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2年前、社員数が半分になった話

はじめに

ショートアニメ事業を中心にIPプロデュースを行うPlott 代表のおくしいと申します。

22歳で学生起業したPlottは創業7年が経過し、8期目に突入しました。
ありがたいことに7期は6期と比べて大きく飛躍することができ、従業員数も100名にまで増えました。
直近大きなニュースも控えている中で、紆余曲折あったのに綺麗なPlottだけ見せてもな...という感覚があり、本当に書きたくない失敗談を重い腰をあげて書くことにします。

実はPlottは2年前に希望退職募集を行い、従業員数は100名から50名となりました。
そこに至るまでの背景とそこから改めて100名に至るまでの出来事を、まとめさせていただきます。

「クリエイターの楽園」を目指した

SNSにショートアニメを投稿して沢山の方に見ていただき、資金調達を実施し、組織拡大を目指していたPlottは、組織に対しても高く理想を掲げていました。
それが『完全フラットな自律分散型クリエイター組織』という理想です。

ホラクラシー型組織というDAO(分散型自律組織)に近い運用方式を取り入れ、階層やマネジメントが存在せずに各自が最もやりたいことに向き合う組織づくりを目指していました。
エンタメ企業は、各々がクリエイティビティを発揮して最大出力を出すことで尖った作品を生むことが出来て、そういった尖った作品が会社の売上を作ると信じての方針でした。

またアニメを作るクリエイターたちのことを愛して、シナリオライター・イラストレーター・映像クリエイター・プロデューサーなどアニメ制作に関わる全ての人が沢山いる組織でした。

そして働き方についても、最先端を取り入れ続ける会社でありたいと考えていました。
コアタイム無しのフルフレックスで、その人が最もバリューを出せる時間に働けるようにしてみたり。
コロナ禍ではほぼフルリモートの組織に切り替えて、仮想オフィスツールを取り入れてみたり、ゲームで社内交流を図ってみたり。

クリエイターの楽園になり得るような場所を目指して、様々な組織方針を定めていたのでした。
実際に当時のPlottは変人なクリエイターが集まり、様々なクリエイティブが生まれてくる、クリエイターの遊び場のような組織でした。

ですが、その反面いつしか業績は頭打ちになってしまっていました。

「楽しい会社」を目指してたはずが、「楽な会社」になっていた

事業のための組織というより、組織のための事業という組織先行の戦略に陥ってしまっていたPlottでは、様々なエラーが起きていました。
前提として当時のメンバーに一切非はなく、間違った組織方針を引いてしまい組織の正しい理想像を伝えられていなかった僕の責任です。

フルフレックス制度によって、スタートアップらしいハードワークは少なくなっていきました。
仕事が集まりやすい優秀な人/コミットメントが高い人はハードワークしていて、あまり仕事をしていない人と頑張る人の差がかなり広がっている状況でした。

また、ホラクラシー型組織によって「自分たちの作りたいもの」が「視聴者に刺さるもの/視聴者が喜ぶもの」より優先されてしまっていました。
前提としてコンテンツ制作において「自分たちの作りたいもの」が込められていることは重要で、そこに作家性が宿ると考えています。
ですが、そこに比重を置きすぎるあまり、商業として成立させることが疎かになってしまっていたのです。

自分たちの最高のクリエイティブで最高に面白いものを作ろう!それで成果が出たら最高だよね!という思想でつくりあげた組織は、「楽しい会社」ではなく「楽な会社」「ゆるい会社」になってしまっていました。

リモートワークの大罪

こうなってしまった背景には、コロナ禍でリモートワークの中で組織拡大したことが大きく影響しています。

30人くらいまでのPlottは、スタートアップとしてハードワークしつつ、クリエイティビティと成果の両面に向き合うバランスが取れていた組織でした。
その30人を想定した組織をリモートワーク下で組織拡大しながら続けてしまったことが大きな反省です。

業務が見えずコミュニケーション量が少ないことで、エラーが表面化するまで数ヶ月の遅れが生じました。
数ヶ月の遅れはメンバーがそのエラーを正しいと認識する期間となり、間違った方向に誘導してしまうことになりました。

それぞれの動きが見えないことは、頑張り続けるメンバーにも負荷をかけ、メンタル不調での休職者が数人出ました。
孤独に頑張り続けるということの負荷は、想像以上でした。

また、ゆるい会社は頑張りたいメンバーの意欲を奪いました。
スタートアップに入ってガンガン成長したい新入社員の離脱が数件ありました。
成長意欲を持っている人にとって、適切な環境ではなくなっていたのです。

