個人的レポートの作り方(2024年8月版)
(前書き)(読み飛ばしたい方は目次までスクロール)
レポートや論文は、文章構成としては非常につまらないです。そして非常につまらないからレポートや論文が成り立っていると私は思います。レポートや論文には明確な構成の「型」があり、だからこそ読む時や書く時に安心して内容に全振りできるようになります。この文章は私がこれまでのレポートの作成や論文を読む時に使う「型」を自分なりにまとめ、一つの資料として残しておくものです。
一応この文章を書くきっかけを話しておきます。私は某国立大学で美学や美術史を学ぶ大学生です。まだ学部の一年ですが、前の大学の経験もありそれなりにレポートを書いてきました(自慢ですがほとんどのレポートで一番上の成績を取れました)。
ある日他学科の同級生と話していると、その方が「レポートの書き方を教わってない」と言いました。疑問になり調べてみると多くの大学が公開している「レポートの書き方」のサイトを私がいる大学が作っておらず、レポートの書き方を教える授業も一部の学科しかやっていないらしいです。確かに規模が小さい大学とはいえ、一つのそれなりに有名な国立大学のそのような現状には思うところがあり、拙いかもしれませんが書き残しておくことにしました。自由にお使いください。
1、はじめに
本稿ではレポートに用いる「型」、つまり構成の形式的な事項を説明しつつ諸注意や参考になるサイトや文献を挙げていきます。またこれまで様々な大学が公開している「レポートの書き方」に加え、文献の探し方や個人的な経験を交えながら項目別に話を展開していきます。この文章自体は厳密にレポートの「型」を守ったものではないですが、レポートの作成過程をなるべく包括的に述べていきます。
2、主張と下書き
まずレポートを書く前に下書きをしますが、私はこの時点で主張と何を書くかを最後まで細かく決めています。過去に私は面倒になり下書きを省こうとしたことが何回がありますが、毎回主張の筋が通っていなかったり文字数が足りなかったりして失敗しました。1つのレポートの中で主張がずれると非常に読みづらいです。むしろレポートでは下書きを細かく決めた方が完成まで早いです。
下書きの方法はそれぞれ異なると思いますが、私はパソコンのメモ帳を用いています。以下は私が以前レポートのために用いた一例です(画像1)。
パソコンのメモ帳を用いる理由としてはスマホなどの他のデバイスで見れる手軽さだけでなく、全体を見渡せて一瞬でコピーやペーストができることにあります。最初から細かく決めるよりも、主張を支える論理をどの順番で述べるか、また何を述べるべきかは始めは大きく変えた方がいいです。
3、構成と展開
主張が決まったら構成と展開を決めていきます。大雑把に言えば章立てです。
私は「はじめに」で始め、最後に「おわりに」で締めると決めています。「はじめに」では全体の概要、立証する主張、大まかな前提を簡潔にまとめます。また「おわりに」では主張と論理を大まかに振り返り、何を明らかにしたのかと今後予想される展開を述べます。例えば前述したメモは次のようなレポートになりました(画像2、3)。
この「はじめに」は第一節の前に概略として示されていたり、単に「1」となっていたり、「序論」となっていたりします。また「おわりに」も特に結論だけに節を設けていなかったり、「結語」になっていたり、「結論」になっていたりと細かく変わっています。この「はじめに」と「おわりに」で挟むのもいささか古いかもしれません。しかしこの2つで挟むのと同じような展開はほとんどの論文にあります。そのためレポートでもこの展開を用いるのが無難でしょう。
また論理の展開ですが、前提→主張→立証は変わらないです(高校の現代文の読解と同じです)。論文はもっと複雑ですが、この展開が大なり小なり何回も繰り返されていると分かると内容の理解に全振りできます。構造としてはマトリョーシカに近いです。
4、参考文献の書き方
参考文献は必ず明記する必要があります。また引用方法を間違えたり、形式を整えずに勝手に引用していると剽窃とみなされます。この「剽窃」のペナルティは非常に重く、授業であれば落単が確定し、学会であれば最悪追放されます。専門書の後ろにある「参考文献一覧」もこれを防ぐためです。
以下に参考文献の引用方が簡潔にまとまっているサイトを載せておきます。早稲田大学図書館が公開しているサイトで、内容もしっかりしておりおすすめです。
またこのサイトの引用元である科学技術振興機構(JST)の資料も見てみるといいかもしれません。コラムが良いです(URLになります)。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12003258/jipsti.jst.go.jp/sist/pdf/SIST_booklet2011.pdf
