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小さい頃の約束を願う一途な幼馴染

森田ひかるさんです

お誕生日おめでとうございます🎉

ドーム最高でした

圧倒的な森田ひかる最高でした

ハレさんの企画作品です

よしなにしてくださいな











ーーーーーーーー












幼い頃の僕は心が不自由だった






自分が今、どうしたいのか分からない


自分が今、どんな気持ちなのか分からない


だからどうしたの?と聞かれても


答えるのに戸惑ってしまう









母が聞いてくる



どうしたの?

寂しいの?

痛いの?

悲しいの?






そのどれにも当てはまらない気がして


首を横に振る








寂しい?

痛い?

悲しい?







母の顔が徐々に焦りの色を帯びてくる


根気強く僕の気持ちを知ろうとしてくれているが


父が早くに亡くなり独り身の母


家事や仕事で忙しい


自分がどうしたいかは説明ができないのに


相手の焦りは理解できてしまった僕は


とりあえず''さびしい''を選んだ







そっかそっか

寂しいの……






よしよし


なでなで


と母が僕を抱きしめて宥めてくれる


本当は寂しかったわけでは無かったのかもしれない


でも


こうやって母に抱きしめられるのは


悪くない気がしたし


僕がうなずいた瞬間の母の顔は


どこかほっとしていたから























ーーーーーーーー















ーー
おおきくなったら''ケッコン''しよう??

















幼稚園に入園し


年中になると女の子の友達ができた


本名が森田ひかるなので


当時は「ひぃちゃん」と呼んでいた


彼女は毎日のように僕にプロポーズしてくれる


結婚というものを漠然と理解していた僕は



○○
''けっこん''……

いいね……



などと幼いながら''けっこん''という

響きに舌鼓を打ちつつ


ほぼ条件反射的に''いいよ''と了承していた



ひかる
やったあ!

ひぃ、○○くんのことだいすき!



そして了承する度に彼女は喜んでくれた


もちろん結婚がどのようなものか


この頃はよく理解していなかった


けれど


受け入れるたびに大喜びする彼女の笑顔が見たくて


僕は安直な答えを出し続けた














ーーーーーー







ひかる
ねえ、○○くん……ひぃのこと''すき''?







年長の頃にもなると


ひかるはそんな質問を繰り返すようになった


プロポーズはあまりされなくなった


''ケッコン''ブームは過ぎ去ったらしい



○○
''すき''、ねえ……



聞かれる度に僕は回答を渋る


なぜなら''好き''というものが


何かは''ケッコン''よりも漠然としていたから


''ケッコン''は契約だ


けれど''好き''ってなんだ?


よく分からない


よく分からないままひかるに回答をするのは


何故か躊躇われた



ひかる
○○くん……おへんじ、まだ?



僕がうんうんうなっていると


徐々に彼女の顔が不安げになる


ちょっと小首をかしげながら


聞いてくる仕草を


当時の僕は愛らしく感じたのだろう



○○
かわいい


ひかる
かわいい?



''好き''と返す代わりに


僕は毎回


そのように返すようにしていた


そうすればその場はしのげるし


ひかるも満更ではない表情を


浮かべてくれたから



ひかる
ひぃ、かわいい?////


○○
うん

ひぃちゃんはかわいい



回答になってない


などと眉をひそめるでもなく


もじもじと手を組んでにまにまする幼女



ひかる
○○くんはかっこいいよ……?////


○○
かっこいい……?


ひかる
うん……////



ひかるは僕をほめた……が



○○
サクラレンジャーよりも……?



当時の''かっこいい''の頂点が


ニチアサの戦隊モノだった僕は


無粋にもそんな質問をした



ひかる
うん……サクラレンジャーよりかっこいい……////



返答に大変満足した僕は


いい気になって変身ポーズを決めまくった


ひかるはそれを見て魔法少女に変身した


先生や保護者の間でウワサの仲良しカップルだった













ーーーーーー









ーー
やーい

サクラレンジャーにひかるん

おれがやっつけてやる~






そんな僕らを見かけると


これまた戦隊モノ好きな同じクラスの△△が


悪役として立ちはだかった


物好きなことに彼は決まって悪役になりたがる



○○
でたな!

かいじん△△!


△△
ははは~

かかってこい~!


ひかる
けんかはだめ!!



僕と△△がヒートアップして


ひかるん化したひかるが


魔法のごとき言葉で鎮静化させるまでが


このごっこ遊びのテンプレだった























それにしても

''好き''ってなんだ?





