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困難に立ち向かう、民衆の物語「第17回難民映画祭」プロジェクトストーリー

PROJECT NOTE
第17回難民映画祭(国連UNHCR協会)

2018年からプロボノデザイナーとして、「難民映画祭」のクリエイティブ面を支援しています。

「難民」という言葉に対する人々の認識はさまざまで、背景や経験、情報源によって大きく異なります。一部には、難民に対してネガティブな印象を抱く方がいることも事実です。だからこそ、私は「難民映画祭」のプロジェクトにおいて、全ての視点に配慮したコミュニケーションとデザインを重視しました。今回は、デザインの力を通じて「難民」というテーマにどう向き合ったのか、その背景や取り組みをご紹介します。


難民に対する「見方」を再構築する

©︎国連UNHCR協会

難民に対するネガティブな印象の多くは、固定観念や不十分な情報に基づくものです。特に、難民を「支援が必要な弱者」や「社会的な負担」と見る視点は、しばしば感情的な反応を引き起こします。一方で、難民が持つ強さや可能性に目を向けることで、彼らが私たちと同じ「未来を築く仲間」であるという理解が広がると考えました。

2017年当時、私は難民映画祭のブランドロゴとステートメントの制作に携わりました。この中で目指したのは、「難民=困難に立ち向かう力強い民衆」として再定義すること。彼らの背負う課題だけでなく、生き抜く強さや希望、未来への意志を伝えることにフォーカスしました。


ネガティブな印象への配慮――「共通点」を描くアプローチ

難民に関するネガティブな印象を和らげるためには、彼らが私たちと異なる存在ではないことを伝えることが重要です。そのために私が重視したのは、「共通点」を描くアプローチです。

1. 普遍的なテーマを通じた共感

たとえば、映画祭のビジュアルでは、難民の背景にある「家族」「夢」「希望」といった普遍的なテーマを表現しました。これにより、「自分たちと同じ感情を持つ人々」という視点を観客に届けることを意識しました。

2. 個々のストーリーを前面に

「難民」という抽象的なカテゴリーではなく、個々のストーリーを伝えることも重要です。映画祭では、上映作品を通じて一人ひとりの背景や経験を描き出し、観客がその人物に感情移入できるよう工夫しました。


デザインにおける配慮――「中立性」と「ポジティブさ」

難民映画祭のクリエイティブでは、視覚的にも慎重なアプローチが求められました。

1. 偏見を生まない「ニュートラルなデザイン」

難民映画祭のビジュアルでは、あえてポジティブでもネガティブでもないニュートラルなデザインを心がけました。感情を過剰に煽る表現を避け、情報の受け手が自分自身の考えで映画と向き合える余白を作ることを意識しました。例えば、色彩やモチーフも主張を抑え、映画祭の本質である「映画そのものが語る力」を支えるデザインに徹しました。

2. ストーリー性を重視

映画祭に参加する多くの人が「難民」の具体像を知らないまま来場することを考え、物語の力を使って視点を広げる工夫をしました。ポスターやSNSの投稿では、「難民」という抽象的な存在ではなく、映画の中で描かれる個々のストーリーを前面に出しました。これにより、観客が彼らを「他人ごと」として見るのではなく、「自分と同じ生活を送る人々」として捉えやすくなる効果がありました。


ブランドメッセージを構築する際のポイント

ブランドメッセージを作る際には、以下の3点を軸に考えました。

1. 「希望」を中心に据える
難民映画祭のメッセージの核は「希望」です。映画を通じて描かれるのは、ただの困難ではなく、それを乗り越える力強さです。これが、多様な視点を持つ観客にも共感を生む要素となります。

2. 「行動のきっかけ」を提供する
ただ情報を伝えるだけではなく、観客が次のアクションを起こせるよう、映画祭では具体的な支援の方法や活動への参加機会も提供しました。「自分も何かできる」という感覚を生むことが、理解を深める第一歩です。

3. 対立を煽らない
議論の余地があるテーマほど、メッセージには慎重さが求められます。「あなたが間違っている」と主張するのではなく、「この視点もある」という柔らかなアプローチを意識しました。


SNSマーケティングで共感を広げる

難民映画祭のメッセージをより多くの人に届けるため、SNSを活用しました。特に効果的だったのは、短い動画やストーリーテリングを用いた投稿です。難民個人のストーリーを紹介し、彼らの人間性や希望を描くことで、観る人に感情的なつながりを生みました。

また、映画祭の期間中には観客がSNSで感想をシェアできる仕掛けを作り、リアルタイムでの対話を促進しました。これにより、多様な視点が交わる場を提供することができました。


共感から生まれる行動デザイン

「難民映画祭」での経験は、デザインが持つ社会的影響力を強く実感させてくれるものでした。ネガティブな印象を和らげ、共感と行動を促すデザインは、慎重さと大胆さを兼ね備えたアプローチが求められます。

この経験が、読者の皆さまのクリエイティブ活動や社会的プロジェクトの参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございます。記事にスキをいただけると励みになります。また、難民映画祭は毎年開催していますので、ぜひSNSをフォローいただけると幸いです。

https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff

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