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お笑い初期衝動
92.木佐采配は独特だった
事務所ライブにどの芸人を出すかは、基本的に、養成所担当社員の木佐さん(仮名、推定40代、男性)がジャッジしていた。
この木佐さんの判断の仕方というのが、大変に独特であった。
ある時、こんなことがあった。
僕より3ヶ月後輩の芸人が、ネタ見せで、すごく面白いコントをやったとき。
木佐さんは、こう言った。
「今すぐNHKのコンクール出してもいいぐらいの出来やなぁ。」
その後輩芸人は、まだ養成所に入ったばかり。
そんな芸人が「今すぐNHKのコンクールに出してもいい」と言われるなんて、これ以上ないぐらいの褒め言葉である。
しかし。
木佐さんはこれほどまでに絶賛しておきながら、その時、彼らを事務所ライブに出演させることはしなかった。
え、なんで??って感じですよね。
NHKのコンクールには出してもいいのに、事務所ライブは出れないの?というね。
ここが木佐采配の独特なところで。
僕からみて木佐さんのダメ出しは、いつもズバリ的を得ているように感じていた。
なので、「全く見る目のない人が、また変なこと言い出した」というようなことではなく。
あくまで僕の想像だが、以下のような考え方だったのではないかと思う。
木佐さんから見て、事務所ライブに出してもいいレベルに達していても、まだ今後どんどん面白いネタを作っていけそうな、余力を感じる芸人だったときは、事務所ライブにすぐには出さない。
逆に、出さないことで、更に頑張る姿、更に面白いネタを持ってくるところを見てみたい。
こいつらなら、すぐに事務所ライブに出さなくても、きっとまた面白いネタを作るだろう。。
という、そんな考えがあったのではなかろうか。
だから、逆に。余力を感じない、いっぱいいっぱいに見える芸人ならば、ちょっと面白ければ、事務所ライブにすぐ出すことも度々あった。
いっぱいいっぱいの芸人は、出してあげなかったら、凹んで事務所を(または芸人を)やめてしまうことが多いからだろう。
後に成長して急激におもしろくなるタイプの芸人もいるのに、その前にやめてしまったらもったいない。
そういった、いろんな経験則からの判断だったのだろうと思う。
そして、僕達ジル(田中三球と僕のコンビ)は。
木佐さんにどう判断されたのかというと…。
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