自分の中に漠然とした疑問がわだかまりとして残る


その疑問を解消できないままに時間は進み


やがて僕らはごっこ遊びをしなくなっていった





















ーーーーーーーー















僕らはそのまま小学校、中学校へ進学し


ひかるはプロポーズをしなくなった












ひかる
○○

また本読んでるの?





ただし一緒にいる時間が減ったわけではない


他クラスであるにも関わらず


ひかるは休み時間の都度


僕のクラスへ足を運ぶ


そんな日常を低学年から高学年

中学に上がっても続けていた



○○
ああ……

ちょっと夏目漱石をね




ひかる
へー……




運命的な出会いだった


小学校の授業で受けた国語の授業


その中で沢山の文豪たちの作品に出会った僕は


彼らの表現方法に強く心が惹かれた






○○
(何でここではこんな表現をするんだ……?)





彼、彼女らは迂遠な言い回しで


恋人への''好意''を伝えた


それのどこがどこでどうなって''好き''なんだ?


正直言って教科書や辞書を読んでもよく分からない







ひかる
じゃあ……○○は坊ちゃん……だね!


○○
……



自分の中で相変わらず''好き''の正体が


掴めていなかった僕はなぜそんな回りくどい


言い回しをするのかとても気になった



ひかる
○○のこと、これから坊ちゃんって呼ぼ



○○
……




だから僕はひかると月が見たいと思った



ひかる
んもう……!無視しないで!
坊ちゃん坊ちゃん坊ちゃ――


○○
ひかる


ひかる
――ん……なに?




僕は手にしていた''こころ''をぱたりと閉じる



○○
来週の9月17日の夜って空いてる?




その日は今年の十五夜の日

そして地元のお祭りがある日だった






















ーーーーーーーー

















来たる9月17日の夜


どんどん


がやがやとしたお祭りの喧騒に包まれながら


僕はどこかそわそわとした気持ちで


彼女を待っていた


台風が来るとか言ってたけど無事に晴れてよかった


そういえばひかるが


「私晴れ女だから大丈夫!」


って謎の自信があったな笑


とにかく今は晴れて良かった











母に祭りへ行くことを伝えると



珍しいわね

○○がお出かけしたいだなんて


と言って大層喜んだ


今思えば僕が自分から何かをしたいと


伝えてきたことがよほど嬉しかったのだと思う


同行者はひかるであることを告げると


これまた大層なにこにこ笑顔になった




○○
(なんでこんなにドキドキするんだろう)




しばらくうわの空になっていると____




ひかる
ごめん……待った?



待ち人はほどなくして現れた


彼女は浴衣姿


見慣れない格好に思わず胸が跳ねる




○○
可愛い


ひかる
えっ……////


○○
そして、綺麗だ


ひかる
……////



ひかるは恥じらいを覚えたのか


この頃は好きだのかっこいいだのと


僕には言わなくなっていた


対して僕は確信を得た自分の気持ちは

端的に表現するようにしていた



ひかる
そういうの……簡単に言っちゃうよね……

○○は……


○○
坊ちゃんだからね


ひかる
なんか言い得て妙……




合流したところで



ひかる
どこを回る?



と彼女が聞いてきた

僕は不思議を覚えて首をかしげる



○○
どこか回るの?


ひかる
え……?

お祭りだし

屋台とか行くんじゃないの?

こういう時……



互いに意表を突かれたような反応


ひかるの浴衣姿が眩しくて


ドキドキに耐えきれなかった僕は


さっさと自分の提案を押し通すことにした



○○
公園に行こう

今なら人気もそんなないし


ひかる
うん?


○○
ひかる……

月を見よう



不思議がるひかるの手を引いて


公園へ向けてゆっくりと歩き出した


やたらと彼女の手が熱を帯びているように感じたから


「風邪だったりする?」


と聞いたら無視された
















○○
ほら……穴場だろ?



うす暗い公園には祭りの熱にあてられた人が


まばらにいるだけで空いていた



○○
座ろ?


ひかる
うん……



二人してブランコに腰かけ空を見上げた


快晴の夜空にぽっかりとお月様が浮かんでいる


十五夜の夜


言うまでもなく満月だった



○○
……


ひかる
……



しばし沈黙



ひかる
……ねえ……なんか話してよ


○○
''綺麗だ''


ひかる
そ、それはさっきも言ったじゃん////


○○
''月が綺麗だ''


ひかる
ああ、そっちね——はっ!?////



月を見続けていると


隣のブランコに座るひかるは


何かピンときたように小さな悲鳴を漏らした



○○
どうした?