1人あたりのアウトプットもオフィスに出社していた時と比べて格段に下がり、制作量は以前のままにもかかわらず、制作費がかつての倍以上に膨れ上がってしまっていました。

コミュニケーションの頻度が少ないことで、意思決定がミーティングでしか行われず、経営のスピード感はありませんでした。

そして何よりリモートワークによって、「思い出」が無い組織が出来上がってしまっていました。
成果を出した喜びや、うまくいかなかった悔しさ、頑張ったこと、出来るようになったことなど、何も皆で分かち合う時間がありませんでした。
会社のメンバーとコミュニケーション量が少なくて個人に目が向くメンバーも多く、カルチャーの強い組織を作っていたつもりが帰属意識の低い組織になっていました。

みんなが働きやすい組織を作ることが最高の会社を作ることだと考えて動いた結果が、真逆の組織を作ってしまっていました。
本当に成長する組織や本当にカルチャーの強い組織を知らないままに学生起業で理想論だけで経営してしまった自分の怠慢でした。

カルチャーを270度ひっくり返す意思決定

起きていた様々な組織課題を解決するために経営陣で話し合って、コロナが少し収まり出した2022年の冬に組織方針をひっくり返すことを決めました。
スタートアップとして成長を目指す集団であり、成果に向き合う集団であろうと。

具体的には以下のようなことを決めました。
・フルリモートワークから出社体制に移行する
・ホラクラシー型組織をやめて、ピープルマネジメント・業務マネジメントを行う
・メンバーが行う業務を、演出やクオリティアップのディレクションをメインにする
・長らく不採算になってしまっている作品については、打ち切りを行う

ここまでnoteを読んでいただいた方は「そりゃ当然でしょ」と思うかもしれませんが、この方針へ移行する意思決定は大変重い意思決定でした。
優しく自由であったPlottの良さを削ることであり、そうしたPlottの良さを愛したメンバーが離脱することになる意思決定だったからです。
「楽な会社」「ゆるい会社」であったことは間違いないのですが、そうした自由さを愛してくれていたメンバーがいたことも間違いなく、また自分たちが子どものように愛した作品を終了させることは自己否定をするような本当に辛い意思決定でした。

ですが一部のPlottの良さは、良さとして残したいと考えました。
そのため当時のPlottを180度変えるのではなく、Plottの良さを混ぜた270度の方針変更を目指しました。

クリエイティブに強みを持つ組織であり、人にとことん優しい愛のある組織。
そういうベースを持ちつつ、ビジネスとクリエイティブのバランスを取り、愛のある厳しさも持つ組織に。
「優しくてゆるくて楽な会社」ではなく、「優しくて強くて楽しい会社」に。

社員に求めるアウトプットの基準も一段上のレベルを求めるスタンスに切り替えました。
クリエイティブ意識しかないメンバーにはビジネス意識を求め、ビジネス意識しかないメンバーにはクリエイティビティを求め、専門性の高いメンバーにはより広範囲のクリエイティブを求めました。
より成長意欲がある人が評価される組織を目指して。

資金調達1年半後の希望退職募集

組織方針の大転換によって、離脱するメンバーが出ることが想定されました。
そうしたメンバーのために希望退職を募り、希望するメンバーには退職とともに2ヶ月分の給与をお渡しすることにしました。
資金調達からおよそ1年半後ということもあり、早すぎる意思決定にも感じられましたが、ここで大きな変化を起こさないと偉大な会社になれるはずがないと考えての決断でした。

この準備をしている期間は本当に地獄でした。
全体への伝達の前日、退職してしまうかもしれない若手社員に「おくしい、お疲れですね!元気出してください!」と言われ、無力感でやりきれなくて記憶が曖昧になるくらいまでお酒を飲んだことを覚えています。

2023年1月の伝達の日、全員を集めたZoomを終えた後の社内の雰囲気は最悪でした。
検討期間の1ヶ月を経て、結果として当時100名いたメンバーは50名にまで減ることになり、退職するメンバーに対しては転職先の斡旋や業務委託契約でのお仕事の斡旋を行いました。
前向きに取り組めるはずのない面談や転職斡旋に奔走してくれた人事メンバーには頭が上がりません。

心の支えとなってくれたのは、残る意思決定をしてくれた一部のメンバーたちが「良いじゃん!またゼロからやろうよ!第二創業期だね!」と無理にでも明るく接してくれたことです。
また辞めるメンバーの多くが、業務委託という形でPlottとの関係を続けてくれたこともせめてもの救いとなりました。

