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水とディストピア『サトゥルヌス菓子店』を読む。
安井高志氏の歌集『サトゥルヌス菓子店』。
この歌集は一筋縄ではいかない。
難解だが透明感がある。
イメージ詠で詩寄りの世界観の短歌も多い。
「水に沈んだ町」という連作も収録されており、
本の装丁の水色を思わせる。
好きで付箋を付けた短歌から、
水に関するものを一部紹介する。
※海、雨など水を連想させる言葉がある短歌。
※収録順。
終電はいってしまったかみそりはお風呂の水のなかでねむる
いくつかの名前を忘れる朝焼けに 海をただよう一冊の本
あの鳥もこおりが溶けていくようにいつかは水に変わってしまう
珈琲のなかでくずれて溶けていく角砂糖 雨の日はひとりだ
かぎりなく透きとおる水 目を閉じて ねむりがすぐに満ちてくるから
海底に沈んだ図書館たくさんの栞がわりの白い鳥たち
冬の夜にペットボトルの水をのむ くらくてつめたい透明ってやつ
川の中の石を思うとしんとした音楽が耳の中にみちていく
あまいあまいケーキを焼いてあげようきれいな海にきみがなるまで
小説を雨に溶かそう 言葉だけたべるプランクトンのいる海
水槽のせかい手紙の宇宙船つらいのですよ聴こえてますか
ディストピアのような危うさと、水のような透明感が魅力で、
美しいだけではなく不穏さや怖さもある。
この作者にしか作ることが出来ない作中世界だと思う。
最後に歌集から一首。
ぼくはいま言葉を残す ああ空に ひかりが みちて ここにいるよ 雪
サトゥルヌス菓子店 (COALSCCK銀河短歌叢書) https://amzn.asia/d/hOA1vzI
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