そういい


ひかるの方を見ると


うす暗い中でもはっきりと分かるほど


普段は白い頬を朱に染めていた


ただ、どうしたのと聞いてみても俯いて返事はない


だから代わりに質問をした



○○
ひかるは、どう思う?


ひかる
わ、''私もずっと前から綺麗だと思う''……




返ってきたのは震える声


それから僕を見るその目には


うっすらと涙が溜まっていた


何かしらの感動を覚えたらしい



○○
そうだよな


僕もそう思う


ひかると同じ気持ちだよ


ひかる
○○……


○○
だからさ、ほら

もっとよく見ておこ?


ひかる
うん……////



そうして再び


僕らは同じ空を見上げた


しばし月の美しさに呆けていると


ふと、左手に熱を感じた



ひかる
○○……




熱の正体はひかるの右手


ブランコごと僕に身体を寄せて手を握っていた



ひかる
ねぇ……○○……

私のこと……''好き''?




それはいつの日からか何度も繰り返されてきた問


あの日と同じように少しだけ不安げな彼女の声色



○○
……可愛い


ひかる
……んもう(⸝⸝・̆ ・̆⸝⸝)




僕の返答に不満気なひかるは


僕の手を握る力を少しだけ強めた


もうあの頃とは違って


都合よく喜んでくれはしなかった











ごめん、ひかる


それでもまだ僕はお決まりのセリフで


逃げるしかないんだ













ーーーーーー











高校に上がり


文芸部に入った


当然のようにひかるも同じ学校だっけど


部活にまでついてくることは無かった


彼女が入ったのはダンス部












ひかる
ふふん

私が隣に居なくて寂しいかっ!




それでも関わりは続く


親から支給されたスマホで


夜中にこうして電話することもしばしば







○○
ああ……寂しいよ







僕は随分と自分の心を知れるようになっていた


数多の感情には名前があって


それらを知っていくことで心の自由度が増していった




ひかる
……そういうとこ変わんないよね


○○
そうかな


ひかる
でも

前よりも色んな事を言ってくれるようにはなった


○○
でしょ

鍛錬しているからね


ひかる
鍛錬?


○○
そう

部屋に引きこもって机と向かい続けている


ひかる
……ガリガリになりそうな鍛錬だね




電話越しの会話はなおも続いた



ひかる
それで、今日はどんな鍛錬してるの?



○○
今回は寂しさをテーマにした鍛錬だよ






鍛錬

つまるところ、それは短編小説の執筆


文芸部として創作活動を課せられている僕は


毎日机と向かい続けている


心の自由度の高まりはその鍛錬の賜物であった




ひかる
私と会えない時の寂しさを題材にしてるの?


○○
まあ、そんなところ


ひかる
今から会いに行ってあげてもいいんだよ?


○○
それじゃあ鍛錬にならないだろ


ひかる
……






電話口の向こうで


口をへの字に曲げるひかるが見える


構わず続けた



○○
今回の小説

出来が良かったら演劇部の劇として

使ってもらえるらしい


ひかる
あー

どうせまた△△が脇役やるんでしょ


○○
そうだと思う

あいつも相変わらずだな


ひかる
ほんとそれ



幼稚園からの幼馴染である△△は演劇部に入り


悪役から脇役に変わり演じていた


その演技力は迫真のもの



○○
あいつの脇役っぷりはプロレベルだな

こないだ、ちょっと有名な舞台監督さんが来た





ひかる
怪演の△△だとか呼ばれてるらしいね




○○
……詳しいんだな



グッと心を掴まれたような気持ちになって


僕は思わず嫌味っぽく言ってしまった


ひかるから他の男の話題が出る度にこうだ



ひかる
別に……みんな知ってることでしょ


○○
……そっか




心の中で黒い炎が燃える


ぞわぞわぞわぞわと


そんな心情をそのままB5ノートに書き綴った


シャープペンシルが


心地良い音をたてながら紙の上を踊った


僕が黙ったままでいると彼女もまた沈黙で応えた



ひかる
……私ね

今……○○がどんな気持ちでいるか想像してた





しばらくして感情の殴り書きがページに形を成した頃


ひかるが口を開いた


シャーペンの音がしなくなったことから


ひと段落ついたことを察したみたい



○○
どんな気持ちだと思う?


ひかる
聞くの?

