GRAPEVINEを語り、『another sky』を聴く(再現ライブ直前に)
GRAPEVINE(グレイプバイン)が、2002年に発表した『another sky』の再現ライブをおこなう。自身最大のヒット作『Lifetime』の再現ライブをやると聞いたときは「なるほど」と頷いたけれど、まさか次が『another sky』とは。スピッツでいえば『名前を付けてやる』『ハチミツ』『三日月ロック』でなく『隼』をやるような。Talking Headsなら『Little Creature』、ストーンズなら『Goats Head Soup』のような、「そ、そこ!?」感。確かに20周年ではあるものの、かなり意外だ。
でも『another sky』は間違いなくこのバンドの転換作である。メンバー的な変化はもちろんのこと、録音的にも音楽的にも、過去のルーツロックから進行形のオルタナに視線を移し始めた、現在に至るまでのGRAPEVINEへの分岐を作った一作。それでいて、重要作かと言われるとファン的には割と存在感も作風も軽い方な気もする……いやでも「アナザーワールド」→「ふたり」という至上のエンディングも持つしなぁ……と、まぁいつもの、バインらしい、"こう"と言い表しづらい立ち位置のアルバムだ。
今回は、そんな一枚の再現ライブ「grapevine in a lifetime presents "another sky"」を直前にひかえての、バインについて書きだすぞ~って軽く雑多な日記記事。チケットがまだあるかは分からないが皆いこう。
GRAPEVINEとの出会い?
GRAPEVINEもファン層が読みづらいバンドだ。メジャーデビューした90年代後半から古参って方も多いだろうし、なんとはなしに途中でファンになった方、近年のいつのまにかの評価上昇にともない新しくファンになったって方も中々いるんじゃないだろうか。
特に近年の、再評価というより「なんか(ずっと)いた(らしい)」みたいなプロップスの高まりは注目に値する感じがある。いぜん年間ベスト記事でもふれたように、「#GRAPEVINE総選挙2020」ってタグも盛況で、最新作『新たな果実』も今までになく様々な層の年間ベスト記事で見かけた。この、なにも特別な出来事はなかったのにいつの間にやらジワジワ評価が高まってきてる感じ、実にバインっぽくてファンとしてはフフフ……と後方彼氏面してしまう(なんの話だ)。
自分は先の中だと「なんとはなしに途中でファンになった」が当てはまる。出会いはおそらく2009年とかくらいで、当時高校生にてyoutubeで偶然ヒットした「スロウ」「光について」がファーストインパクトだった。UKロックの抒情とJ-POPのダイナミクスが融合し、しかし安易なセンチメンタルや大文字のエモではなく、言いがたい感情の渦に飲み込まれるような楽曲とスケール。圧倒された。なんとなく当時はUKロックという意味でthe brilliant greenも脳裏に浮かんだ。そこで『Lifetime』を中古格安で手にしたものの、このアルバムではそこまで好きにならなかった(いまは好き)。
大ファンとなったのは、その後ぐうぜんレンタル落ちで手にした『From a smalltown』が決め手。名盤。傑作。そのまま『Sing』を聴きホンモノだッと確信にいたった。実際うえのファン投票でもこの2作が最上位なのは非常に「理解(わか)り」がある。そしてリアルタイムでふれた新譜『愚かな者の語ること』で畏敬の念をいたくに至ると。これが自分のルートだった。
GRAPEVINEのディスコグラフィを分けるなら
個人的に、バインのディスコグラフィは3つに分けて考えられるな~と思っている。
「中期」の作品でオッってなって、「後期」の作品で感嘆する、そんなファンルートだった訳だ。自分の音楽リスナー耳としても、J-POP(ROCK)から始まって、Wilcoやポストロックにふれていったので、バインの変遷は本当にシックリきた。同じひとは結構いるんじゃないかな?そして「初期」もどんどん沁みてくると。『Circulat∞r』とかずっと苦手だったのにな~良い曲多いな、本当に作曲、コード進行センスが捻じ曲がっててスゲェなと今では……。