また参考文献の書き方の一例を載せておきます。前述のレポートとは別のレポートです(画像4)
実は私はこの参考文献を書く時は割と大変でした。全体で7個の参考文献がありますが、パターンが多くいちいち先ほどのサイトと照らし合わせていました。大まかに言えば1は外国語図書、2は図書中(美術手帖)の論文、3と9はWebサイト、4は翻訳書なのはまだいいです。問題は7と10で、7はサイト内にあるpdfの文書、10はインタビュー動画からの引用です。特に10はTateというイギリスの美術館が公式Youtubeチャンネルに載せているものであり、引用したいもののどうすればいいのか分かりませんでした(もし動画からの引用方法を明記している大学の文書があれば教えてください)。
困った私は参考文献があるそもそもの定義から、引用元を参照できることを優先して「インタビューより引用」と加えました。正直これでも不安であるため、動画のくだりは法律家に聞いて編集する可能性があると付け加えておきます。
5、引用の載せ方
参考文献の書き方にも形式があるように、引用の載せ方にも形式があります。以下に載せるのは近畿大学図書館が公開しているサイトです(URLになります)。
https://www.clib.kindai.ac.jp/search/pdf/guide_quote.pdf
引用の方法が実例付きでまとまっておりおすすめです。ここにもあるように、引用と出典の明記は必要です。
ここではさらに外国語文献について私なりに加えておきます。外国語文献をそのままあたるのは大変なので、まず訳書を探します。しかし残念ながら訳書が十分ではなかったり、日本語訳の本がない時があります。また訳書の引用は孫引き(引用の引用)にあたり、危ないこともままあります(私はまだ孫引きを指摘されたことはありませんが……)。そのような時は原典の読解と引用部分の翻訳に取り掛かります。
翻訳もまぁまぁ大変です。当然ですが好き勝手な訳語を出していいわけがなく、訳語の先例や単語の用例などをあたります(そのためかデスクトップには英英、英独、英仏の3つのネット辞書のサイトを置いてあります。本当は使いたくないです)。例えば画像4の1番目の”Art and Objecthood"という本には”literarist"という単語が出てきます。そのまま訳せば"literal+ist"より「文字通りの人」となります。しかし「見たままの作品を作る」という文脈や「リテラリスト」と訳された先例があるとなると「文字通り」と訳すのは優しくないです。そのため私が使う時は「リテラリスト(literarist)」としたり、注釈や説明をつけたりします。ここまでいくと、いかに神経質に読み手への優しさを考えるかの勝負だと思います。
6、参考文献の探し方
参考文献を引用するには、当たり前ですが参考文献を用意する必要があります。その探し方をそれぞれ説明していきます。
・図書(単行本、雑誌、新聞など)
基本は図書館に行って探します。使える文献がちょうど見つかることは少ないので、何冊もパラパラ読みながらメモしていきます。ここで意外な記述が見つかると私はドキッとし、自分の主張が潰されないかや、逆に主張を変えると面白くなりそうだなとか色々想像しながら読み進めています。
以下は資料が、主にどの大学図書館にあるのかを調べられるCiNii Booksのサイトです。
・論文検索データベース
1、Cinii Research(日本語文献)
日本の論文が検索できます。中身はあまり読めないですが、論文がどこにあるかや論文の正式な名前を調べられるなど有用です。
2、J-STAGE(日本語文献)
日本の学会誌にある論文や記事を膨大な数収録しています。無料で登録でき、しかも中身を読めるものも多いため非常におすすめです。
3、EBSCO(主に外国語文献)
アメリカに拠点を置く巨大な学術データベースです。これを使うのは余程日本語の文献が見つからない時ですが、多くの大学が登録してあり、中身を読めるものもあるので登録しておいて損はないです。
・公式のWebサイト
頑張って探します。インターネットは便利です。
・避けた方がいいもの
1、Wikipedia
避けた方がいいと思います。誰でも自由に編集できるという特性上、事実において偏りや誤りがある場合があります。ただ決して無駄という訳でもなく、大まかな概要を知りたい場合や、記事内にある文献にあたると有効に使える時もあります。
2、Web記事、ブログ