意地悪だね


○○
参考までに聞かせてよ


ひかる
……もしかしたら……私のただの願望かもしれない

だから言いたくない



○○
そっか




対して僕は彼女の気持ちを想像した


そうしたら不思議と


僕もそれ以上は聞かない方が良い気がした





ひかる
気にならないんだ?


○○
気にはなる



ひかる
じゃあ、もっとしつこくてもいいんじゃない?


○○
ひかるの願望が予想通りで

僕も同じ願望を抱いていたとしたら

聞かれたくないかもなって




ひかる
……ううん?


○○
大丈夫

答え合わせはできるろ

今度の舞台を見ればね


ひかる
おっ

力作になりそうですか先生


○○
どうかな

僕はまだまだ坊ちゃんだからね





とは言いつつ、確信があった


これは演劇部に使ってもらえると





ひかる
その言い回し、気に入ってるね


○○
うん

一段落ついたし

坊ちゃんだから早く寝ることにするよ


ひかる
ふふ

分かった

じゃあ、また明日


○○
また




通話を切るとなぜか少しだけ楽になれた


目の前には居ないのに


か細い糸で繋がっている気がして


電話は余計にいけない











スマホを充電機とつなぎ


机の上に飾る写真立てを見る


中学の入学式の日に撮影してもらった


ひかるとのツーショット写真だった





○○
よし



覚悟を決め


本格的な執筆のためにノートPCを起動した


勝負はここからだ


この作品で僕はまたひとつ彼女への想いを伝える


















ーーーーーーー











迎えたその日


僕とひかるは二人で学校近くの公民館にて


演劇部の舞台を鑑賞した


演者の挨拶まで見届け


その場を後にした



○○
どうだった?



出来が気になりすぐさまひかるに聞いた



ひかる
すごく良いお話だった


思惑通り僕の小説は舞台の劇として採用された


遠距離恋愛の二人が


不運な擦れ違いながらも結ばれる物語だ



○○
どこが良かった?



ひかる
ふふっ……

主人公が負の感情に飲み込まれそうになって

泣き叫んでたところ





この物語の肝は遠距離恋愛の辛さの描写にあった




会えない間でも相手のことを想ってしまう主人公


彼はそれ故に悶え苦しんだ




『君が僕の目の前にいない間……

他の男と一緒に居るんじゃないかとか

寝取られたらどうしようとか……

そんなことばかりが頭の中を埋めつくすんだ』




作中でのセリフである





ひかる
特に印象に残ったセリフは

『君にはずっと、僕だけを見ていて欲しい』かな




ひかるは少し恥ずかしそうに語った





ちなみにこのセリフ

『縛ることなどできないのに

そう期待せずにはいられないんだよ』と続く





○○
答え合わせはどうだった?


ひかる
……どーだったかな////




ひかるはその白い肌を


りんごみたいに真っ赤に紅葉させている


やたら熱いのだろう


うちわで顔をあおいでいた


○○
ずるいね

僕は頭の中をさらけ出したみたいなものなのに


ひかる
私のこの顔が答えなんだけど////

○○
真っ赤だね


ひかる
知ってる?

○○の顔も今、真っ赤だってこと////


○○
……////








平静を装っていたけど


この時の僕は相当に恥ずかしかった


作中の主人公の気持ちは


僕がひかるに抱くものと同じ


彼女と会っていない間の僕は


他の男にとられやしないかとか


僕だけを見ていて欲しいだなんて


気持ちで頭の中がいっぱいになっていた


文章にするのも恥ずかしいエゴまみれの僕


でも


ひかるは僕にそんな風に想って欲しいと願っていた









ひかる
私と会っていない間も

○○は私のことでいっぱいなんだね


○○
いっぱいだよ

ひかるを僕だけのものにしたい


ひかる
わ、私はものじゃないし////


○○
分かってる

だけど、そう思ってしまっても仕方がないよ


ひかる
もー、言い方どストレート過ぎるから……////





並んで歩く帰り道


誰もいないのを確認すると


ひかるは僕の手を握り


指を絡めた





ひかる
○○、私のこと''好き''過ぎでしょ



○○
……ところでこれ

どっちの回答が正解なんだろう





ひかる
この期に及んで話題逸らします?



怪訝そうなジト目を向けられながらも


二人仲良く帰路についた


互いに見えない答案用紙を破り捨てるようにして


他愛ない会話へと話題がうつる


しばらく何の気なしに歩いていると







ーー
壁|ω゜)ジーッ







○○
……?(・ω・ = ・ω・)


ひかる
どうしたの?


