歌集『日暈』（小林幸子氏）を読む。ー光る発見ー
帯の背の部分に「第九歌集」とある。
歌歴の長さもあり、内容と作風に安定感を感じた。
五首選
数千の鴉に追はれ歩きたり吉備古墳の丘の異物かわれら
古墳に行く連作の一部。
現地の鴉の立場から見たら、観光客も異物に見えているかもしれない。
そういった「視点を変えた発見」がある。
天空を競歩するひとゆくごとくしきりに雲のちぎれとぶ昼
雲などのよく使われる題材ほど、作者の手腕と個性が試されると思う。
競歩に目を付けた点が工夫で、歩くでもなく走るでもないスピードだという気付きがある。
なにをするのか、なにもしないか 海側に非破壊研究所あり
「非破壊検査」とは物を破壊せずに内部などを調べる技術らしい。
その職業をしていない人から見ると、不思議な語感である。
そんな発見を見逃さずに一首などの作品に出来る事のは創作の楽しみ。
人を避けるための日傘についてくるもんしろてふよ入っておいで
ソーシャルディスタンスの時期の連作の一首。
人と距離をとる為に日傘をさす人も多かったそうだ。
モンシロチョウは人間界のソーシャルディスタンスは知らない。
日傘に入ってきてもちょっぴり楽しい。虫が大丈夫な人なら。
ゆふぞらに鳥のゆくへを追ひゆけばいま生まれたるやうな満月
鳥も月もよく使われる歌材で、使うなら個性を出したいところ。
上句と中句で視点を上に誘導した後からの、「いま生まれたるような満月」の喩が個性的で良い。
リンク
日暈 https://amzn.asia/d/52EBAkX
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