そして話は戻り、この「中期」を拓く一作となったのが『another sky』。
『another sky』の話
2000年の更新:録音(サウンド)の変化
メンバーの変化も当然語られるべきだが、ここではまず音。一番取りあげたいのはサウンドです。90年代らしい少し雑味の混じった音から、進行形の「オルタナ」(00年代)への転換。ここで一気に録音がクリアになった。
この頃は、アナログからデジタル、エレクトロニカやポストロックの躍進から連なるDAW・ラップトップと生音の融合が盛んで。それ自体は永遠のテーマだけども、2000年前半は「フォークトロニカ」なんて言葉が生まれたように、より一層そうした動きが強まっていた。ロックバンド側では「オルタナ」の語が「グランジ」の音感覚を完全に葬ったことが挙げられる。より鮮明で明瞭になった。「音感覚」の世界的な変化。代表として挙げられるのがCorneliusだろう。『FANTASMA』('97)から、リミックスワークをへての『Point』('01)という超転換は、そうした変化を劇的に物語っている。実際、多くのクラシック・アルバムもこの頃に前後し積極的にリマスター再発するようになった。
こうした音の変化は、2000年前半ほかの多くの邦ロックバンドにも波及していった。Mr. Childrenは『DICOVERY』('99)から『Q』('00)、『IT'S A WONDERFUL WORLD』('02)。BUCK-TICKは『SEXY STREAM LINER』('97)から『ONE LIFE,ONE DEATH』('00)。すこし遅れてスピッツは『ハヤブサ』('00)から『三日月ロック』('02)……。いっぽうで、日本では音楽産業のバブルが過ぎ去り市場規模が一気に縮小する中、今では伝説となったような多くのバンドが解散・休止した時期でもある。
時代が動いていた。
GRAPEVINEはその中を、飄々と、でも確固たる足取りで進み続けていた。その軌跡が『another sky』という訳だ。
アルバム・楽曲について
なんとなく全体として「夏」のイメージがある。「マリーのサウンドトラック」は梅雨あたりで、「BLUE BACK」くらいから夏にはいって、「Sundown and hightide」から秋の季節へ進んでいくような、そんな構成を感じる。
聴きどころは多い。何げなくも「マダカレークッテナイデショー」のサビは歌詞家田中節の真骨頂だ。「バカな娘だった なかなかだった 朝方だった」と歌詞にあるが、「bakana ko da/tta, nakanaka/da/tta, asaga/ta/da/tta」と、ア行・促音が面白いくらい気持ちよく日本語のリズムで歌いまわされ、たか思えば次は「I'm funky モーパッサン. It's funky モーパッサン」と一気に英語のリズム感覚でいなされる。日本語・英語の両刀使い、抒情兼ファンキーリズム歌詞家の田中、後者の面目躍如。
「マダカレークッテナイデショー」「TInydogs」「Let Me In」あたりには『Circulator』以前の感覚があるが、その他の楽曲はかなり新鮮な印象を与える。なんというか、ここでバインの楽曲には色彩が宿ったように感じる。キーボードの影響が大きいんだろう。聴き心地は『From a smalltown』に近いと思う。
シェイカーが多用されているのも何気なポイントで、始まりの「マリー」から終わりの「アナザーワールド」「ふたり」への共通項、リズム・感情図の揺らぎを見事に映している。
さて、自分が特に好きなのは「マリーのサウンドトラック」と後半エンディング4曲「ナツノヒカリ」「Sundown and hightide」「アナザーワールド」「ふたり」で…………と書きだしていたら、もう3000文字弱になってしまっていた。軽い日記とは。今回はいったんこの辺で、再現ライブをみたらまた追記するかも、です。
『another sky』はバインの旨味が詰まったアルバムだなと改めて。
ライブが楽しみ。ではまた。