○○
いや、なんでも



途中


なじみのある気配を感じた気がしたが……


恐らく気のせいだろう






















ーーーーーー
















そんなこんなで僕らは大人になっていった


大学在学中から作家としてデビューした僕


ダンスを続けながら学生生活を謳歌するひかる


通う学校は違ったけど


ひかるが僕の家に頻繁に足を運んでいたため


ほぼ毎日顔を合わせていた


口約束も何もなくとも


明確な関係であることを公言していなくても


僕たちはもう恋人のようなものだった


充実した日々が続くその最中


事件が起きた
















○○
ごめん、お待たせ

ひかる



夕暮れ時に呼び出された僕


ひかるが大事な話があるとのこと




ひかる
ごめんね

こんな時間に



待ち合わせ場所の公園に学校帰りのひかる


大学生になったひかるは


周囲から羨まれるほど美しくなっていた


元から美人だったけど


垢抜けてさらに美しくなっていた


ミスコンに推薦され


学内外広報誌に掲載されるほどの美しさ








○○
いいよ

ところで、話って?



自販機で買ったホットココアをひかるに手渡し

ベンチに腰かける




ひかる
…………


○○
……?

ひかる?



いつも太陽ように晴れ晴れとしたひかるが


雨のように俯きどんよりしている





ひかる
実はね……○○……


私……プロポーズされちゃった



○○
ぶっ!



僕は飲んでいた缶コーヒーを吹き出してしまった


唐突過ぎて吐血したみたいになった





○○
だ、だ、誰に……!?


ひかる
△△


○○
は!?




△△は今や名脇役の有名俳優として


名を轟かせていた


彼と結婚すれば


もしかしたらひかるは一生幸せかもしれない


僕も小説家として稼いではいるけど


彼と比べればしがない物書きに過ぎなかった



○○
……どうするんだ?


ひかる
……どうしてほしい?


○○
どうしてほしい???


ひかる
私、こうやって毎日のように

○○の家に来てるし寝泊りだってする


○○
……


ひかる
私はずっと

ずっとずっとずっと

○○のことが大好きだけど

でも交際宣言をしているわけでもなければ

キスも……それ以上のことも……まだしてない……




ひかるは険しい表情で続けるけど


僕には彼女が何を言わんとしているのか分からない



ひかる
だって私……

まだ○○の口から聞けてない

私のこと______





ーー
スト~ップ

いったん話はそこまでだ





○○、ひかる
△△!?!?!?



話し込む僕たちの目の前に


スーツ姿の△△が現れた


交流は続けていたが


この頃はお互いに多忙で会う機会が全然無かった


△△
久しぶりだな、○○


○○
△△……



僕はひかるを庇うようにして前に出る


△△は一段と風格が増しているように見えた



△△
おやおや

なんだよ敵を見るような顔をして


○○
いきなりひかるにプロポーズなんて……

どういうつもりだ?




△△
どういうつもり、だと?

それはこっちのセリフだ




見下すような視線を向けてくる△△


高身長で顔が整っているため、さまになっている


分かりやすく言うといけ好かない




△△
明言を避け

のらりくらりと告白を先延ばしにして……

ひかるが可哀想だと思ってね


○○
……ッ


△△
俺より全然稼いでもいない上に

大して面白い作品を

生み出しているわけでもない……

ひかるの好意を独占し続けるなんてありえない

ひかるが不幸だ





勝手に決めないでほしい


決めないでほしいが


正直、一理ある





△△
こんなに可愛くて美しく立派な女性を

いつまでも放っておくわけにいかないだろう?

俺ならいつだって

君の一番欲しい言葉をあげられるし

何でもしてあげるよ?ひかる♡




キザったらしく△△は言うと


僕の後ろに隠れるひかるに手を伸ばす


ひかる
嫌、来ないで……!



ひかるは小さく震え


僕の背中をぎゅっと掴んだ



○○
止めろ

ひかるに触るな




僕は△△の伸ばした手を払いのける




△△
なぜだ?

ひかるは別に君の好きな人

というわけでもないのだろう



△△の問いにたじろぐ


ここで言ってしまえばいいのかもしれない


でも、こんなところで言ってしまえるほど


僕の認(したた)めたひかるへの気持ちは


安いものではなかった


だから____




○○
大切な人だ

ずっとそばにいて一緒に居たい

僕の……俺の大切な人

結婚して死ぬまで一緒に居て

俺が幸せにしたい人だ


ひかる
○、○○……!?////



だから今はこれで精一杯だ



○○
ひかる……こんなタイミングでごめん

順番が滅茶苦茶だけど……僕と結婚してくれないか?


