二応開放(小説)
二応が返ってきた。厳密に言えば、鍵が返ってきた。もっと厳密に言えば、鍵を借りる権利が返ってきた。
コロナ、閉鎖空間への警戒感などもあって、長らく生徒委員会(教員の組織)が鍵を管理し、生徒が依頼して開けると言う形だった。
でも、これって正しいのだろうか。
本来自由とされている生徒活動が、教員の都合に左右されるのはすごくいびつだと、誰もが思っていた。
もっと言えば、教員もめんどくさいと思っていたに違いない。生徒のタイミングで呼びつけられて仕事を中断しなければならないのだから。
そんな中、「そろそろ戻せるのでは」という声が二応、三応両方から上がり出した。
事務所管理にしても、問題はなかろう、と。
その話が教員にも伝わり(というか伝え)、なんとか生徒のタイミングで鍵を借りられるようになった。
生徒証と引き換えに鍵を借りるスタイル。中1以来だ。これは、今日の4限終了後から、ということになった。
鍵を借りられる人のリストを作り、IDを振り分け、それを生徒証に記すシールを用意した。
なんというか、とても楽しかった。明るいニュースだった。
4時間目が終わって、最後の生徒委員会による解錠を頼む。無事開いて、ちょっとしたセレモニーが行われた。
「色々ありましたけど、皆さんお待たせしました。鍵は開ける時と閉める時だけ借りてくださいね、間違えて持ち帰ると、合鍵作ったと教員に思われちゃうので(笑)」
そして、セレモニーが終わり、僕も一通り仕事を終え、閉めようとした時。事務所にはまだ鍵が届いていない、と言われた。
なるほど、生徒委員会がまだ渡してないのか。
でも、教員室には1人も生徒委員会はいなかった。
さっき開けてくれた教員も、どこかへ行ってしまった。
なるほど、どうしようもないな。待っていたら帰ってくるかどうかもわからない。
ドアの前で立ち尽くしていた僕は、その時ふと思い出し、シャツの胸ポケットからチャラチャラと音を立てる束を取り出した。それを僕は突き刺して、回した。
ガチャ、という音がするのを確認した。
(この小説はフィクションです。実際に存在する組織・個人・出来事とはなんら関係ありません。)