のシベリア
今ではシベリアと言えば宮崎駿監督『風立ちぬ』に出てきたことで有名ですが、以前は、シベリアが出てくる映画と言えば、小津安二郎監督『落第はしたけれど』でした。
小夜子(田中絹代)が働くパン屋で、落第が決定してしまった高橋(斉藤達雄)が悲しさをごまかすようにシベリアを3個食べます。
シベリアはフタ付きのガラスの菓子器に入っていて美味しそうです。
そして、横にある瓶の牛乳も美味しそうです。
私が買ったシベリアよりも真ん中の餡子が分厚いです。
岡持ちにサンドイッチ
この映画は他にも気になる食べ物が出てきます。
学生たちが田中絹代に窓から影絵で「パン」と合図を送り、絹代がオカモチにパンとコーヒーを入れて学生たちに届ける有名なシーンがあります。
見ているとただのパンではなく、半分に切ったものを重ねているようです。『小津安二郎全集』(新書館)で脚本をチェックしてみると、「サンドイッチ」と書いてありました。
1930年のサンドイッチってどんなだったのでしょうか。
映画を見ているだけでは、何を挟んでいるのかもわからないです。
どうやらパンの耳は切ってないようで、現在のサンドイッチよりパンが分厚いように見えます。
ほかには、田中絹代が高橋達雄に渡す角砂糖が気になります。
角砂糖も貴重で嬉しい甘味だったのでしょう。
真っ白で四角い角砂糖は清潔で可憐で、この映画の田中絹代のようです。
斉藤達雄は眺めたり口に入れたり、重ねてみたり、角砂糖と戯れます。
そして最後、下宿を訪ねてきた田中絹代と話をするため、うるさい坊や(青木富夫)に角砂糖を渡して追い払い、ずっと話せなかった落第の事実を話すのでした。
神保町のアムールエーパン
神保町の神田錦町3丁目にあったアムールエーパン。シベリア。
2012年に閉店。