ひかる
へ……?

ええええええええええ!!?





僕が跪くとひかるは絶叫した


突然目の前に婚約指輪が現れたからだ




△△
ははは

付き合ってもいないのに結婚!?

笑わせるなっ!




自分のことは棚に上げて嘲笑する△△


しかしすぐにその笑顔は引きつることとなった




○○
そのための準備ならもう整えた


△△
は……?


○○
式場も押さえてあるし

ひかるさえ良ければすぐにでも挙式は決行できる


△△
なん……だと……?



予想外過ぎたのかフリーズする△△



○○
どうした?

台本に書いていないことには

対処しようがないのかい?

一流俳優さん


△△
くそ……

俺のアドリブ力をなめるなよ!!

二流作家風情が!!




言うや△△はずびしぃ!


と僕に指をさす





△△
では、君たちの友人代表スピーチをしてやろう



○○
は……?



△△
○○……

君が見事な結婚式のシナリオを描けたのなら

俺は最大限の祝福を贈ってやる

ただし……それができないのなら……

君たちの挙式を滅茶苦茶にしてやる!



ひかる
そ、そんな……ひどい


○○
良いだろう

受けて立つ


ひかる
○○!?


△△
はっはっはっは!

威勢だけは良いねぇ二流作家くん!

じゃあ、楽しみにしているよ!





△△くるりと背を向けると


高笑いしながらその場を後にした



○○
ひかる……勝手なことをして本当ごめん


ひかる
……ほんとそれ


○○
同じ気持ちでいるなんて

本当の意味で解るはずないのにな


ひかる
でも信じてくれたから

ここまで準備してたんでしょ?




そうだ


彼女の言う通り


僕は彼女と同じ気持ちでいると確信していた


だからこそここまでやった



ひかる
私、小さい頃の約束

ちゃんと覚えてるよ



○○
ひかる……


ひかる
だから嬉しいの

どんな形であれ

○○からプロポーズしてもらえて




そう言ってひかるは僕と正面から向き合い


抱きしめた


僕は大人げなく泣いた








ひかる
私、○○のプロポーズを受けるから


○○
ありが……!?

((ガシッ

いたひ、いたひ!




突然、頬を引っ張られた



ひかる
その代わり

さいっこーの結婚式にしてくれないと

死ぬまで根に持つんだからね!!




○○
は、はひ……



こうして僕のプロポーズは成功した





けど







問題はここからだった





















ーーーーーー










結婚式当日





進行は滞りなく進み


いよいよ山場となった


親族を始め


友人、出版関係者と幅広いメンツが会場に並ぶ中


挙式の成功を左右する''物語''が始まった





司会
それではここで

新郎様の想いを綴った

特別ムービーを披露いたします!






会場はうす暗くなり


スクリーンにテロップが浮かぶ







''すべてはあの頃から始まった''





それから音楽と共に写真が映し出され……


現れたのは変身ポーズを決めた幼い頃の僕とひかる


無邪気なあの日の僕らに会場から笑いが漏れる



ーー
あはっ

小さい頃の○○とひかるじゃん!


ーー
仲良しだったよなあ、昔から



昔からの友人たちがささやき合う






''ケッコンの意味も分からないまま

プロポーズをされたあの頃''








両手を繋ぐ僕とひかるの写真









''君の喜ぶ顔が見たくて無意識に了承していました''







隣に座るひかると目が合う


口元を軽く押さえ、瞳を涙で潤ませている






''好きの意味も分からないくせに

プロポーズを引き受ける、軽薄な男の子でした''






ひかる
ほんと、それ……




○○
ははは

小声で笑い合う、僕とひかる








''月を見に誘った十五夜のあの日の夜''




画面には、祭りの日撮ったであろうあの日の二人



''好きが何たるかは解っていなくっても

ひかると月が見たいと思ったのでした''





ーー
作家っぽい!


ーー
さすが、○○さん




出版関係者からの声が聞こえる



○○
はは……ひか――





隣を見やるとひかるはもう既に

静かに……静かに涙を流していた




それでもまっすぐ


スクリーンから目をを外さないでいてくれる


あの日、月を一緒に眺めていた時のように






''年頃になり、一緒に居ない時間も増えましたね''





高校生の二人


文芸部の仲間と僕との写真と


ダンスの一団の中のひかるの写真





''あなたと会えない事の寂しさを

沢山味わうことになりました

でも

そのおかげで立派な作品を書くことができました''






演劇部の舞台に使われた僕の原作小説


△△の事が気になって会場の一席を見やる


△△の表情は――



△△
……うぅ……😭



えぇ、泣いてる!?


