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「大熊の実家に帰りたい」妻の思いを支え続ける、元自衛官。【おもせ〜ひと vol.2】

福島県大熊町の”おもせ〜ひと”(=面白い人)を数珠つなぎ形式でご紹介するインタビュー企画「おおくままちの”おもせ〜ひと”」。

2人目にご紹介する”おもせ〜ひと”は、大熊町の交流スペース、「クマプレ」に勤務されている、吉田喜一さんです。

吉田喜一さん
前回ご紹介した吉田幸恵さんの旦那さん。
福島県郡山市ご出身で、前職は自衛官。35年間陸上自衛隊に勤務されていたそうです。
現在は、大熊町出身の妻・幸恵さんの「地元に帰りたい」という希望を叶えるべく、大熊町よりも先に、避難指示が解除された楢葉町へ生活拠点をうつし、ご夫婦で大熊町の交流スペース「クマプレ」でお仕事をされています。

インタビュー開始前、席についた途端「私は何もしていません!」と1人で「取調べごっこ」を始める、そんなお茶目な一面もある喜一さん。

(喜一さんのお茶目な一面が垣間見える過去の記事がこちら:https://note.com/okuma_town/n/nbf80cb54cd7a

前職の自衛隊とは異なる仕事の楽しみや、「幸恵さんについていく」という言葉にこめられた思い、地元ではない大熊町で働いてみて印象に残っていることなどについて、お話を伺いました。


━まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

喜一:出身は福島県郡山市。出身と言いながらも、陸上自衛隊の方で35年勤めていたので、転勤を繰り返していて、郡山よりも他の生活の方が長いです。大熊町に住んだことは無いですが、「見回り隊」っていうのがあって、この地域のパトロールをしていたことがあるので、震災後の環境はわかります。

━現在はどんなお仕事をされているんですか?

喜一:一言で表せば「なんでも屋」ですね。Twitterでの情報発信や、来訪者の対応、飾りつけ、備品の管理や修理、草刈りなど、色々やってます。

自衛隊にいた頃には味わえなかった、人と触れ合う楽しさ

来訪客をボッチャでもてなす喜一さん

━クマプレでお仕事されていて、1番楽しいことはなんですか?

喜一:色んな人と触れ合えるのが、1番楽しくて、面白くて、興味深い。

35年間陸上自衛隊に勤めていて、今まであんまり職場以外の人と触れ合う機会がなかったんです。国から言われたことをやる、上からの指示に従って動くっていう世界にいたので、外のこととか、考えなかった。

ここにきてからは、色んな人がいるんだなって。色々な業種の方がいて、ふらっと様子を見に立ち寄ってくれた人もいて、ここに来た経緯とか、そういう話をしてくれるんだけど、それが楽しいですね。

━自衛隊の時には味わえなかった?

喜一:自衛隊の時には味わえなかったですね。前職で人とそんなベラベラ喋ってたら職務怠慢になっちゃう(笑)。

「なんでもない景色だけど、それをみてほっとする人がいるんだなって」

植物への水やりも仕事です

━色々な人と出会う中で、印象に残っている出来事はありますか?

喜一:一時帰宅とかで来る方が、この辺から外の景色をだーっと見て、「やっぱり落ち着くねー」って一言。
今は(町外に避難していて)住んではいないけれど、でもやっぱり自分の故郷に来て、なんか落ち着くよねって言ってるのを聞いて、「ああ、それが故郷なんだな」って初めて思った。俺は大熊町が故郷ではないから、外の景色見ても「草伸びてきたな」ってくらいしか、これまでは思わなかったんだけど、「この辺って良いところなんだな」って、思い直しました。

なんでもない景色だけど、それをみてほっとする人がいるんだなっていう。戻ってこれるもんなら戻ってきたいっていう人がいるんだなって。

ぱっと見、みんながみんな町を捨てて行ったように思っている人もいるけれど、捨てていったんじゃなくて、思いもよらず出ていかなきゃ行けなくなった。そんな中で、ここがいいなって思ってる人がいるんだなっていうのを感じますね。

「運命共同体じゃないですけど、幸恵さんがやりたいことがあるなら、それに乗っかっていこうかなと」

カチューシャがお似合いすぎる喜一さん

━そもそも、喜一さんが大熊町で働くことになったのはなぜですか?

