泣くことと眠ること -2020年4月19日
眠る時は大抵泣いている。私は寝る前に色々思い出して涙が出るタイプの人間で、夜の感傷と相まって止まらなくなる事もよくある。
しかし最近、別に悲しいことがなくても涙が出るようになった。最初はスマートフォンなどの光を見過ぎで目が疲れているのだ、と思っていたけれど、実際はどうなのだろう。今でも分からない。
「目は口ほどに物を言う」という言葉にあるように、目には様々な感情が顕著に現れる。代表的なもので涙があるが、それ以外にも驚きや喜びを代弁するようなパーツである。
一度、理科の準備室で、豚の目玉を解剖したことがある。
生物の先生は、「目玉が余ったから」という理由で私を解剖の授業に誘った。実験室では他の学年の生徒が真剣に目玉を解剖し、レポートを記入していた。私は先生の気まぐれで、準備室に案内された。
トレーには目玉がふたつ置かれていた。
テーブルにはピンセットと小さなハサミがあり、手元にあった資料を見ながら丁寧に作業を進めた。
目玉の内側は真っ黒だった。あんな漆黒を見たことがない。宇宙のような黒だった。
水晶体は、ぷにぷにしていて透明で、とても気に入った。持ち帰っていいか、と聞くと、怪訝な顔をされた。
私はガチャガチャのカプセルに水晶体を入れ、
自宅の冷蔵庫に保管しておいたのだ。小学生の頃と何も変わらない。珍しいものは、とっておいて眺めるのが好きだ。
思考は再び、現在に戻る。
私は私の目玉の中の水晶体のことに思いを馳せる。確認はできないけれど、あるんだろう。
自分がとっておいて眺めたいと思えるような美しい物を、持っている。その事実は、なんとも優しい。
寝る前には沢山のことを思い出す。結局眠れないこともある。
涙は何故出るのだろう。ただ、泣く事も眠る事も、今は静かに受け止めている。
夢の中では、光ることと喋ることは同じこと。お会いしましょう 穂村弘
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