予想外過ぎるほどの大号泣


思わず立ち上がりそうになるが


とりあえず座っておく





''心が不自由な僕に、あなたが自由をくれました''








次々と映し出されていく、僕らの日々の写真


僕自身も思い出して感慨深くなる






''あなたに抱く感情の正体を知りたくて

辞書を引き、小説を読み

創作に明け暮れた日々が僕を作ってくれました''






僕の人生は、ひかる無しでは語れない




''そんな僕から、改めて伝えたいことがあります''




そこで映像は途切れ


会場の照明が落ち、一瞬闇に包まれる


かと思えば、その数秒後にはスポットライトが差す

光差す場所は、新郎新婦席の前

僕らが立つ場所だった



○○
ひかる……


ひかる
はい……




○○
可愛いね




不意に出た一言に、会場が一瞬だけ笑みが綻ぶ


ひかるも照れくさそうに微笑みながら


僕の肩を叩いた


○○
ひかる


ひかる
はい


○○
ずっと待たせてごめんなさい


ひかる
……



僕はずっと''好き''と伝えることができなかった


○○
どうしても僕の中で''好き''という気持ちが何なのか

解らないままでした



''好き''という言葉は曖昧で

僕の中で何が''好き''なのか解らなかった


○○
確信が得られないことを

ひかるにだけは伝えたくありませんでした

彼女にだけは誠実で在りたかったから













○○
結局のところ

いくら言葉を尽くしても

この想いを伝えるのには無理がありました

だけど……それでも……










○○
それでも数多の感情や心を言葉にしていく中で

僕は辿り着きました





目の前のひかるがまっすぐに僕を見つめる




○○
あなたの笑顔が見たい

あなたと月が見たい

あなたを誰にも渡したくない

あなたを幸せにしたい……

そんな気持ちの全てが

一つの言葉に集約されるということに



負けじと彼女の目を見つめ返す


喜びに潤ませるその瞳を




○○
ひかる……僕は、あなたが''好き''です

そして、''愛しています''


ひかる
○○~~~~~~~!!


((キーン



感極まったひかるの声がマイクに届き


若干ハウリングする


僕はマイクを切り


跳び込んでくる彼女を受け入れた




会場中から大きな拍手が鳴り響く



ひかると抱き合ったまま視線を浴びる


みんなが席を立ち、僕らを見つめていた


ハウリングしたことなんて


気にも留めないと言わんばかりの


盛大な拍手だった














ーーーーーーーー


















その後、順調に進み結婚式は無事にお開きに




○○
お疲れ様、ひかる


ひかる
お疲れ様、○○





ここはホテルの一室




僕とひかるはまったりとした時間を

余韻を過ごしている





ひかる
結局、△△は面白いスピーチしただけだったよね笑



○○
そうだね笑






スタンドマイクの前に立った△△は


まさに名悪役だった




△△
俺は綺麗で美人で優しくて

一途なひかるに好かれる○○がうらやましい……

畜生!!!

こんな素晴らしい結婚式を挙げやがって……!!




そんな具合で続いた彼のスピーチは


最後には



△△
覚えてろよ!!!今日というこの日を!!!!


というセリフで締めくくられた




○○
会場中が爆笑だったな笑


ひかる
ほんと!空気が一変したよね笑



察するに


あいつは僕のためを思ってけしかけてきたのだと思う


初めから邪魔するつもりなどなかった




ひかる
いい友達だよ

ほんと




○○
悪役だけどね



ひかる
ほんとそれ笑





肩を揺らして笑い合う僕ら


ベッドに腰かけ、並んで寄り添う




ひかる
は~、本当に嬉しかったよ、○○





と言いながらひかるは僕の手を握る


シャワーを浴びたばかりで温かい


いい匂いもする



○○
そう言って貰えると僕も嬉しいよ




僕も返事をするように彼女の手を握り返す


互いに脈拍が上がっているのが分かる



○○
……


ひかる
……


○○
……で、でさ、ひかるさん

今日は初夜なわけですが……


ひかる
そうだよ!初夜だよ!ε-(`・ω・´)




○○
……元気だね(;゚∇゚)


ひかる
当たり前





彼女は言うやいなや


僕の身体をベッドに押し倒す




ひかる
○○、言ったよね?