喜一:大熊町にきたのは、妻である幸恵さんが大きなきっかけの一つで。
幸恵さんは、どうしても大熊町が変わっていく姿を自分の目で見ていきたいっていうのがあった。ただ、幸恵さんは障害があって体が自分の思うように動かない時があるので、その手助けをするためにも、どうせだったら一緒に仕事ができればいいかなと思っていて。そうしたら、たまたまこのクマプレの仕事があったので、大熊町で働くことになりました。

━幸恵さんの希望を叶えるために大熊町に来られたということですね。一緒に町へ戻るということに対して、どう思われていますか?

喜一:一緒になった以上はね、運命共同体じゃないですけど、幸恵さんがやりたいことがあるなら、それに乗っかっていこうかなっていうのがあって。俺がやりたいことが大してない以上、幸恵さんがやりたいことは、できるだけ尊重してやっていきたいなって思う。
ましてや幸恵さんの場合はね、手助けしないとダメな時もある身体なので。誰が助けるんだって言ったら、俺しかいないよねって。

━幸恵さんがやりたいことが、喜一さんがやりたいことなんですね。

喜一:幸恵さんがあれをやるって言ったらついていくし、大熊町へ帰るって言ったら帰るし、やっぱりやめるって言ったらやめるし。あなたの主観はないんですか、主張はないんですかっていう人もいるかもしれないけれど、別に俺は良いと思ってやっている行動なので。
自分の妻や、子供への思いが強くて、それに引っ張られていく家族があっても良いんじゃないかなって。それで家族が幸せになれればいいと思う。

━幸恵さんのご実家のある場所は帰還困難区域に指定されているので、まだ大熊町に帰ることはできないんですよね。もし指示が解除されたら、大熊町には戻られますか?

喜一:幸恵さんが戻りたいって言えば一緒に戻るよ。そこで何かやりたいっていうならやるし。でもやっぱりやめて、今住んでいる楢葉町にいたいっていうんなら、戻るのはやめて、さつまいもでも作ればいいし。私はもう妻に身を預けているので。

━大熊町は、喜一さんの目にはどのような町に映っていますか?

喜一:震災後、「何もなくなった」っていう人がいるけど、別に何もなくはない。ちょっと寂しいなって感じはするけれど、でもまだここから段々人は戻ってくるだろうし。大熊町に、色んな意味で興味を持っている人がいるなっていうのはわかっていて、条件が整えば、住んだりしてくれる人がいるのかなって思っているので。

俺はこの景色をみて、何も無くなってしまったとか、寂しくなったなとかって思わなくて、これからまた再建していくっていうか、復興していけばまたそれなりに栄えるんだろうなって。そんな感じはしてますね。ただスピードがゆっくりだっていう話で。

普通にみんな動いているし、生活している

━最後に、今これを読んでいる方に伝えたいことがあればお願いします。

喜一:Twitterとかでいつも言っているのは、まあ色々言わずにとりあえずここに来て見れば良いんじゃないって。あんまり身構えて、放射線あるんじゃ無いかとか、変な生き物が出てくるんじゃ無いかとか、訳のわかんないこと言ってないで、まずは現地を見てみたらって。だって、来てみりゃ別に普通でしょ?ちょっと不便なだけで。

━そうですね。思っていたより、普通に生活が送れそうだなというのは私たちも来てみて思います。

喜一:変な先入観を持って、処理水だの、放射線だのっていう人がいるけれど、普通にみんな動いているし、生活しているしっていうのをみてもらいたい。

そこで何を感じるかっていうのは人それぞれ違うので、あなたもここに住んでみませんかって、そんなことを言うつもりはない。ただ、百聞は一見にしかず。来てみないとわからないよっていうところで。なかなかのどかで、良い感じっすよ。遊びに来るだけでも全然良いです。


編集後記

自衛隊という、今働かれている環境とは全く違うところにいたからこそ、人とのふれあいに楽しさを感じられているというお話が印象的でした。
また、妻である幸恵さんがやりたいことが、喜一さんのやりたいことになっている、そんな2人で1つの人生を歩んでいるような感じが、とても素敵だなと思いました。

この記事を読んでくださった方は、ぜひ喜一さんに会いに大熊にきていただきたいです。それくらい、魅力あふれる"おもせ〜ひと"ですよ!!

インタビュー:殿村・中井
編集:殿村

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