炎上が追い討ちになり、団結にもなった

それまでの倍の人数でやっていた仕事量を残ったメンバーが全て巻くことになり、社内は大混乱でした。

2023年春、そうした中で他のYouTuberの方とPlottの作品の動画内容が酷似するという事件が起きてしまいました。
根本の体制にも問題はありましたが、捌き切れない物量によるチェック不足の影響も大きくありました。
改めてご迷惑をかけてしまったクリエイター様や期待してくださってたファンの皆様、本当に申し訳ございませんでした。

クリエイティブに誇りを持っていたPlottの中で、これは追い討ちのような大打撃で「これがPlottだと思われたくない」と何名も悔し涙を流すメンバーがいました。
ですが、同時にPlottの意志を確認するイベントにもなりました。
Plottにいるメンバーはクリエイティブで世界を感動させて時代に名が残るような作品を作りたいメンバーだと、全員が再認識しました。

その後制作フローの抜本的な改革を行い、同じようなことが起きない仕組みへと作り替えました。
ただでさえ人が少なくなって大変だったにも関わらず、これをやり切れたのはメンバー全員のプライド以外の何物でもないと思っています。

オフィスの変化は気持ちの変化

出社体制に移行するにあたって、2023年夏にそれまでのリモート前提のオフィスではなく出社前提の広いオフィスに引っ越しをしました。
「第二創業期」を合言葉に、全員でオフィスの机や椅子を組み立て、全員でオフィスを作りました。

みんなで机と椅子を組み立てました

会社全体のアイデンティティの策定も行いました。
それまでのPlottの海や空の青さのようなイメージを見直し、青さを残しつつスタートアップらしい熱量を加えた新たな会社モチーフが「青い灯火」です。
「青い灯火」をテーマに、みんなでオフィスの壁を塗ったりもしました。

みんなで壁を塗りました
完成したオフィスの壁

オフィスには卓球台が置かれたり、周りに飲み屋が少ないなかオフィスで飲むメンバーのためにフリーアルコール制度を始めたりもしました。

そうして出社体制に移行していくなかで、コミュニケーション量は圧倒的に増え、ワンチーム感が醸成されていきました。
全員で出社して話すことの重要さを感じて、スタートアップとしてのPlottが復活した時期でした。

メンバーの踏ん張りはファンにまで届いた

50人のメンバーを中心に事業にも全力で取り組みました。
ショートアニメは協業作品をいくつもリリースし、IP展開事業部というライツビジネスを行う事業部を新設、とにかくファンの方々に刺さるアニメ周辺コンテンツを模索する日々でした。

その努力の結果、しっかりとファンの皆様に楽しんでいただける新規展開を行うことができ、前期(2023年8月〜2024年7月)は多額の投資をしているにも関わらず、過去最高収益に着地することができました。
ファンの皆さんに支えられていることを改めて実感しました。

また採用にもアクセルを踏んで、およそ2年間で元の100名規模にまで仲間を増やすことができました。

他の経営者の方にお話すると「メンバー数が半分になったのに採用を躊躇しないのか?」と言われるのですが、過去の失敗に囚われてチャレンジを辞めることは絶対に嫌でした。
偉大な会社を作るためにPlottを経営しているのであり、当時目の前に転がっていたチャンスもあるなかでアクセルを踏まないのは違うと思いました。

結果として、当時のカオスな環境で入社してきてくれたメンバーが、いまのPlottを引っ張ってくれています。

エンタメで1番になるしか道がない

当時、組織の方針転換について相談した時、そんなことせず一度会社を売却してしまえば良いと勧められたこともありました。
確かにIPを生み出すことが出来る会社が欲しい会社はたくさんあります。
ショートアニメという新しいアニメ媒体に興味を持ってくださった会社もありました。

でもいざ自分ごととして考えた時に、会社を仮に売却したとしてもやりたいことなんて1つも思い浮かびませんでした。
自分はクリエイティブの仕事が大好きで、コンテンツビジネスが大好きで、一生エンタメの会社しかやらないだろうしやれないだろうと思います。
ディズニーやワンピースを超えるような作品を生み出すことに人生を賭すのが、心底面白いと思っているんです。
僕にはエンタメしかないんです。
だからここで1番になりたいと思っています。

学生起業から始まり、メンバー数が半数になるような組織変化があり、他のスタートアップをM&Aしたり、複数事業を展開したり、これまで様々なことがありましたが、今も昔もこの想いに変わりはありません。

ディズニーを超える、エンタメで1番になる会社を作ります。

そんな意志表明でこのnoteを終えられればと思います。
これからのPlottをよろしくお願いいたします。

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