いくら言葉を尽くしても無理があるって


○○
う、うん……言ったね……


ひかる
じゃあ……もう言葉以外で尽くすしかないよね?





見下ろしてくる彼女の圧力に


息をのむ




ひかる
散々待たされたんだから……

今日は寝かせてあげないのだ












唐突なハム語笑


てか根には持ってるんだな――















そう言おうとした口元は


柔らかい感触に塞がれて
















僕らはその夜


主に非言語で語り合った



















ーーーーーー











それから数年


















ひかる
○○、はい、コーヒー


○○
ありがとう



マンションの一室にて


僕らは仲睦まじく夫婦としての生活を送っていた






ーー
ママー、あいりもー


ひかる
愛季にはオレンジジュースね





そして二人の間には、愛娘もいる





○○
愛季~


愛季
えへへ




ソファに並んで座る愛娘を撫でる


目の中に入れても痛くない


僕らの愛の結晶だ


ひかる
ママにもなでなでさせて~?


愛季
えへへ~






僕とひかるで愛季を間に挟んで座る


左右から頭を撫でられる愛娘


されるがままになっているが


その表情はニコニコと嬉しそうだった












作家としての仕事も楽しみつつ


父親として過ごすこんな時間も充実させている


控えめに言って最高の人生だ___



愛季
あっ



その時


ジュースを飲んでいた愛季の手から


コップが滑り落ち、飲み物が床に広がる




愛季
うわああ~~~ん!!😭



愛季は泣き出してしまった



ひかる
あらあら、大丈夫よ~

ママがすぐに拭いてあげるから



愛季
ごめんね、ママ……


○○
また注いであげる

はい、コップを置いて___





ひかるが床を拭いてくれている間


僕は愛季のコップに新しいのを注ごうとした





愛季
……


○○





しかし愛季の表情は浮かない


いつもはありがとうと言うのに……


○○
どうしたの?愛季?

なにか嫌なの?




愛季は俯く……




○○
悲しい?切ない?辛い?




選択肢を与えるがどれにも愛季は頷かない


恐らくピンとこないのだ


愛季は基本ひかるに似ている


が、こういうところは僕にそっくり



○○
……ママの入れてくれたジュースが

なくなっちゃったのが嫌?




愛季
うん


○○
そっか

なくなっちゃったのが嫌だったんだね






また注げば良いかもしれない


でも、愛季にとってこぼれたジュースは


ママが注いでくれた大切なジュースだった




○○
愛季は優しいね



愛季
やさしい?


○○
そう、優しい




僕は愛季を抱擁し、確信した


きっとこの繊細さは心の豊かさにつながる


だから___


○○
愛季はこれから、とっても自由になれるよ





ひかるが僕の心を作るきっかけとなったように


今度は僕とひかるが愛季の心を自由にしてあげたい




○○
背中に羽が生えてお空を飛べるようになるかも


愛季
え~!?


○○
ふふふ

パパは魔法使いだからね……

ほら、愛季



愛季に視線で前を見るよう促す


愛季
あっ、あれ!?



そこには元に戻ったかのように


コップに注がれたジュースが


ひかる
ママの魔法よ


愛季
ママも、魔法使い!?


ひかる
そうだよ



ひかるがムフフと笑う



愛季の目が輝く


愛季
じゃあ、あいりも!?


ひかる
そうだね

使えるよ、魔法


○○
可愛い可愛い魔法少女だ



僕は再び愛季の頭を撫でる


ひかる
……( ˙꒳​˙  )ジーッ



それを見たひかるが一瞬


もの欲しげな視線をくれる


○○
ひかるも可愛い


ひかる
……ふふ

それから?


○○
可愛いし

''大好き''

''愛してる''


ひかる
……私も○○のこと

''大好き''

''愛してる''




ひかるの瞳がとろんとして


僕はうっかりキスをしてしまいそうになる___



愛季
パパ!ママ!

あいり、おとうとほしい!


○○、ひかる
!?!?



そこに飛び込んだ愛季の一声


僕らは思わずたたずまいを正す



愛季
あいり、おねえちゃんになりたい!


○○
そ、そっか




ちらりとひかるの顔をうかがう





ひかる
ふふふ

晩御飯はうなぎにしよっか🎶







ヤル気だった






ひかる
すぐにお姉ちゃんにしてあげるね

愛季!


愛季
ほんと!?

やったあ!



○○
は、ははは………






どうやら今夜は眠れそうにない


柔らかな陽射しの差し込むリビングに


僕らの明るい声は賑やかに続いていくのであった
















____fin

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