ウィキペディアと同じです。必然性がなければ入り口に用いるのがいいと思います。
7、注の付け方
本文ではそれほど重要ではないですが、付け加えないと論理に不備があると思った時は注(note)をつけます。以下に滋賀大学経済学部が公開しているサイトを載せます。
この注をどれほどつけるかは論文やレポートごとに異なります。先日私が手に取った翻訳書では1つの章に注が10ページも細かくつけてありました。正直これは多いと感じましたが、作者がどのようにその考えに至ったのかが分かりやすいため無いよりはずっと良かったです。
8、反証可能性
論理的な文章の作成そのものを支える論理として、イギリスの哲学者カール・ポパー(1902-1994)による「反証可能性(falsifiablity)」があります。以下は”Oxford Reference”が説明しているサイトです(英語になります)。
反証可能性とは科学において「間違いが示された時に『本当』と分かる」というものです。付け加えると「間違いとされる可能性を残すべきだ」ということをポパーは主張しています。
これは主張がその文章自体の中で同語反復を起こし、結局何も述べていないという残念な結末を防ぐものです。私は昨年政治学の授業でこれを聞き大きな衝撃を受けました。私は割とこの反証可能性をレポート作成の中で大事にしており、「いかにして反証されうるか(もしくはされないか)」ということを作成中や推敲時に気をつけています。
9、課題と締め方
最終段落まで辿り着くと、最後をどうしようか考える時があります。私はこの時、どのように別の事項と繋げられうるかを考えます。レポートも連綿と続く研究の一節だと思いますので、自己完結せずに次の書き手のことも頭に入れておきます。
しかし大学のレポートでできることには限界があります。新しいことを探せと言われても必ずしも見つけられるものではなく、数千字の幅で網羅できるわけでもありません。課題や期日が重なると十分に労力をかけられず、折角書いても先行研究と丸かぶりすることもあります。こういう時は悲しいですが、正直に課題としてまとめておきます。
また私は書いている途中に、よく別のことと結びつけられそうだなと妄想しています(意外とこういう時が一番楽しいです)。これも最終段落に簡潔に入れておきます。
10、一日置いてみる
レポートが出来上がると満足します。そして一通り眺めて満足した上で一日置いてみます。
もちろん締め切りが迫っていればすぐに提出することもありますが、私は一日置いて翌朝に出すことが多いです。理由としては1回目に書いた文章が上手くいっている自信がないからです。論理がずれていたり単語の間違いがあったり誤植があったりetc…….が起き抜けに見つかって青ざめますが、繰り返すとクオリティは上がっていきます。
11、推敲
余裕があれば推敲します。私の場合、用いた概念にずれがないかを確かめます。文章を書き進めていくうちにある概念が、わずかながら別の使われ方になっていることがあります。その場合は文章に統一感がなくなるため手直しします。もちろん繰り返すとクオリティはどんどん上がっていきますし、文章を客観的に見直せるため無駄が減っていきます。
12、参考になる文章
以下に「型」の参考になる文章があるサイトを載せておきます。
・金沢大学「レポート作成の手引き」
金沢大学が公開しているレポート作成のガイドです。このガイド自体がレポートの形式でまとめられているため、参照もしやすく良い文章です。(以下URLになります)
http://www.adm.kanazawa-u.ac.jp/ad_gakusei/student/tebiki2.pdf
・小田部胤久の論文
今年まで東大の美学芸術学研究室で教授を務めていた日本を代表する美学者です。内容は美学や哲学の前提知識がなければ難しいですが、しっかりとしたアカデミアの文体で書かれているため幅広い分野で参考になると思います。以下は美学芸術学研究室が公開している刊行物のリストで、クリックすれば全文を読むことができます(長いものから短いものまで様々です)。
(その他にも小田部教授は「西洋美学史」などの入門書も書いています)
13、終わりに
ここまでレポートの「型」について私なりになるべく包括的にまとめていきました。レポート作成の一助になれば私も嬉しいです。ただし締め切りは守りましょう。
またこれでも対応できない場合は、学会が公開している一次資料にあたることをお勧めします。そこまで厳密なレポートは私はまだ書いたことがありませんが、いつか考えることになるかもしれません……。
満足のいくレポートができることを願っています。
(2024年8月4日筆者更新)